第6話「この、変態ッ……!」
「じゃあ、『アレ』も見たの?」
「アレって?」
「アタシたちが水着に着替えてるところ」
紅瑠璃がガバッと俺から飛びのいた。その顔は真っ赤になっている。
「み、みみ、みたの!?」
「みてないよ!」
誓って本当だ。神様でも仏様でもアフラ・マズダーにでも誓ってもいい。俺が見たのは双子が海に飛び込む直前からであって、決して彼女らが着替えているところを見たわけではない。
ていうか、白昼堂々水着に着替えてたのか、この二人は!?
「嘘よ!」
紅瑠璃が鋭い言葉で刺してくる。
「だからみてないってば!」
必死に弁明するも過去の出来事を、しかもやっていないことを証明するなんて悪魔の証明に等しい。
「この、変態ッ……!」
青空の下、乾いた音が響いた。
* * *
右頬がヒリヒリするなか、俺は鼎先生に手伝ってもらいながらあたりめを食べていた。
この痛みは無論冤罪により発生したわけで、誠に遺憾だとは思いつつも、別に悪い気分ではなかった。
最後のあたりめは一段と固く、タバコみたいに咥えながらふやかす。
「あーん」
すると、なんということか、先生が反対側からポッキーゲームよろしく食べようとしてきた。
「やめてくださいよ、先生!」
俺は間一髪のところで避けると、慌てて残りを口に突っ込んだ。ぜんぜん固くて、歯が折れてしまいそうだ。
「それにしても、二人が出てってからもうすぐ1時間。大丈夫でしょうか」
よだれを袖で拭いながら先生はいった。
「お二人のお父様に重傷を負わせた相手ですよ。それを捕まえるなんて……」
「なんとも言えないっすけど——」
ふやけたあたりめを噛みちぎり、奥歯で細切れにする。
「二人が大丈夫だといってるなら、大丈夫じゃないんすか。信じてあげるのが俺の役目なんで」
そのとき
「おーい!」
船の一団が港に近づいてきた。先頭には星月姉妹が水を滴らせながら手を振っている。
二人は、満面の笑みを浮かべていた。
その笑顔を見るだけで、俺も口角が上がる。
船団のうしろには体長15メートルを超える巨大イカが引っ張られていた。今まで見たことないくらいの白光りする巨体に、鼎先生は
「ウッヒョー!」
俺も
「おおっ」
と感嘆の声をあげた。
「とんでもねぇ!」
「まさか、本当に〝海の主〟を捕まえちまうなんて!」
漁港に駆けつけた人たちは次々と歓声をあげる。それが妙に心地よくて、俺は空を見上げた。
夏の日差しは夕陽へと変わり、天を茜色に染め上げていた。遠くにラピュタを格納できそうなくらい大きな入道雲が浮かんでいる。
薬が届くまであと3日。
その間、俺は1時間に1回イカを食べないと死んでしまう。
必要なイカは確保できたつもりだけど、どこか不安がくすぶっている。安心してはならないと、心が叫んでいる。
なぜなら、夏休みが始まってしまったのだから。
夏休みは、何が起きるのか誰にもわからない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
このあとも雲川くんを中心にドタバタ劇は続く予定ですが、書くかは皆さんの反応をみて決めたいと思います。
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