表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『僕のペットは魔獣らしい。ついでに畑も作ってます』  作者: キトン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/28

第17話:兵糧の国

神話級のバーベキューで王都がパニックに陥った、その翌日の夜。


 王城の奥深くにある、厳重な防音結界が張られた秘密会議室に、タロウ、アレン、セシリア、クロエの四人が呼び出されていた。


「夜分遅くに申し訳ありません、偉大なる御方」


 昼間のスライディング土下座の勢いはどこへやら、国王と騎士団長レオナルドの顔は、死人のように青ざめ、深刻な影を落としていた。


「実は……あなたにお願い、いえ、ご報告があります。我が国は現在……戦争寸前なのです」


「えっ、誰と?」


 食後のハーブティーを啜っていたタロウが、キョトンと首を傾げる。


 レオナルドが重々しく口を開いた。


「敵は隣の『穀倉帝国グランベル』。世界最大の穀倉地帯を持つ国です」


「農業の国なんだ! いいね、話が合いそう!」


「合いません! あの国が輸出を止めれば、周辺の三つの国が飢えます。現に我が国の食料の『七割』はあの帝国からの輸入です。それが今日、突然『輸出停止』を通告されました」


 セシリアが、苦々しい顔で補足する。


「……無理もないわ。我が国は長年、北部から押し寄せる魔物災害の防衛に、国家予算と人員のほとんどを徴用してきた。結果として農地は荒廃し……自国だけで民を食わせる力がないのよ」


「問題は、輸出停止の『理由』なのです。帝国はこう言ってきました。『飢え死にしたくなければ……勇者アレンを我々に差し出せ』と」


 会議室の空気が、ピシッと凍りついた。


 全員の視線が、部屋の隅で静かに控えていたアレンに集まる。


 ドンッ! ドンッ! ドンッ!!


 その時、会議室の分厚い扉が外から激しく叩かれた。


「お、お待ちください! 現在会議中——」


「どけぇっ!!」


 兵士の悲鳴が響き、バンッ!!と扉が乱暴に蹴り開けられた。


 他国の王城の最奥に、外交の礼儀など一切無視して強引に侵入してきたのは、豪華なローブを着た傲慢な男——穀倉帝国グランベルの使者だった。


「我が帝国の要求は一つ! その勇者を引き渡せ! さもなくば食料輸出を永久停止し、貴様らの国の民を一人残らず飢え死にさせてやる!」


 使者の冷酷な脅迫が響き渡る。


 反論できない国王が、ギリッと唇を噛み締めた。輸入が止まれば、確実にこの国に飢饉が訪れる。


 重苦しい沈黙の中。


 スッ……と、アレンが静かに前に出た。


「……私を渡してください」


「アレン!?」


 セシリアが叫ぶ。しかし、アレンの瞳には一切の迷いがなかった。


「私は剣だ。国を守るための道具に過ぎない。私の身一つで国が救われ、民が飢えずに済むのなら……それでいい」


 それは、人類の希望として生きることを運命づけられた『勇者』の、あまりにも悲壮で、気高い覚悟だった。


 国王もレオナルドも、アレンの自己犠牲を前に涙を流し、うなだれるしかない。


 誰もが絶望と感動に打ち震えていた、その時だった。


「……え? なんで?」


 間抜けな声が、シリアスな空気を跡形もなくぶち壊した。


 全員が振り返ると、タロウが本気で意味がわからないという顔をして、帝国の使者とアレンを交互に見ていた。


「ええと……食べ物がないから、アレンをあげるの?」


「そうだ! 貴様らには、自国で食う飯を育てる力などないからな!」


 使者が勝ち誇ったように鼻で笑う。


 タロウはしばらく沈黙し。


「変なの」


 ポツリと、心の底から不思議そうに呟いた。


「食べ物がないから戦争? 人を身売りする?……なんだ、そんなことか」


 タロウは立ち上がり、背中に愛用のクワを担いだ。


 そして、ニカッと無邪気な笑顔を浮かべる。


「じゃあ、作ればいいじゃん」


「…………は?」


 使者を含め、会議室の全員の思考が完全に停止した。


「な、何を言っている! 国の全食料だぞ!? 荒れ果てたこの国の死んだ土で、どうやって何十万人分もの食料を賄うつもりだ!」


「うん。だから、この国の食べ物、全部俺たちが作るよ。アレンは俺の大事な弟子だから、絶対にあげない」


 タロウはクワを握り直し、静かに、だが確かなプライドを持って言い放った。


「農家がいるのに、誰も飢えさせないよ」


 その言葉に、クロエが呆れたように小さく呟く。


「……この人、国家戦略を畑感覚で言ってる」


「……でも」


 セシリアは窓の外——荒れ果てた王都の土を見つめながら、フッと笑みをこぼした。


「出来ちゃうのよね、この人なら」


 使者はワナワナと震え、タロウを指差した。


「……正気か、貴様。帝国の、世界最強の農業に勝つつもりか?」


 タロウは麦わら帽子をくいっと上げ、満面の笑みで答えた。


「うん」


 ——一人の社畜農家が、最強の農業大国に「畑」で堂々と宣戦布告をした瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ