第7話:円卓の大根会議と、世界を黒く染め上げる漆黒の液体(※ただの醤油です)
王城の円卓会議室。
国王、大臣、そして歴戦の将軍たちが、冷や汗を流しながら「それ」を囲んでいた。
豪奢なテーブルの中央に無造作に置かれているのは、泥のついた一本の『大根』である。
「鑑定士よ……結果はどうだ」
「は、測りきれませんッ!」
王国最高の宮廷魔法鑑定士は、涙目で叫んだ。
「鑑定用の国宝水晶が、魔力と生命力のキャパシティを超えて粉砕しました! これは神話に伝わる世界樹の根……いや、触れる者の精神を破壊する『呪いの発光棍棒』です!」
その言葉を裏付けるように、大根からピカァァァッ! と神々しい光が放たれた。
光を真っ向から浴びてしまったのは、長年の激務で満身創痍だった老将軍だ。
「ぐわぁぁぁッ!? な、なんだこれは! 体の奥底から恐るべき力が湧き上がってくる!」
老将軍はパニックに陥り、自らの体をベタベタと触り始めた。
「ひぃぃぃ! 長年苦しんでいた腰痛が消え、肩の痛みも完全に無くなっている!? ま、間違いない……私の体は魔王の瘴気に侵され、不老不死のアンデッド兵にされてしまったのだぁぁッ!」
「なんという悪逆非道! 触れただけで我が国の将をアンデッドに変えるとは!」
健康体(超絶・全快)になった老将軍が絶望して泣き崩れ、円卓は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
そこへ、さらに追い打ちをかけるように、潜入中のセシリアから命懸けの『極秘報告(※ただの観察日記)』が届いた。
国王が震える手でスクロールを読み上げる。
『極秘報告。魔王はついに王都にて、恐るべき”漆黒の液体”を入手した。これより、白き根を黒く染め上げるつもりらしい——』
「漆黒の液体……! まさか、世界樹を闇に染め上げ、世界を腐敗させる気か!」
王国の絶望は、ついに臨界点に達しようとしていた。
一方その頃。死の森のログハウス。
タロウは自作のキッチンに立ち、上機嫌で鼻歌を歌っていた。
「大根の葉っぱ、ごま油で炒めると最高なんだよねー」
ジュワァァァッ!
腕置き(兼・コンロ)として酷使されている神話の霊鳥ピーちゃんが、絶妙な火加減のブレスでフライパンを熱している。
そこに、買ってきたばかりの醤油を回しかける。
焦がし醤油とごま油の、香ばしくも凶悪な匂いがログハウスに充満した。
だが、その様子を少し離れたところから見ていたセシリアの顔は、死人のように青ざめていた。
「魔王よ……」
セシリアは震える声を振り絞った。
「お前は、その漆黒の液体で……世界を、どうする気だ……?」
タロウはフライパンを振る手を止めた。
静寂が落ちる。
タロウは手元の醤油瓶を見つめ、そして、ゆっくりと振り返り——セシリアの目を真っ直ぐに見据えた。
底知れない、真剣な眼差しだった。
「どうする気かって?」
数秒の重い溜めの後、タロウは極めて爽やかな笑顔(※ただ空腹なだけ)で言い放った。
「——全部、黒く染め尽くすに決まってるじゃん。俺、濃い味が好きだからさ」
「…………ッ!!」
セシリアは白目を剥き、ついに膝から崩れ落ちた。
世界が、終わる。この男の「濃い味が好き」という理不尽な理由だけで、すべてが闇に染められてしまうのだ。
「おっ、できたできた! ポチたち、ご飯にするぞー!」
絶望する姫騎士をよそに、タロウが炊きたての白米に『大根の葉のふりかけ(濃い味)』を乗せて差し出すと、トラックほどの巨体を持つポチの三つの頭が猛然と食らいついた。
【右】『なんだこの黒い水! しょっぺえ! でも肉がなくても美味えぞ!』
【左】『馬鹿者、これが深い旨味というものだ! 主よ、おかわりを所望する!』
【中央】『お前らガタガタうるせえ! 食う暇があったら白飯をかき込め!!』
神話の厄災たちは、完全に日本の家庭料理(ふりかけご飯)の虜になっていた。
再び、王城の円卓会議室。
絶望に打ちひしがれる国王の前に、一人の男が進み出た。
「……騎士団のような表の戦力では、魔王には手も足も出ません。こうなれば、『影』を使うしかありません」
国王は重々しく頷いた。
「うむ……。いよいよ奴の出番か」
王国最強の影。決して姿を見せず、いかなる標的も確実に屠る、伝説の暗殺ギルドの長。
「奴を死の森へ向かわせろ。我らの希望は、もはや暗殺の刃に託すしかない——!」
タロウのスローライフに、次なる最強の刺客(※新たな労働力:畑担当)が迫っていた。




