第14話:元・最強女子たちの深夜の縁側会議(※帰る気はゼロ)
死の森の夜は静かだ。
コオロギの鳴き声だけが響くログハウスの縁側で、二人の乙女が肩を並べて夜風に当たっていた。
「……ふぅ」
王国最強の元・近衛騎士セシリアが、布で丁寧に『愛用のクワ』の泥を拭き取る。
「……ん」
裏社会を牛耳っていた元・最強の暗殺者クロエが、砥石でシャッ、シャッ、と『草刈り用の鎌』を研いでいる。
「……食べる?」
クロエが差し出した、タロウ特製の『キュウリの浅漬け(※神話級の霊薬)』をかじり、セシリアは深くため息をついた。
「それにしても……今日から入ったあの新人よ。なんなのあの子」
「……ポンコツね。私の暗殺スキルを見習ってほしいわ。……おかげで私の担当エリアの雑草、絶滅寸前よ」
クロエがぼそりと恐ろしい小ネタを挟む。
「あいつ、人類最強の剣のくせに、クワの振り方は完全にド素人じゃない! 私たちの方が、はるかに『農家としての練度』が高いわ!」
セシリアが熱を込めて後輩へのマウントを取る。
しかし、ふと我に返り、自分の掌をまじまじと見つめた。
「でも、笑えないわよクロエ。……私、最近、敵の殺気よりも『雨雲が近づく気配(湿度)』に敏感になっちゃったの。騎士団の陣形戦術も、キャベツの効率的な収穫ルートに応用してるし」
「……私も。気配遮断スキルが、完全に『カラスからトマトを守るため』に最適化された。害虫の急所(弱点)が、直感でわかる」
二人は遠い目をした。戦士としての誇りが、じわじわと土に還っていく。
「しかも、一番怖いのはね。……毎日タロウさんの作ったご飯を食べて、あの人の無茶苦茶な農作業を手伝ってるせいで……たぶん今の私、王国の騎士団全員を、素手でボコボコにして制圧できるくらい強くなってる気がするのよ」
「……奇遇ね。今の私の『鎌』なら、魔王の首でも一撃よ」
強くなりすぎた。農業の副産物として。
これ以上ここにいれば、人としての常識が完全に崩壊してしまう。
クロエが鎌を置き、静かに立ち上がった。
「……私は裏社会に帰る。この生活は、異常よ」
「そうね! 貴女の言う通りだわ!」
セシリアも力強く頷き、クワを置いた。
「私たちには帰る場所がある! 明日の朝、タロウさんが起きる前にこの森を出ましょう!」
二人の瞳に、かつての戦士としての鋭い光が戻った。
決意は固まった。もはや迷いはない。
クロエが、ぽつりと呟いた。
「……明日の朝食、タロウの『焼き立てパンと特製イチゴジャム』」
「……ッ」
セシリアの動きが、ピタッと止まる。
数秒の、重く、甘い沈黙。
セシリアは静かに、再び縁側に腰を下ろした。
「……お昼を食べてから帰りましょうか」
「……そうね」
王国最強の元エリートたちは、今日もタロウの胃袋支配から逃れられないのだった。




