第23話 裏山開拓計画(※だいたい災害でした)
王都の商業ギルドで、新しい野菜の種を山ほど買い込んできたタロウ。
彼は自宅の裏手にある広大な荒れ地を見つめながら、腕を組んで唸っていた。
「うーん、これだけ種があると、今の畑じゃ全然足りないなぁ」
タロウの視線の先にある裏山(荒れ地)は、人を喰らいそうなほど巨大な『魔界イバラ』や、異常な魔力を帯びてうねる『ツタ』に鬱蒼と覆われている。とても素人が開拓できるような場所ではない。
「よし、裏山を畑にしよう。……でもこれ全部手で抜くのは腰が死ぬし、一気に『野焼き』しちゃえばいっか」
「家の裏で!?」
麦茶を飲んでいたセシリアが盛大に吹き出した。
「王都の森まで燃え広がるわよ! 国が消滅する!!」
「大丈夫だって。たぶん家の方には燃えないと思うから」
「『思う』って何!?」
セシリアの悲鳴をよそに、タロウは縁側でひなたぼっこをしている超巨大黒竜とスッと【共鳴】した。
次の瞬間、タロウの体がふわりと重力を無視して空へ浮かび上がる。
ナスビは「キュルン!」と嬉しそうに巨大な尻尾をブンブンと振っている。
「えっ、さらっと空飛んだ!?」
「うん、上からやった方が早いし全体が見えるからね。じゃあ、いくよ」
空中に浮かんだタロウは、今度は不死鳥と共鳴する。
タロウが指先をパチンと鳴らすと、そこから眩い『黄金の炎』がブワッと広がった。
炎はまるで確固たる意思を持っているかのように、凶悪な魔界の植物やイバラだけを這うように燃やしていく。
「おー、いい感じに焼けたな」
「料理じゃないのよ!!」
セシリアがツッコむ間にも、ほんの数秒で鬱蒼としていた荒れ地は極上の『綺麗な灰の大地』へと変わっていく。
ザァァァッ!
その時、急に風向きが変わり、舞い上がった火の粉が家の方へと飛んできた。
「ひぃっ!? 火の粉飛んできた! 家が燃える!!」
「はいはい、今水撒くよ」
空飛ぶタロウが、下でジョウロの中にいる水精霊王に視線を向けた、その時だった。
――ドクンッ。
タロウの心臓が大きく鳴り、全身の血管を『清らかで冷たい奔流』が駆け巡る。初めてウーちゃんと『共鳴』が繋がった瞬間だった。
ジョウロの中のウーちゃんは、(ふんっ。我が力、存分に振るうがよい!)とふんぞり返って、見事なドヤ顔を決めている。
(おっ。なんか急に体が涼しくなって、絶好調だぞ。……なるほど、気合いを入れるだけで『地下水脈』を引き上げられるのか! これが異世界の農作業ってやつかー。便利でいいな!)
タロウは心の中で「異世界の土壌は水が引き上げやすくて便利だなぁ」と盛大に勘違いすると、空中でプカプカと浮きながら、庭の植木に水をやるような、全くなっていないド素人の構えで両手を軽く前に向けた。
「いや、なんで空飛んでる農家が素手から水を出そうとしてるの!?」
セシリアが唖然とする中、タロウが呑気に両手を振る。
「そぉい!」
ドゴォォォォォォッ!!!
「いや、水量が頭おかしい!!」
セシリアの悲鳴をかき消すように、タロウの手のひらから規格外の『大洪水』が放たれた。
狙いも何もない。ただの力技である。
「おわっ!? ちょ、止まらない止まらない!」
空中で暴れるホースに振り回される素人のように、タロウはものすごい水圧に押されてバタバタと手足を動かし、空中で大回転している。
しかし、ウーちゃんの魔力による圧倒的な水量が、荒れ地の火を無理やり押し流してしまった。
「火が、消えた……」
「……というか、畑にちょうどいい湿り具合になってる……」
呆然と呟くクロエの前で、タロウは「おー、危なかった」と言いながらスッと地面に降り立った。
「よし、最後は耕すだけだ」
タロウは足元の冥界の番犬と共鳴し、右拳を高く振り上げる。
ドゴォォォォォン!!!
タロウが地面を殴りつけた瞬間、激しい衝撃波と共に裏山の土が一瞬でひっくり返った。
邪魔な岩石は粉々に砕け散り、水を含んだ黒く肥沃な土が空気をたっぷり含んで、見渡す限りのフカフカの巨大なベッドに変わる。
超広大な「新・タロウの畑」の完成である。
「畑が、できた……一瞬で……」
「山が、平らな畑になったわ……」
へたり込む二人の前で、タロウは爽やかな汗を拭い、麦わら帽子をポンと被り直した。
「ふぅ。よし、いい畑だ」
「空を飛んで、神話の炎を放ち、素手から大洪水を起こして、山を拳で割ったのに、そのあっさりした感想!?」
「しかも、あの滝みたいな水を出す時の動き、完全に『庭の植木に水をやる素人』だったわね……。力技にもほどがあるわ……」
「いやいや、畑づくりってこんなもんだよ?」
タロウは全く自覚のない天然な笑顔で笑った。
◆ ◆ ◆
同時刻。タロウの家から少し離れた王都。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
王宮のシャンデリアが激しく揺れ、街の至る所で悲鳴が上がった。
「ひぃぃっ!? じ、地震だぁぁぁ!!」
「ま、魔王の襲来か!? 騎士団を集めろぉぉ!!」
大パニックに陥る王都の空を見つめながら、セシリアは遠い目をして呟いた。
「……地震じゃないから。ただの『農作業』だから……」
今日もタロウの畑は、バカみたいなスケールで平和(?)に面積を広げていくのだった。
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