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『僕のペットは魔獣らしい。ついでに畑も作ってます』  作者: キトン


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第2話:ちょっと高い所のリンゴが食べたかっただけなのに

 ポチたち(※神話級の厄災・ケルベロス)と暮らし始めて数日。俺はマイナスイオン溢れる森の散歩を満喫していた。


 ふと見上げると、数十メートルはある巨木の頂上に、真っ赤な果実が実っている。


「美味しそうだな……。でも、あんな高いところまで登る体力ないし。鳥みたいにフワッと飛んで採れたら楽なのになぁ」


 横では、超大型トラックほどの巨躯を持つポチが地面にドスンと伏せ、俺に甘え鳴きをしている。俺は丸太のように太いポチの顎を撫でながら、疲れた体でぼんやりと空を見上げた。


 

 一方その頃。王国最強と謳われる『白銀の盾』騎士団長・レオナルドは、森の調査に訪れ、木々の隙間から見える光景に絶句していた。


 目の前には巨大な要塞(※犬小屋)と、見上げるほどに巨大な三つ首の厄災ケルベロスが伏せている。そしてその傍らには、一人のみすぼらしい男が立っていた。


「ば、馬鹿な……。猟師の報告は本当だったのか……!」


 レオナルドが恐怖に顔を引きつらせた、まさに次の瞬間だった。

 

 遥か上空、雲の隙間を巨大な黒い影が横切った。ここからでは豆粒ほどの大きさにしか見えないが、立派な翼を持った……見たこともない巨大な鳥だろうか。

 俺が(あんな翼があれば疲れないのになぁ)とぼんやり念じた、その時。


「……あれ? なんか背中から生えた」


 俺は恐る恐る背中を振り返る。

 漆黒の巨大な翼が生えていた。


「え、ちょっと待って。なにこれ」


 ……まあ、女神様のスキルか。木登りしないで済んだからいっか。


 さっき上空を飛んでいた最強の魔獣が、俺に撫でられたい一心で『僕の翼を使って!』と全力の逆アピールをしてきたことなど、この時の俺は知る由もない。


 神話にしか登場しない終焉の黒竜。その翼は一振りで国を滅ぼすと言われる。


 そんなこととは露知らず、俺がふわりと軽く羽ばたいた瞬間

——ドォォォォンッ!

 森の木々を薙ぎ払うほどの凄まじい暴風が吹き荒れた。俺はそのままロケットのように上空へ急上昇していく。

 

「なっ……!?」


 突然の暴風に、重武装の騎士たちは枯れ葉のように吹き飛ばされ、泥水の中へ転げ落ちた。


 上空へと真っ直ぐ急上昇していく黒翼の男を見上げ、レオナルドは完全に死を悟った。


(黒竜の翼を持つ魔王……! 我々は世界の禁忌に踏み込んでしまったのだ!)


「ぜ、全軍、武器を捨てろッ! 白銀の誇りなど忘れろ! 地に這いつくばって命を乞えェェ!!」


 王国が誇るエリート騎士団は一瞬にしてプライドを窓から投げ捨て、一斉に泥まみれの土下座をした。

 

「ふぅ、無事にリンゴ採れたぞ」


 俺が地上に舞い降りると、なぜか目の前に全身銀ピカの甲冑を着た集団が、泥まみれで土下座していた。


(うわぁ……なんか怒らせたら怖そうな人たちだ。でも、ガタガタ震えてるし、行き倒れかな……?)


 前世で染み付いた社畜根性のせいか、威圧感のある相手にはどうしてもビビってへりくだってしまう。


「えっと……あの、すいません。お腹、空いてるんですか? もしよかったら、これ……どうぞ」


 俺がおずおずと真っ赤なリンゴを差し出すと、横に伏せていたポチが「俺も俺も!」と言わんばかりにご機嫌で尻尾を振った。


 ドゴォォォォンッ!!


 隕石でも落ちたかのような地響きと共に、極太の尻尾が地面を粉砕。土下座中の重武装の騎士たちが数人、場外へと吹き飛んでいった。

 

(ひ、ひぃぃぃ! 魔王の『服従の果実』だ! 躊躇えば即座にあの番犬の餌にされる……!)


「あ、ありがたき、極上の幸せェェェェッ!!」


 レオナルドは死の恐怖から涙と鼻水を撒き散らし、呪いの果実(※ただの甘くて美味しいリンゴ)を泣き叫びながら丸かじりした。


 

(うわぁ……めちゃくちゃ泣きながら食べてる。よっぽど飢えてたんだな。かわいそうに……)


 必死にリンゴを頬張る騎士たちを見て、俺は少し同情しながら胸を撫で下ろした。


 俺のスローライフは、今日も平和(※人類側の完全降伏)だった。

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