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『僕のペットは魔獣らしい。ついでに畑も作ってます』  作者: キトン


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第16話:ご近所への手土産(※国家予算1000年分です)

ウゥゥゥゥーーーッ!!!


 王都中にけたたましい防衛サイレンが鳴り響く中、正門前では新人門番がガタガタと震えながら、タロウたちに槍を向けていた。


「て、敵襲ゥゥ! 勇者様が、謎の農民に洗脳されているぞォォ!」


「えっ? いやいや、俺たちはただの町内会の——」


 タロウが慌てて手を振った、その時である。


「どけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 王城の方から、凄まじい土煙を上げて『一国の王』が全力ダッシュしてきた。


 そして、槍を構える新人門番の背中に、王冠を被ったまま見事なドロップキックを炸裂させる。


「ぶべぇッ!?」


 吹き飛ぶ門番。国王はそのままの勢いで地面に膝をつき、ズザーーッ!と激しい摩擦音を鳴らしながら、タロウの足元で完璧な『スライディング土下座』をキメた。


 ワンテンポ遅れて到着した騎士団長レオナルドも、無言で王の隣にスライディング土下座する。


「お、お待ちしておりました! 偉大なる御方よぉぉぉ!!」


(おお! この一番派手な服の人が町内会長か!)


 地面に額を擦りつける絶対権力者を見て、タロウは目を輝かせた。


(最近の自治体は挨拶が体育会系で気持ちいいな! 俺も負けてられないぞ!)


「初めまして! 最近越してきたタロウです。これ、つまらないものですがご近所への手土産です!」


 タロウはドンッ、とリヤカーから木箱を下ろした。


「は、ははぁーッ! ありがたき幸せに存じます!」


 国王の合図で、王属の凄腕鑑定士が進み出て、震える手で木箱の中身(野菜)を覗き込んだ。


 その瞬間、鑑定士の顔面から一気に血の気が引く。


「……ひっ!? ほ、星の生命力が詰まった赤き宝玉!?(※トマト) 世界樹の葉の結晶!?(※キャベツ)」


 鑑定士はガタガタと震えながら、天を仰いだ。


「こ、こんな栄養密度……! これを食べたら、人間が神話生物になってしまいます!!」


 パァァンッ!!


 鑑定士の片眼鏡モノクルが耐えきれずに砕け散り、彼は白目を剥いて気絶した。


「ゆっくりだ! 振動を与えるな!」


 顔面蒼白のレオナルドが、精鋭騎士10人を指揮して木箱を運ばせる。


「もし傷つけたら、いや、地面に落としたら……神の怒りに触れて国が滅ぶぞ!!」


 ただのキャベツが、完全に『起爆寸前の神話級・核弾頭』として扱われていた。


 ***


 場所は変わり、王城の美しい中庭。


「よーし、さっそく親睦会バーベキューを始めようか!」


 タロウの提案で、中庭にコンロが設置された。


「わぁーっ! 大きいワンちゃん!」


 コンロの準備中、城に住む貴族の幼い子供が、三つ首のケルベロス(ポチ)にトコトコと駆け寄ってしまった。


「ヒッ……!? おやめください坊ちゃまァァ!!」


 周囲の騎士たちが心臓を止めて卒倒する中、ポチは「ワンッ!」と嬉しそうに鳴き、三つの頭で子供の顔をペロペロと舐め回している。もはやただのデカい犬である。


「よし、あとは炭に火をつけるだけだね。ピーちゃーん! ちょっと火ぃ貸して!」


 タロウが空に向かって呑気に呼んだ。


 次の瞬間。上空から、神々しい光と圧倒的な熱を放ちながら、伝説の『不死鳥フェニックス』がバサァッ!と舞い降り、タロウの麦わら帽子の上にちょこんと止まった。


「ふ、不死鳥だとォォォ!?」


 王国の神官が泡を吹く。


「不死鳥は、神の使いだぞ!!」


「それが、なぜ農民の帽子の上に止まっているのだ!?」


 聖騎士たちも膝から崩れ落ち、中庭で凄まじい宗教パニックが巻き起こった。


「ピーちゃん、そこのコンロにお願いね」


「ピッ!」


 可愛い鳴き声と共に、ピーちゃんがコンロに向けて『生命の神炎(※本来は死者をも蘇らせる奇跡の炎)』を吐き出し、最高級の炭火が一瞬で完成する。


「あぁぁ……神の炎で、バーベキューの炭を起こしているゥゥゥ……ッ」


 宮廷魔導士長が、白目を剥いて天に祈り始めた。


 ***


 やがて、神炎で焼かれた肉と神話級野菜が完成した。


 網の上からは、黄金色の脂がじゅわりと溢れ出し、嗅いだだけで寿命が10年延びるような暴力的なまでに食欲をそそる香りが漂っている。


 しかし、国王と重臣たちは恐れ多くて手が震え、誰一人として皿に手を出せない。


 その時だった。


 タロウの背後に控えていた勇者アレンが、真顔のまま、スッと聖剣を抜いた。


 ——ピキィィンッ……!


 聖剣が、危険な魔力を帯びてわずかに光り輝く。


 国王たちが「ヒッ!」と肩を震わせた。


「……なぜ食べない」


 アレンは氷のように冷たい声で、国王を見下ろした。


「師匠の厚意だぞ。一口でも残すような真似をすれば……私が貴様らを斬る」


「ひぃぃぃ! いただきますぅぅ!!」


 勇者による命がけの強制給餌パワハラにより、国王たちは泣きながら熱々の肉と野菜を口に放り込んだ。


「……ッ!? 美味い! なんだこれは! 涙が止まらん!」


 ひと口食べた瞬間、国王たちの目がカッと見開かれた。


 神話級の栄養価と神炎の力により、HPもMPも限界を突破。腰が曲がっていたはずの老臣たちまで、無駄に筋肉がムキムキに膨れ上がっていく。


「うおおおおお!! 力が、力がみなぎってくるぞォォォ!!」


 ムキムキになった老人たちが、涙を流しながら肉を貪り食うカオスな宴。


 その光景を、中庭の端から遠い目で眺めながら、セシリアとクロエはそっと胃薬ハーブをかじった。


「……王都、陥落したわね」


「……ええ」


 クロエが、静かに頷く。


「原因は、農家」


 ——こうして、一人の社畜が求めたスローライフは、物理的な暴力ではなく、圧倒的な『胃袋バーベキュー』によって大国を完全制圧したのだった。

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