第5話「じゃあ、『アレ』も見たの?」
やがて、目の前から重い声が聞こえてきた。
「それで大事な娘が二人死んだら、お前はどう責任をとってくれるんだ、エェ?」
背筋がゾクリとした。
「生き残ったとしても俺みたいに片腕なくしたら、お前は面倒みれんのか? 俺はかつてヤツと戦ったことがある。だからこそ、こいつらにはまだ早えッつってんだ」
「でも、二人の泳ぎは……」
「まともに泳げねえ素人がよ。ぐちぐち口出ししてんじゃねぇよ。そんな生意気な口を叩くんなら、テメェから〝教育〟してやろうか!?」
やっぱ一発殴ったくらいじゃ現代の戸塚宏は目を覚さないか。だったら正面から殴り合って……
いや、待てよ。そんなことやって二人が喜ぶか。それに、俺はこれでも病人だ。万が一のことがあったら————
「星月さんよ、もう、いいんでねえか」
ふと、後ろから声が聞こえた。
振り返ると、島で有名な「偉そうなオーラを出してるおじいちゃん」がいた。かつてナメック星人の襲撃から島を守ったと噂されているが、俺は嘘だと睨んでいる。
「しかし、会長……彼女らはまだ……」
「二人の泳ぎは、二人がよぉく知っとる。娘を信じてやるのも、父親の役目だべ」
「そうだべ、ルリノちゃんクルリちゃん、二人ともよう泳げるべ」
「巣立ちの年頃よぉ」
周囲から続々と島の漁師たちが出てきた。少なくとも10人以上はいる。
「高校の先生方から話は聞いとる」
「雲川さんとこの息子さんがイカがないと死んじまいよるんって」
「ワシらも船から見守るたい。行かせてやってもえぇんじゃねぇか?」
海の男たちは次々と双子の味方につく。
「しかし、2人に万が一のことがあったら……」
父親は渋い表情を浮かべるも、
「大丈夫たい。俺たちが保障する」
「それともなにかい。ワシらのいうことが信用できねぇってか!?」
ついには頭を垂れることになった。
* * *
双子の出陣が決まると、妹の瑠璃乃は俺と姉の紅瑠璃を漁業組合事務所の裏まで連れてきた。
プレハブ小屋の裏は日陰になっていて人気がなく、潮の匂いと魚の臭いが入り混じって夏の熱で茹でられたような、ジメジメとした空気をしていた。
「どうしたの、急に」
俺が言うが早いか、
瑠璃乃が、真正面から俺に抱きついてきた。
鼓動が大きくドクンといった。紅瑠璃は「なっ……」と声を上げたっきり、俺たちに釘付けになっている。
「ど、どうしたの、瑠璃乃ちゃん」
「ありがとう、センパイ……」
瑠璃乃は俺のワイシャツに顔を埋めながらつぶやいた。
「アタシ、怖かった……お父さんに叱られるだけじゃない……アタシたちだけで〝海の主〟を倒せるか不安だった」
腰に回した腕の締め付けが強くなる。モチモチした肌と柔らかい桃——今まで感じたことのない感触が体に密着して……、
彼女の震えを敏感に伝えていた。
「だから、センパイがアタシたちのことを『大丈夫』っていってくれて嬉しかった。……ありがとう」
そんなことないよ、といおうとしたときだった。
紅瑠璃が、俺の背後から抱きついてきた。
Wow!
妹よりは張りのある体で妹に負けじと締め付けてくる。
あまりの強さに腹が潰れるくらいの痛みが全身を駆け巡る。しかし、同時に女の子二人から——しかも美人双子姉妹から前後でサンドイッチされている状態に、脳は快楽物質を閉店セールよろしく分泌し続けた。
「あたしも、ありがとう……」
紅瑠璃がワイシャツに顔を埋めながらいう。
「あんたが来てくれなかったら、あたし達はあのまま暗い部屋に閉じ込められて、いつものように『はい』ということしかできない機械になるところだった。本当に……本当に、ありがとう」
その声は潤んでいた。
「別に、俺は依頼主の役割を果たしただけというか、二人が無事でよかったというか……」
このまま二人の手を握ろうとしたら、
「……そういえばセンパイ。アタシたちが泳いでるところ覗き見したんだよね」
瑠璃乃が口を開く。
「たまたま、ね」
「じゃあ、『アレ』も見たの?」
「アレ?」




