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第9話:最低ですね

 ローラ──もといカンナのその冷め切った瞳は、刃のようにローラの家族達を突き刺した。彼等の知るローラ・シュバリエが、決して家族に向ける事のないその表情。

 ラグナはあまりの事に言葉を失い、エリーラとレオンは口を開けたまま固まった。だがルイは、その身体を震わせながら口を開く。


「ほ、本当に……ローラ姉様は死んだ、んですか……?」

「はい。死にました」

「そんな……姉様……ッ」


 即答するカンナに、ルイは顔を覆う。そして次の瞬間、ポロポロと涙を流し始めた。


「……」


 そんなローラの弟の姿を見ても、カンナの表情は変わらない。

 

「先に言っておきますが、私の本当の名前を教える気はありません」

「なに?どういう事だ?他人の身体を勝手に乗っ取るようなマネをしておいて……ッ!」

「レオンお兄様はずっとうるさいわね」

「はぁ!?」

「だってわざわざ教える必要はないでしょう?私はもうすぐこの身体を、ローラを殺すんだから」


 カンナがそう言った次の瞬間、ラグナが彼女の腕を掴んだ。


「そんな真似はさせんッ!」


 力強く掴んだその手、しかしカンナは痛い素振りを見せることなく、冷静に口を開いた。

 

「……その焦りよう、やっぱりそうでしたか」


 そう零したカンナは、腕を掴んでいるラグナの手を反対の手で掴み返すと、お返しと言わんばかりに彼の腹に目掛けて勢いよく膝蹴りをお見舞いした。


「がっ!?」

「旦那様ッ!」

「お父様!」


 予想外の攻撃に驚いたラグナの手が離れ、エリーラが慌ててラグナに駆け寄った。レオンは元凶であるカンナを睨み付け、その胸倉を掴み上げた。


「貴様ァッ!」

「あら、お兄様もお父様の二の舞いになりたいの?」

「ッ!」


  しかしカンナの表情は変わらない。ローラの美しい美貌をそのままに、バカにしたようにレオンを笑う。

 

「お兄様の好きにすれば?私はこの身体が傷付く事に抵抗はないから。あ、そのままこの顔を殴ってもいいわよ」

「このっ!」

「やめろレオン!」


 レオンが拳を振り上げたが、ラグナの静止に動きを止めた。


「その手を離せレオン。私は大丈夫だ」

「お父様……」


 レオンを押し除け、ラグナが前に出る。

 

「ローラ……と呼んで良いか分からないが、どうか死ぬのはやめて頂けないだろうか」

「なぜ?」

「ローラはロディアス殿下の婚約者候補に選ばれた。ローラの幸せの為だ。どうか……」


 バシッ!


 大きな音がサロンに響いた。しんと、一瞬だけその場に静寂が訪れるほどに。

 それはカンナが、ラグナの頬に平手打ちした音だった。

 呆気に取られるラグナ達よりも先に口を開いたのはカンナだった。


 

「ローラの幸せの為?今までローラさんのことを家族揃って蔑ろにして、不幸なままでいさせたくせに」



 カンナの瞳に宿っているのは、純然たる怒り。それを見たラグナは言葉を詰まらせた。

 そんな彼等を睨み付けるその目のまま、カンナは言葉を続けた。


「ロディアス殿下との婚約がローラ・シュバリエにとっての幸福だとあなた方は本気で思ってるみたいですけど、もう知ってるんですよ。ローラさんがどうして公爵令嬢という地位がありながら、こんなにも周りから嘲笑され、虐げられているのか。なぜ、家族であるあなた方から助けられなかったのか」

「そ、それは……それは違うのよ……ッ」

「黙って最後まで聞け!」


 口を挟んだエリーラに、カンナは怒鳴った。その怒りに満ちた声量にエリーラは身体を震わせ、ルイの涙も止まった。


「もう知ってるんですよ。この劣悪で最低な環境を作り出した元凶が、ロディアス殿下達だということを」


「ッ!!!!」


 その言葉に、ラグナ達の顔色が変わった。

 


「それを知ってしまったから、ローラさんは飛び降りて死んだ。この意味が……分かりますよね?」



 真っ直ぐ突き刺すように、カンナは4人を見つめる。


「ロディアス殿下達に命令されていたんですよね?ローラ・シュバリエが家でも孤立するように、使用人達からの嫌がらせを見逃し、自分達は必要以上にプレッシャーを与え冷遇した。違いますか?」

「ッ……」

「自殺未遂を繰り返すのを本気で止めなかったのは、ロディアス殿下達が手配してくれる高等治癒魔法を使える神官とやらがいるから。ローラさんが傷付いて追い詰められれば追い詰められるほど、唯一の味方であるロディアス殿下達に縋るように、自傷行為も止めなかった。そうでしょう?」

「くっ…………」


 ローラと作戦会議をした時、カンナはどうして家族がローラを守らないのか気になっていた。ローラを冷遇するなら、何かしら理由があったのかと。だがローラ本人に具体的な心当たりはなく、ローラは「自分が公爵令嬢として不甲斐ないから」と言っていたが、教養やマナーなどはしっかりと学んでいたし、出生に大きな問題を抱えていることもなかった。そうして2人で時系列を並べたところ、ロディアス達と何度か出会った後に冷遇が始まったのではないかという事が分かった。

 そこでカンナが考えついた仮説が、学園同様、家族にもロディアス達の息が掛かっていた可能性だった。

 

 そうしてローラとなったカンナが家族達を観察した結果、その仮説は正しいと言わざるを得なかった。

 

 ロディアス殿下の婚約者候補に選ばれた。それだけならまだしも、婚約者候補の段階だと言うのに、家族達の反応はまるでローラが選ばれて当然と言わんばかりの勢いだった。

 

 誰も、自殺未遂を繰り返す問題のある令嬢がロディアスの婚約者候補に選ばれた事を疑問に持っていなかった。

 

 死にたがり令嬢と世間の評判も良くないローラが選ばれるなんて、普通ならうちの娘には相応しくないと一言あっても良いだろうに、4人共何も言わなかった。

 よかった。幸せになれる。頑張ってくれと、ありきたりな言葉ばかり言っていた。

 知っていたのだ。家族達はロディアスがローラをいずれ婚約者候補……婚約者として迎えるつもりだという事を。

 それが分かったカンナは、彼等に失望した。少しはローラの事を思っているのかと思ったが、家族達はローラを守るのではなく、ロディアス達の命令に従うことを選んだのだと理解したのだ。

 あの下衆共に協力する事を選んで、ローラを傷付け続けたのだということを。

 

 カンナは、その怒りをそのままにじわじわと締め付けるように彼等を追い詰める。

 

「そしてあなた方は、ローラさんを冷遇することでロディアス殿下達から何かしらの報酬を貰っていた」

「……っ」

「……その反応は図星ですね。現時点で考えられるのは、公爵家への援助とか領地への何かしらの支援、それかレオンお兄様とルイに対しての優遇、とかですかね。まぁ、この際理由なんて関係ありませんけど」


 カンナは、顔面蒼白になった彼等を見てため息を吐いた。最早呆れてしまうほどに。


「ローラさんはあなた方にとって、その程度の存在だったんですね?親としても、兄弟としても、そして家族としても──






 ──ほんっと最低な家族ですね」


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