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第4話:これ以上苦しまないように


「カンナさん……」


 ローラは、カンナのその言葉に目を見開いた。

 転生してきたばかりのカンナは今、ローラとして転生し、ローラの為に死ぬと言ったのだ。


「そんな……私の為だなんて、そんなの……」


 また痛くて怖い思いをして貴方が死ぬことになるじゃないと、ローラはそう言葉にしようとしたが、目の前にいるカンナの瞳には死への恐怖を微塵も感じなかった。


「大丈夫です!私もう一回死んでるし、転生ならまたあの胡散臭い神様にまた頼んでみますよ!天国行ったらそれはその時だし、そういう運命だったってことにします。それに!あの神様が私をここに送り込んで来たってことは、ローラさんの状況を知ってての事だと思うんですよね。だから、今度は『ローラさんを幸せになれる世界に転生させて欲しい』ってお願いするつもりです!」


 そう語るカンナは、言葉の内容とは裏腹に明るくて、無邪気に見えた。

 たったの数分。出会ってから数分間の付き合いでしかない赤の他人。何年も年月を共に過ごした訳でもない、違う世界の赤の他人。


「どうして……」


 どうしてそんなにも、他人の自分に綺麗な笑顔を向けてくれるの、と。


「なん、で…………」


 私のような人間の為にそこまでできるの、と。


 どうしてそんなにも優しいの……と。


 一筋の涙を皮切りに、ローラの黄金の瞳からポロポロと雫が流れていく。先程泣いた時とは違い、なぜか己の意思で止めることができない。拭っても拭っても、溢れて止まらない。

 そんなローラを、カンナは黙って抱き締めた。


「ふっ、うぅ……うああぁあああ……ッ!」


 抱き締められたローラは、とうとう声を上げて泣き出した。公爵令嬢らしくない、子供のようなひどい泣き声だとローラは思った。だけど、その泣き方はやっと全てを吐き出すことができたような泣き方で、カンナは何も言わずに、ただただローラの涙が止まるまでずっと抱き締め続けた。


 

 人の温もりに包まれ、全ての感情を吐き出したローラは、不思議とスッキリしたような気持ちになっていた。今まで自分に絡みついていた歪な物が、全て取り払われたような、そんな感覚。


「落ち着きましたか?」


 カンナの優しい声に、ローラは顔を上げる。酷い姿を見せたのに、カンナの表情に嘲るような色は見えない。あるのはただただ、ローラを案じているのだという優しい笑みだけ。


「……はい。落ち着きました」

「よかった」


 そう言って微笑んでくれるカンナに、ローラは少し恥ずかしくなる。


「もうこれ以上、ローラさんが苦しむ必要はありません。あとは私がなんとかします。ローラさんは、この世界について私に教えてください。価値観や環境、人間関係すべてを」

「……本当に、良いんですか?私は、死にたがり令嬢だと蔑まれてきた存在です。カンナさんのような優しい人が、私が受けてきた苦しみを代わりに受け続けるなんて、カンナさんが傷付いてしまうなんて……私には耐えられませんッ!」

「も〜大丈夫ですよ!私、これでも嫌がらせとかいじめの対処は分かってますし、どう振る舞ってしまえば良いかも分かってます。苦しむことも、傷付くこともないです。大丈夫。安心してください。私は頑丈なんです!」


 ニカッと笑って親指を立てるカンナ。ローラは、彼女の言葉に嘘がないと分かっていた。だけど、どうしてもあの劣悪な環境下に、カンナを送り出したくない。やっぱり止めようと思うローラ。

 だが、次の瞬間。カンナの瞳から光が消えた。


「それに、許せないじゃないですか。ローラさんの事を玩具のように弄んだ王子達3人も、ローラさんを自分達の利益の為だけに笑いながら傷付けた周りの生徒達も、そんなローラさんの気持ちを理解せずに冷遇して守らない家族達も、私は絶対に許せません。無関係だからとか言われても知りません。第三者である私がローラさんをこの地獄から救い出さなきゃ、きっと奴等はローラさんの心を壊して殺す。だから、私はローラ・シュバリエを幸せにする為に、ローラ・シュバリエを終わらせるんです」


 静かな怒りを孕んだ声だった。決意にも近いその声に、ローラはカンナが本気で自分の為に死ぬつもりだと思い知った。

 そして、自分の為に彼女は怒ってくれていて、一番の幸せを願ってくれていることも。


「……分かりました。カンナさん、どうか、どうか……私という存在をこの世から消してください」

「はい。もちろんです」

「っ……ごめんなさい。私は、私は……!なんて卑怯な……!」

「卑怯?そんな事ないですよ。ローラさんは心底優しくて思いやりのある人間です。今だって私が傷付くことを心配してくれてる。だからこそ、人にたくさんたくさん傷付けられて、傷付いてきた。味方のいない中で自分を守る為に行動し続けていたんですから、十分頑張ったんですよ」

「カンナさん……」

「大丈夫。一緒に死ねば怖くありません」


 そう言ったカンナだが、少し不安そうな表情に変わる。


「でも、もしかしたら、あの神様が出てこなくて2人一緒に天国に行っちゃうかもしれませんけど……その時は……」

「ふふ、構いません。カンナさんは私の幸せを祈ってくれました。たとえ、カンナさんの言っていた私が幸せになれる世界に転生できなくても、私は今、貴方に救われているんです」

「え?」

「……家族も周りの人達も、どうして私が自傷するのか自殺未遂を繰り返すのか分かってくれませんでした。気持ち悪い、みっともないって……我慢しろって言うんです。誰も、どうしてそんな事をするのか聞いてもくれない。どれだけ辛く、痛いのかを知ろうともしない。でも、カンナさんは違いました。私の行為を聞いても、一言もそんな事を言わなかった。寧ろ、死ぬ事を肯定してくれた。そして、こんな私の為に、私の代わりに死んでくれようとまでしてくれる。そんな人と一緒に死ねるなら、何が起こっても構いません」


 胸に手を当て、ローラは今までの己の人生を振り返る。物心ついた時から、誰も助けてくれない環境下で育った。嘲笑してくる周りも、それから守ってくれない家族達も、自分を弄んで心を踏み躙った王子達も、皆、ローラ・シュバリエという存在を否定している。

 ローラの自傷行為や自殺未遂を止めたところで、待っていたのは慰めではなく失望と冷笑。中には正義感ぶった自分に酔いしれるだけで、助けもせず叱責するような人間もいた。

 彼等にとって、ローラ・シュバリエは都合の良い遊び道具であり、イカれた行動を取る死にたがりの玩具。良い気分になる為だけの踏み台でしかない。

 

 ならば、ローラの目の前に現れたカンナは、ローラにとって救世主でしかない。


 その差し出された救いの手を、彼女は求めていたのだ。


「カンナさん、どうか私という存在をこの世から抹消して下さい」


 ローラの言葉に、カンナは安心したように笑う。


「それじゃあ早速!作戦を立てましょう!」

「ええ!そうしましょう!」


 手を取り合って笑い合う2人。

 しかし、その口から出る言葉は酷く歪で、とても少女達が話すような内容ではなかった。

 だが、それで良いのだ。

 今この世界で、彼女達の世界では、これが正解なのだから。

 

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