第6話:一家団欒といきましょう
「おはようございます」
アウラの件があっての翌朝。朝食の席に現れたローラに、エリーラ達は目を見開いた。
白いドレスを好んでいたローラが、朝食の席に黒いドレスで現れたのだ。白いドレスの方が自分の黄金の髪が綺麗に見えるからと、そう言っていたローラ。そんな彼女が、どこにあったのか分からない黒いドレスを身に纏っているのだ。
すぐにその理由を聞き出そうと思ったエリーラだが、ローラはまるでこれがいつもの服装ですが?と言わんばかりに早々に自分の席についた。その姿に面食らいつつも、エリーラはなんとか言葉を紡ぐ。
「ろ、ローラ、そのドレスは?」
「衣装室にあったものですが、何か?」
「何かって、その、貴方はいつも白いドレスだったから……」
「ああ、確かにそうですね。でも、毎日お母様が選んでくれた白いドレスばかりでは飽きるので、たまには良いかと」
「飽きるって……」
そんなこと今までに一度も言ったことがないのにと、エリーラは驚きを隠せない。
「ローラ、昨日からお母様に対してなんだその態度は」
すると、そんな2人のやり取りを見てレオンが声をあげた。
「その態度、とは?」
「だから、その態度だ!」
苛ついた様子のレオンに対して、ローラは、はて?なんのことやらと笑う。
「態度態度って、いったい私は何の罪で責められてるの?私はただ好きな色のドレスを着ただけなのに……そんなことがお母様への非礼になると仰るの?」
「それはッ……くっ、でも!お母様はいつもお前のためを思ってドレス選んでくれていただろう、それを……!」
「ドレスに裾を通さない殿方であるレオンお兄様が、ドレスの色くらいで何をそんなに怒ることがあるのですか?」
レオンの言葉に強く言い返すローラの目は鋭い。レオンはその目に気圧され、つい言葉に詰まってしまった。
「ドレスの色なんて殿方が気にする必要ありませんわ。私は私の好きな色を着る。ただそれだけですから」
「ろ、ローラ姉様……」
寒気がするような笑みに、ルイは目の前にいるローラが本当に今まで自分が見て来た姉なのか不安に駆られた。ルイの記憶が正しければ、ローラは母親のエリーラにそんな口は効かないし、兄のレオンの言葉に強気に返すなんて事はなかったはずなのだ。
そしてローラが自分を見つめてくるその目は、酷く冷たい。
「なに?貴方も私に何か文句があるの?ルイ」
「えっ……あ、えっと」
「あら、いつもは元気に走り回っては私のことを下に見ていたのに。今日は随分と大人しいのね」
「え……?」
ローラの言葉に、ルイは思わず目を見開いた。
ルイにとってローラはたった一人の姉であり、彼は優しい彼女の事を慕っていた。だから、ローラを下に見たことなどないのだ。
だが、まさか冷たい目でそんな風に言われるとは思わずルイの目に涙が浮かぶ。
「ぼ、僕はローラ姉様のことを下に見たことはありません!」
「そうなの?じゃあどうしてここ数年は碌に会話もしていないのかしらね」
「え、だってそれは……」
「レオンお兄様が言うから?お母様やお父様に言われたから?」
「おい、ローラ!いい加減に……ッ」
「レオンお兄様は黙ってて。私は今ルイと話をしてるの」
ルイに圧をかけるローラをレオンが止めに入るも、ローラは彼を睨みつけて黙らせる。
「どうなの?ルイ。はっきり言いなさい」
「あ……えっと……」
だんだん小さくなっていくルイに、エリーラはこの状況をどうするべきか悩み、オロオロと二人を見つめることしかできない。
「何をしている」
すると、そこにこの家で一番の権力者であるラグナが現れた。
「旦那様!申し訳ありません……少々子供達が揉めてしまっていて」
「揉める?ローラ、ルイ、何があった」
エリーラの話を聞き、ラグナが鋭い目を向ける。ルイはその突き刺すような視線にビクッと震えて俯いてしまうが、ローラは毅然とした態度で迎え撃った。
「どう見ても姉を下に見るような目で見てきた弟が、自分はそんな目で見ていないと言ってきたので『じゃあここ数年碌に会話していないのはなぜ?』と聞いただけです」
「おいローラ!お父様に対してなんだその言い方はっ!」
「レオンお兄様は黙って」
「お前ッ……」
「やめろレオン。ローラ、それでルイはなんと言った」
「なにも。答える前にお父様がいらっしゃったので」
「……そうか。その話はあとにしろ。朝食が冷める」
そう言って自分の席に座ったラグナ。ローラはそんなラグナから目の前で俯くルイに視線を流した後、大人しく自分の席に座った。
そうして挨拶もそこそこに各々で朝食を食べ始める。
食べている間、ルイはチラチラとローラに目を向けていたが、ローラが視線を返すことはなかった。そんな2人を心配そうに見つめるエリーラと、ローラを睨むレオン。ラグナは無言のままだ。
険悪な雰囲気の中で、聞こえてくるのはフォークとナイフを動かす度に鳴る小さな音だけ。控えているクロークや使用人達も、その空気の重さを緊張した面持ちで見守る。
「ところでお父様、昨夜仰っていた話とはいったいなんだったのでしょうか」
しかし、その空気を物ともせず口を開いたのはローラだった。
その様子にこの場にいる全員が、昨夜から何度目になるか分からないほどに目を見開いた。
「その件は朝食の後に私の書斎で話す」
「承知しました。ただ……実は私からも、家族全員にお伝えしたいことがあります」
「なに?全員にだと?」
「はい。ですので、書斎ではなくサロンに集まりましょう」
「……自分の話を他の家族に聞かれてもいいと?」
「あら、わざわざそんな風に聞かれるくらい大したことのないお話でしたら、お父様の話はわざわざ聞かなくても良さそうですね」
「ろ、ローラ!旦那様になんて口を効くの……!」
「お母様は黙っていてくれる?私は今お父様と話しているの」
「ローラ……」
「エリーラ、君は下がっていて良い。ローラ、お前がそこまで言うのなら、大事な話なのだろうな?」
「はい。それはもちろん」
ラグナの圧に屈することなく、ローラは笑う。
「家族全員揃っていないとできない大事な大事なお話です」
その底冷えするような笑みに、ラグナは昨夜の違和感を思い出す。果たしてこの子は、家族にこのような笑みを向ける子だっただろうかと。
「では、私はお先に失礼致します。サロンで待っていますわ」
そうして食事を終えたローラは、ドレスを翻してその場から立ち去ったのだった。




