表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『僕のペットは魔獣らしい。ついでに畑も作ってます』  作者: キトン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/14

第10話:王国軍、死の森へ(※魔王は昼寝中)

王国歴五百年の歴史において、これほどの危機はかつてなかった。


 『死の森』に君臨する絶対的な魔王。


 配下には神話級の厄災ケルベロスと不死鳥を従え、さらには王国の最強騎士と最強暗殺者すらも魔王の軍門(※農作業担当)に下った。


 そして極めつけは、数日前に森へ降り立った『終焉の黒竜』である。


「もはや、座して世界が滅びるのを待つわけにはいかん……!」


 国王は自ら建国神話に伝わる『聖剣』を抜き放ち、決死の覚悟で数万の王国全軍を率いて死の森へと進軍した。


「余の命に代えても、民だけは護り抜く! 全軍、突撃ィィィッ!!」


 王の悲痛な叫びと共に、地響きを立てて数万の軍勢が魔王の拠点ログハウスへと殺到する。

 国家の存亡を懸けた、最終決戦の火蓋が切って落とされた。


 ……しかし。肝心の魔王タロウは、連日の農作業の疲れから、丸太のベッドでスヤスヤと気持ちよさそうに昼寝をしていた。

 

 ログハウスの前庭。


 王国軍の先陣が放った投石機カタパルトの巨大な岩が、空を裂いて飛来する。


「よし! まずはあの巨大な犬の化け物を——」


 兵士が叫んだ、次の瞬間だった。

【右】『あっ! 今のいい投げ方だった! もう一回やろ!』

【中央(】『人間意外と遊び上手だな! よっしゃ俺が取る! 退けお前ら!』


 三つ首の冥界の番犬ポチが、千切れるほど尻尾を振りながら嬉々として空中に跳躍した。


 ポチは数十トンの岩石を空中で『パクッ』とフリスビー感覚でキャッチすると、「ほら、もっかい投げて!」とばかりに王国軍の陣地へとポイッと投げ返した。

 ズドゴォォォォォォンッ!!


「ぎゃああああ!?」


 じゃれ合いのフリスビー(巨大岩)が直撃し、王国軍の投石部隊が一瞬にして壊滅する。


 ポチは「あれ? もう遊んでくれないの?」と首を傾げていた。


「ば、馬鹿な……投石機による一斉掃射が、ただの犬の遊びだと!?」


 前線から報告を受けた国王は、血の気を失いながらも声を張り上げた。


「怯むな! 宮廷魔導士団よ、黒竜を狙え! 奴が空へ飛び立てば、すべてが終わるぞ!」


 数百人のエリート魔導士たちが、命を削って巨大な魔法陣を展開する。


 空を真っ赤に染め上げるほどの、超高密度の魔力。

「総員、命を賭けろ! 極大滅竜魔法、発動ォォォッ!!」


 大気を焼き焦がす巨大な閃光が、庭で丸くなっている終焉の黒竜へと放たれた。


 直撃すれば、山一つが丸ごと消し飛ぶ威力の必殺魔法。

 だが。


 ぽかぽか陽気の中で気持ちよくまどろんでいた黒竜は、眩しそうに薄目をあけると、大きな口をパカッと開けた。


『ふぁぁ…………』


 黒竜が、ただ無防備な『あくび』をした。

 その口から漏れ出た微かな吐息が魔法の閃光と衝突した瞬間——パリンッ!! と、極大滅竜魔法はガラス細工のようにあっけなく粉砕され、霧散した。


 さらに黒竜の吐息が地面を撫でた。それだけで、最前線に構えられていた王国軍の強固な大盾が、まとめて粉々に砕け散った。


「…………え?」


 魔導士団の長が、杖を取り落とした。


「終焉竜の……あくびだと……?」


 命懸けの極大魔法が、ただの寝起きの『あくび』一つでかき消された。


 そのあまりの次元の違いに、数万の王国軍の心がポキリと音を立てて折れかける。


「お、おい! みんな武器を下ろせ!!」


 その時、ログハウスの裏手から、エプロン姿のセシリアと、クワを持った暗殺者クロエが血相を変えて飛び出してきた。


「セシリア様! 無事でしたか! 今、我々がお助けを——」


「違う! 助けなどいらん! お願いだから帰って!」


 セシリアは涙目で王国軍に向かって叫んだ。


「タロウの寝起き(不機嫌)は本当に危険なの!!」


「頼む、命が惜しければ退け」


 クロエもまた、真顔でクワを握りしめながら同調した。


「あの男の“不機嫌”は、我々でも止められん……ッ!」


 極度の緊張と恐怖で、王国軍の兵士たちが次々と膝から崩れ落ちていく。


 もはや、一歩も動けない。世界が終わる。真の厄災が、目を覚ます——。


 その瞬間、ポチも黒竜も、ぴたりと動きを止めた。


 ギィィィ……。


 ログハウスの木の扉が、ゆっくりと開いた。


「ふわぁ……ん? なんだか外が騒がしいな……」


 寝癖をつけ、パジャマ代わりのジャージを着たタロウが、目をこすりながら姿を現したのだった。

 (この男が……魔王……)


 国王は震える手で聖剣を握り直し、息を呑んだ。


 黒竜の黄金の瞳が、ゆっくりとタロウへ向いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ