眠るために気持ちを書き起こして
電気を消して、布団に潜り込んだ瞬間から、夜は本性を現す。
昼間はちゃんと隠れていたはずの考え事が、天井の暗闇に浮かび上がってくる。
どうしてあの時、あんな言い方をしてしまったんだろう。
あの選択は、本当に正しかったのか。
そもそも、正しかった選択なんてものが存在するのか。
目を閉じると、思考の音だけがうるさい。
時計の秒針が進むたびに、眠れない自分が責められている気がしてくる。
寝なきゃ、明日がつらい。
分かっているのに、脳は「今じゃない」と言い張る。
布団は優しいはずなのに、今日はやけに距離がある。
抱きしめてくれるどころか、考え事を固定するための檻みたいだ。
横を向いても、仰向けになっても、何も変わらない。
逃げ場がない。
夜って不公平だと思う。
昼間は「大丈夫」と流せたことを、わざわざ拾い集めて並べ直してくる。
しかも解決策は用意しない。
ただ「ほら、これも」「まだあるよ」と、思考を投げてくるだけだ。
こんな夜こそ、寝かせてくれよ。
特別なことなんていらない。
夢なんて見なくていい。
ただ、意識が途切れるところまで連れて行ってほしいだけなのに。
でも夜は知っている。
落ち込んでいる人間ほど、無防備だということを。
だから静かに、丁寧に、心の奥を指でなぞってくる。
忘れたふりをしていた感情を、確かめるように。
ため息をついて、布団の中で小さく丸くなる。
考えるのをやめようとして、考えることしかできない自分が少し可笑しくなる。
笑えないのに、可笑しい。
それでも、いつかは眠りが来ることを、体は知っている。
朝は勝手にやってくるし、今日もちゃんと終わる。
だから今は、起きたまま夜をやり過ごすしかない。
天井に向かって、誰にも聞こえない声でつぶやく。
「今日はもう、十分考えたよ」
返事はない。
でもその言葉を境に、思考の輪郭が少しだけぼやける。
完全じゃない。
救いでもない。
それでも、眠れない夜の中で、ほんの一瞬だけ、
「このまま消えてもいいかもしれない」と思える余白が生まれる。
その余白に、静かに眠りは忍び込む。
気づかないくらい、控えめに。




