第22話 超巨大黒竜『ナスビ』爆誕と、言葉の通じない恐怖のお留守番
王都の外れにある、タロウの畑のすぐ裏手。
タロウは首が痛くなるほど上を見上げながら、ポツリと呟いた。
「そういえばお前、でかすぎて名前つけてなかったね」
タロウの視線の先には、家を何軒も丸呑みできそうなほど超巨大な『漆黒の古竜』が鎮座している。
「真っ黒でツヤツヤしてるから……よし、お前は今日から『ナスビ』な!」
「山よりでかい神話の災厄を、夏野菜のノリで呼ばないで!!」
セシリアが鋭くツッコむ。黒竜も一瞬(ナスビ!?)と絶望し、周囲の空気を震わせた。
しかし、タロウに巨大な鼻先をペシペシと撫でられた瞬間――。
「キュピィィン……♡」
超巨大竜は甘ったるい声を上げ、コロンと無防備に腹を見せてすり寄ってきた。
「ちょっと! 神話の災厄が、ただの甘えん坊トカゲになってるじゃない!!」
「あはは、ナスビ可愛いな。――じゃあ俺、ちょっと王都のギルドまで新しい種を買いに行ってくるね! みんなお留守番よろしく!」
タロウが足取り軽く出かけていく。
縁側には、お茶を飲みながら留守番をすることになったセシリアと、元・暗殺者のクロエだけが残された。
◆ ◆ ◆
タロウの足音が完全に消えた、次の瞬間。
縁側の空気がグニャリと歪み、動物たちの鳴き声がピタッと止んだ。
「……え?」
セシリアとクロエが息を呑む。
目の前の規格外のバケモノたち――超巨大竜、ケルベロス、不死鳥、精霊王が、**【完全な無言】**のまま、お互いをジッと見つめ合い始めたのだ。
ナスビの目には先ほどの甘えん坊な面影はなく、冷酷な『終焉の王』の威圧感が宿っている。
(……西の山脈の魔王軍の残党、どうする?)
(我が『終焉のブレス』で、大陸の半分ごと消滅させよう)
(いや、我が海を喚び、魔王の領土ごと水底に沈めよう)
神話級の魔獣たちによる、世界規模の恐るべき念話。
――しかし、ただの人間であるセシリアたちには、その『声』は一切聞こえていない。
「ねえセシリア。あの子たち、急に一言も喋らなくなったんだけど……」
「お、重い……! 何これ!? 一体、無言で何の相談をしてるの!?」
言葉が聞こえない二人にとって、それはただ「バケモノたちが無言で殺気を撒き散らしながら睨み合っている」という恐怖映像だ。
(まずい……空中の魔力密度がおかしいわ。あれは広域殲滅魔法――大陸を消し飛ばす前の予備動作よ……!)
クロエは暗殺者としての冷静な観察眼で、最悪の事態を悟って青ざめる。
その推測を裏付けるように、ナスビの口からは【黒い炎の粉】が、ウーちゃんのジョウロからは【海を割るほどの魔力】が漏れ出し始めた。
「ひぃぃっ!? 終わったわ! 私たちが原因じゃないけど、ついに世界を滅ぼす決を採り始めたわ……!」
(タロウさん……早く帰ってきて……!)
二人がガタガタと震えながら抱き合い、死を覚悟したその時。
(……待て、貴様ら。大陸を沈めたり焼いたりしたら、灰や潮風で主が丹精込めて育てた『最高級トマト』の糖度が下がるぞ)
(((…………!!)))
(……危なかった。あわや主のトマトの味を落とすところであった)
(……局地処理(穏便な暗殺)にしよう)
――次の瞬間。
爆発寸前だった絶望的なプレッシャーが、嘘のようにスッと霧散した。
そして、魔獣たちは**【無言のまま、うんうんと深く頷き合った】**。
「えっ……? プレッシャーが、消えた……?」
(なぜ突然、無言で頷き合ったの……? 分からないけど、宇宙の真理みたいなことで合意したみたいね……)
二人がへたり込んだ、その時。
「ただいまー! おやつ買ってきたよー!」
タロウが笑顔で帰還した。
その姿が見えた瞬間――ペットたちの歓喜が、ド派手に爆発した。
「キュァァァン!!」
ナスビが嬉しさのあまりドスドスと足踏みをし、その振動で裏山がグラグラと揺れる。
「ピャアアア!」
ピーちゃんが炎の羽を羽ばたかせ、庭先に熱風の小型竜巻を発生させる。
「タロウ遅いぞ!」
ウーちゃんが歓喜と共に、ジョウロから天高く間欠泉(ゲリラ豪雨)を吹き飛ばした。
「あはは! みんな大喜びだね! よしよし!」
無邪気に笑いながら、暴風雨と地震の中でペットたちを撫でるタロウ。
その背後で、
「世界滅亡の危機は去ったけど……日常の災害レベルがカンストしてるのよ……」
と、ずぶ濡れになりながら白目を剥くセシリアとクロエであった。




