表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『僕のペットは魔獣らしい。ついでに畑も作ってます』  作者: キトン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/12

第4話:生贄の村娘が見た絶望。そして、すっかり農園に馴染んだ姫騎士(エプロン姿)

 死の森の麓にある小さな村。

 村人たちは、森の奥から放たれる尋常ではないプレッシャーに怯えていた。


「間違いない……神話に伝わる絶対的魔王が目覚めたのじゃ……」


「このままでは村が火の海に! 誰かが『貢ぎ物』を持っていって、機嫌を取らねば!」


 くじ引きの結果、不運にも生贄(連絡係)として選ばれたのは、村娘のニーナだった。


 彼女は籠いっぱいのリンゴを抱え、ガタガタと震える足で、薄暗い死の森へと足を踏み入れた。


「ひぃぃ……神様、どうかお助けください……」


 涙目で森を抜け、ついに魔王の拠点へと辿り着いたニーナ。


 しかし、そこで彼女の目に飛び込んできたのは、想像とは全く違う光景だった。


 荒れ果てた大地や、血の池地獄などではない。

 そこにあったのは、**ピカピカと神々しい光を放つ、広大な「畑」**だった。


(な、なんだここは……!? 植物が、あり得ないほどの魔力を帯びて発光している……! まさか、これが魔王の『呪いの大地』!? 濃密な瘴気を吸って突然変異したのね!)


 実際は、タロウが女神の加護で育てた超健康的な無農薬野菜なのだが、恐怖でフィルターがかかったニーナには「猛毒の魔植物」にしか見えない。


 さらに視線をずらしたニーナは、その場にへたり込みそうになった。


 巨大な犬小屋の前で、トラックほどの巨躯を持つ三つ首の魔獣・ケルベロスが、何か丸いものを貪り食っていたのだ。

【右】『美味え! この丸い葉っぱ(キャベツ)、シャキシャキしてて最高だぜ!』


 バリッ! ボリィッ! と、凄まじい咀嚼音が響き渡る。


(ひ、ひぃぃぃッ!! 魔犬が……人間の頭蓋骨(※ただのキャベツ)を噛み砕いているぅぅ……!!)


 完全に錯乱したニーナが悲鳴を上げそうになった、その時。


「ん? あれ、お客さんかな?」


 畑の中から、一人の男が立ち上がった。

 首にタオルを巻き、麦わら帽子を被り、泥だらけの長靴を履いた男——タロウである。


(で、出たぁぁ! 人の姿に化けた魔王! 圧倒的な死のオーラ(※ただの農作業の疲労)で息ができない……殺される!)


 ニーナが腰を抜かして震えていると、タロウは気さくに手を挙げて振り返った。


「おーい、セシリア! お客さんみたいだから、冷たいお茶淹れてー!」


「承知した魔王! ただちにお持ちしよう!」


 タロウの呼びかけに応じ、魔王城ただのログハウスから一人の女性がスタタタッと駆け寄ってきた。


 その姿を見た瞬間、ニーナは自分の目を疑った。


(えっ……? うそ、あの美しい銀髪に、白銀の甲冑……王国最強と謳われる『白銀の盾』騎士団のセシリア様!? なんで魔王と一緒に……って、なんで鎧の上にフリフリのエプロン着てるの!?)


 そう、王国最強の姫騎士は、見事な手つきで国宝である『白銀の聖盾』をお盆代わりにして麦茶を乗せ、タロウの隣にスッと控えたのだ。


(いやあああ! 建国神話に登場する伝説の盾が、完全にお盆扱いされてる! しかも冷たいコップの水滴で、神聖な盾に輪っかの跡がガッツリついてるぅぅ!!)


「お待たせしたな魔王。井戸水で極限まで冷やした特製の麦茶だ。……そして、くっ、殺せ!」


「はいはい、ありがとう。麦茶淹れるタイミング、完璧になってきたね。あ、盾濡れてるからあとで拭いといて」


「ふふん、当然だ。私は何事も極めねば気が済まないタチでな! 盾の乾拭きも任せておけ!」


 胸を張ってドヤ顔をするセシリアを見て、ニーナは完全にフリーズした。


「セ、セシリア様……? 一体、なぜ魔王のメイドに……?」


「メイドではない! 私はこの魔王を『監視』するため、命を懸けて敵陣に潜入しているのだ!」


 セシリアはキリッとした表情で言い放つが、タロウは隣でボソッと呟いた。


「いや、昨日の夜『命に代えても監視する!』って言いながら客間のベッドで爆睡して、今朝なんて卵かけご飯3杯もおかわりしてたじゃん。すっかり馴染んでるよ」


「なっ……! そ、それは長期戦を見越しての栄養補給だ! 断じて白米の美味さに屈したわけではない!」


 顔を真っ赤にして言い訳をする姫騎士を見て、ニーナは悟った。


 ——あ、この人、完全に餌付けされてる。


「あはは。まあ、せっかく来てくれたんだし、お茶でも飲んでよ。あ、その籠のリンゴ、もしかして差し入れ? ありがたいな。お返しに、うちの野菜持っていく?」


 タロウはニーナからリンゴを受け取ると、代わりにさっき抜いたばかりの「光る大根」を籠に突っ込んだ。


(※どんな病も一瞬で治す、国宝級のエリクサー大根である)


「じゃあ気をつけて帰ってねー」


「は、はいぃぃ……っ!」


 ニーナはワケが分からないまま、光る大根を抱えて猛ダッシュで村へと逃げ帰っていった。


 それを見送った後、セシリアはエプロンの紐をキュッと結び直し、クワを構えた。


「フッ、あの村娘も運が良かったな……。さあ魔王、今日のノルマの雑草抜きを再開するぞ! 早く終わらせないと、昼飯の肉じゃがに間に合わんからな!」


「あ、うん。……なんか俺より気合入ってない?」


 王国最強の姫騎士は、今日も元気に魔王の農園で汗を流すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ