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『僕のペットは魔獣らしい。ついでに畑も作ってます』  作者: キトン


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第6話:王都絶対防衛戦(※魔王が醤油を買いに来ただけです)

王城の謁見の間は、かつてないパニックに包まれていた。


「報告ゥゥッ!! 魔王領より神話級の魔物が複数、王都へ直進中!」


 血相を変えた伝令の言葉に、玉座の国王は顔面を蒼白にさせた。


「……終わった。我が王国は今日、地図から消滅するのだ」


「全軍、直ちに城壁へ向かえ! 魔法兵団は結界の出力を最大にッ!」


 大臣の悲鳴のような号令と同時に、非常事態を告げる鐘が鳴り響く。


 完全武装の騎士団が城門へ殺到し、誰もが死を覚悟した。絶望の魔王軍が、この国を滅ぼしに来るのだと——。

 

 同時刻。

 タロウは、自作のキッチンで戸棚をガサガサと漁っていた。


「……あ、醤油切れてるな」


「……しょうゆ?」


 エプロン姿のまま大根の葉を刻んでいたセシリアが、不思議そうに首を傾げる。


「うん。大根の葉っぱ炒めるなら、やっぱり醤油とごま油で味付けしたいじゃん。この辺に大きい街ってないの?」


「一山越えれば、王都の巨大な市場があるが……まさか」


「おっ、いいね! じゃあ散歩がてら買い物に行こう」

「…………」


 王国最強の姫騎士は、持っていた包丁を力なくまな板に落とし、虚空を見つめた。


(終わった。王都が……国が、消し飛ぶ……)

 

 王都の正門前。


 数千の騎士が槍を構え、何重もの巨大な魔法陣が展開される中、ついに『それ』は姿を現した。


 地響きを立てて現れたのは、見上げるほど巨大な冥界の番犬ポチ。その背中には麦わら帽子の青年タロウが跨り、頭の上には神話の霊鳥ピーちゃんがちょこんと乗っている。


「ひぃぃぃ! 魔王襲来だァァァッ!!」


 騎士たちの悲鳴が上がる中、ポチは展開された『王都絶対防衛・結界魔法陣』に鼻先を近づけた。


【右】『おっ、なんかこの光の壁、あったけーな!』

 スンスンッ。ポチが匂いを嗅いだ瞬間。

 パァァァンッ!!


 数百の魔法使いが命懸けで編み上げた絶対防衛結界が、ただの鼻息で飴細工のように粉砕された。


「ち、違う! みんな武器を下ろせ! 魔王はただの『買い物』だ!!」


 セシリアが必死に叫ぶが、騎士たちは涙ぐみながら首を横に振った。


「ああ……誇り高きセシリア様が、すでに洗脳され、魔王の傀儡に……!」


 そこへ、重々しい足音と共に一人の男が進み出た。

 かつて単騎で飛竜を討伐した歴戦の猛者、『竜殺し』の二つ名を持つ王国騎士団総長である。


「下がれ、お前たち。……魔王よ、ついに来たか。この私の命と引き換えに、民だけは——」


「あ、すいません」


 タロウがポチの背中からひょっこりと顔を出した。


「ヒッ!?(ま、魔王が喋った!?)」


「この辺に、調味料屋ってあります? 醤油を探してるんですけど」


「……調味料?」


 竜殺しの総長が、ポカンと口を開けた。


 張り詰めていた糸がプツンと切れ、数秒の静寂が落ちる。

 だが次の瞬間、総長の顔がかつてないほどの恐怖に歪んだ。


(我々の肉を……『調味料』で味付けして喰らうつもりかァァァッ!!)


 最前線の騎士団は、完全にパニックに陥った。


【左】『主よ、腹減った。早くその「しょうゆ」とやらを探そうぞ』


 人間たちが絶望に泣き叫ぶ中、ポチの左の頭は呑気に大きなあくびをしていた。

 

 騎士たちが遠巻きにガタガタと震えながら包囲を続ける中、タロウたちは市場へと足を踏み入れた。


 逃げ惑う商人、泣き叫ぶ子供、震えながら詠唱の準備をする魔法使い。


「活気がある街だねー。みんな走ってるし、タイムセールでもやってるのかな?」


 前世の殺伐とした満員電車を思い出し、タロウはほっこり微笑んだ。


「……貴様から逃げ惑っているだけだ! 頼むからその呑気な視力を少しは疑ってくれ!」


 セシリアの悲痛なツッコミも虚しく、タロウは「あはは、照れ屋だなぁ」と優しく微笑むだけだった。


「あ、醤油あった!」


 タロウが一軒の調味料屋を見つけ、店主に声をかけた。


「すいません、これ一本ください。いくらですか?」


「ひ、ひぃぃぃ! だ、代金など結構でございます! どうか命だけはァァ!」


 店主は腰を抜かし、土下座しながら涙を流した。


「えっ、タダは悪いよ。ちょうど畑で採れたコレ、余ってるから代わりにもらってよ(スッ)」


 ——ピカァァァァァァッ!!


 タロウが取り出した『大根』から、神々しいまでの光と圧倒的な生命力があふれ出した。


「こ、これは……ッ!? まさか、神話に謳われる世界樹の根……いや、伝説のエリクサー!?」


 店主は大根を抱えたまま白目を剥き、口から泡を吹いてパタッと気絶した。


「ええっ!? 嬉しすぎて倒れちゃったよ! セシリア、王都の人ってどんだけ大根好きなの!?」


「…………(ズキズキ)」


 セシリアが激しい胃痛に耐えてうずくまる一方、遠巻きに警戒を続けていた竜殺しの騎士団長たちは戦慄していた。


「み、見ろ! 魔王が取り出した『発光する呪いの棍棒(※大根)』の輝きを浴びただけで、商人が即死(※気絶)したぞ!」


「なんという絶望的威力……ッ! 我々が束になっても勝てん!」


 ——王都絶対防衛戦は、人類の完全敗北として歴史に刻まれた。


 なお、被害は醤油一本である。


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