第20話 水の精霊王降臨(※畑のスプリンクラーにしました)
穀倉帝国グランベル。謁見の間。
皇帝は極上のワイングラスを傾けながら、優雅な笑みを浮かべていた。
「ふふふ……今頃、あの小国はすべての作物を失い、飢えに苦しんでいるだろうな。我々に降伏の使者を送ってくるのも時間の問題だ」
その時、顔面蒼白の伝令が、玉座の間に転がり込んできた。
「へ、陛下ぁぁっ! 報告します! 我が帝国が放った最高機密『暴食の魔蝗』の群れですが……王国の農地にいた魔犬と不死鳥に、すべて捕食されました!!」
ピキッ、と皇帝の笑みが凍りついた。
「……は? 捕食……?」
「しかも、ただ食べたのではありません! 不死鳥の炎でこんがりと焼いてから美味しく食べています!」
「料理したの!?」
ガシャーン!!
手からワイングラスが滑り落ちた直後、皇帝は玉座からズルッと滑り落ち、無様な音を立てて床に転がった。
「数万の魔法生物を……焼いて食っただと……!? 勝てるわけがないだろうが!! 当分の間、あの王国には絶対に手を出すな!!」
「は、はいっ! すでに国境の砦はすべて放棄し、部隊は完全撤退いたしました!」
「早いな!?」
「前線の兵士たちが『あんな化け物どものエサ(おやつ)にされるくらいなら逃げる!』と泣き叫びまして……」
皇帝は深く、深く胃の辺りを押さえた。
帝国のプライドは、ただの「おやつ(デリバリー)」として完全に粉砕され、絶対不可侵のビビり国家へと成り下がったのだった。
一方その頃、王都の畑。
タロウは腕を組んで、広大になりすぎた自分の畑を見渡していた。
「うーん……畑が広くなりすぎて、川からジョウロで水を運ぶのがキツくなってきたな。よし、畑のど真ん中に井戸を掘ろう!」
思い立ったタロウは、お昼寝中の三つ首の犬に向かって軽く手を叩いた。
「ポチ、ここ掘れワンワンお願い!」
『グルルルァ!』
嬉しそうに尻尾を振ったポチが、前足で猛然と地面を掘り始めた。
冥界の番犬による、常軌を逸した穴掘りである。
ガガガガガガッ!!
圧倒的なパワーは、地下の硬い岩盤をあっさりと砕き、地中に眠っていた古代遺跡の壁を突き破り、さらには化石化した古竜の巨大な骨ごと粉砕して、ズンズンと深部へ進んでいく。
『グルルルァ!(楽しい!)』
ポチの無邪気な歓声と共に、その鋭い爪が「物理的な地下」を通り越し、ついに異次元の壁を捉えた。
ドゴォォォォォンッ!!
「えっ!?」
セシリアが悲鳴を上げた瞬間、穿たれた大穴から凄まじい水柱(間欠泉)が天高く吹き上がった。
そして、その激流の中から、湖ほどの大きさを持つ、青く透き通った巨大な精霊が姿を現した。
『何奴だ!! 我が神聖なる領土の天井に風穴を開けた愚か者は!!』
周囲の空気が一瞬で凍りつくほどの、圧倒的なプレッシャー。
激怒と共に現れたのは、水を司る最上位の存在だった。
『我は水の精霊王ウンディーネ! 海を割り、大陸を沈める絶対なる存在である!!』
「せ、世界級の災厄よ!! 終わったわ……王国が水没する!」
あまりの絶望に、姫騎士セシリアが膝から崩れ落ちる。
しかし、その強烈な水圧を全身で浴びていたタロウは、目を輝かせていた。
「うわー、すっごい水圧! ポチ、えらいぞ! このスプリンクラー最高だな!」
「世界が終わるのよ!? スプリンクラーとか言ってる場合じゃないわよ!!」
怒り狂う精霊王と、絶望する姫騎士。
その極限状態の中で、タロウは麦わら帽子を押さえながら、ウンディーネに向かってのんびりと声をかけた。
「まあまあ、そんなに大声出したら喉渇くでしょ。ねえ、スイカ食べる?」
「発想が農家なのよ!!!」
セシリアの魂のツッコミが響き渡る中、タロウは先ほど収穫したばかりの『神話級の極上スイカ(魔力と水分の塊)』を、ウンディーネの口元へポンッと放り投げた。
『貴様らなど一瞬で海の底に……ん?』
反射的にスイカを咀嚼した瞬間、ウンディーネの巨大な体がビクンッと跳ねた。
『……!? な、なんという美味……!! この凄まじい魔力と、純度の高い神聖な水分は……っ!?』
直後、ウンディーネの体内から凄まじい水属性の魔力が爆発した。
ドザァァァァッ!! と溢れ出した清らかな水が、あっという間に畑の横に美しい「湖」を作り出してしまう。
ズゴォォォォッ!!
さらに、天高く渦を巻く巨大な水柱が立ち上り、周囲の空気を震わせた――次の瞬間。
ポンッ。
マヌケな音と共に水柱が弾け飛び、巨大だった精霊王の姿が、タロウの手のひらに乗るほどの可愛らしい「妖精サイズ」へと縮んでしまった。
「あ、小さくなった。可愛いじゃん」
「……特別に許す! 俗物よ、もう一切れ所望する!!」
青い髪の小さな妖精(精霊王)は、よだれを拭いながらタロウの肩にちょこんと座り、完全に居座る姿勢を見せた。
「精霊王のプライドが、スイカ一切れで崩壊したわよ……」
もはやツッコむ気力も尽きたセシリアが、新しくできた湖の畔で白く燃え尽きていた。
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