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タイトル未定2025/10/27 19:36

「あーあ、俺異世界行きてえなあ」


 彼の名は慎司。容姿はぱっとせず、頭脳も明晰とは言いがたく、目立った特技のない普通のフリーターだった。

 そんな彼は主人公が異世界に行き、大活躍してハーレムを築くアニメを見て夢中になった。


「おい、お客様来てるぞ!」

「あっすみません! いらっしゃいませー」

 (はぁ、こんな糞みたいな世界は俺の居場所じゃないんだ……)


 バイトが終わると、一人暮らしのアパートに帰宅する。

「寝て目が覚めたら異世界行ってねえかなあ……」


 慎司は眠りについた。


 ──きて、起きて


「ん、なんだよ……うるさいなあ……」


 目を開けると長い金髪を、縦長にドリルのようにした美しい女性が顔を覗き込んでいた。


「あれ!? え?」

「おーっほっほっほ! 目覚めたわね!」

「なんだ!? どういうことだ!?」


 広がる光景も赤い木や虹色の草など見たことのない植物が広がっている草原だった。


 ここはまるで──


「ここはユスケティア。私も奴隷が欲しいと思ってね、試しに召喚したのよ」

「召喚……? まさか悪役令嬢ってやつか!?」

「それじゃ、試しに魔王を討伐してもらおうかしら」

「試しにっていきなり終わってねえか!?」


 話していると頭が3つ生えている狼のような動物がやってくる。いや、狼ではない、そのサイズは虎に匹敵する。


「う、うわ! なんか化け物が来たぞ!」

「あれはケルベロス! さあ、使い魔としての力を見せなさい!」


「ぐるぅううううううう!!!」


 けたたましく威嚇するケルベロス。


(ま、待てよ!? 異世界に来たって事は俺の能力が覚醒しているのでは!?)


「ククク、いいだろう、来い魔獣。俺の秘められた力を見せてやる。出でよ、地獄の業火! 唸れ、奴を呑み込め!」


 そう言い慎司は力をこめ、右腕を突き出す。すると、慎司のマナと同調し地獄から漆黒の炎が生成される──!


 ……ことはなかった。


「あ、あれ? 出でよ!」


 ケルベロスは怪訝そうに首を捻ると、やがて相手する価値も無いと判断したのかあくびをし、去って行った。


「ぷっ、出でよ! 地獄のごう、くっ、あっははははは、ごほっごほっ……」


 悪役令嬢は下手な物真似を披露しきることなく、腹を抱えて笑っていた。


 「あのねぇ、ケルベロスはレベル1のクソザコナメクジなのよ? それに相手すらされないって……」


「い、いや、俺には秘められた力が……」

「もうそれは聞き飽きたわ。わざわざ来て貰ってごめんなさい」

「そんな、こんな世界いても意味ないじゃないか……どうやって帰れば……」

「魔王を倒さなきゃ帰れないという契約なのよ」

「魔王って強い?」

「レベル9999と言われてるわ。実際には9999までしか計れないからもっと上とも言われてるわね」


 慎司は目の前が真っ暗になった。


「まぁしょうがないから帰れるまで面倒を見てあげる」


 そして慎司は悪役令嬢の居候になった。


「くそ、俺には何か力があるはずなんだ……! どうにかして魔王を……」


 慎司は酒場でぼやいていた。


「お客様、ご注文は」

「あ、あぁ、何がいいかな」

「こちらのストゥルベリードリンクがおすすめです 」


 そう言われ、ストゥルなんちゃらを頼み、飲んで吹いた。

 あまりにも不味すぎる。


「あぁ、せっかく赤色着色料666号を使ったのに」

「ごほっごほっ、なんだよそれ! ふざけんな!」

「1988ゴールドとなります」

「な、悪役令嬢のお小遣い300ゴールドだぞ! 俺は魔王を倒さなきゃいけないのに……!」


 その時だった。


「兄ちゃん、魔王を倒そうって言うのか?」


 そう話しかけてきたのは鎧と筋肉に覆われた屈強な男。

 見るからに強そうだ。

 そうだ、自分が戦えないなら戦えそうな人を集めればいいじゃないか。


「俺はアンドリュー。戦士だ。こっちがカイル、魔法使い」


 カイルは見るからにインテリといった黒髪に眼鏡をかけたスマートな男だ。


「カイルはなんと空間を凍らせる魔法が使えるんだぜ」

「え!? そりゃ凄い! それにアンドリューさんも強そうだ! これなら希望が見えるんじゃ……」


 詠唱を始めるのだろう、カイルは深く息を吸うと何やら口にした。

 

「俺は30までに結婚するはずだったんだ。でも未だに結婚相手がいないんだ……」


「……」


 場に重い空気が流れる。

 なんと言えばいいか分からない。



「な? 凄いだろ、カイルの空間を凍らせる魔法! 飲み会で解散したい時に凄く便利なんだ」

「凍らせるってそういう意味かよ! 使えねえ!」


 その時、ドアが勢いよく開かれる。

 そして何やら高貴な面構えをした男がつかつかと歩いてくる。


「マスター、いつもの頼む」

「あいよ」

「あ、魔王! 今日も愚痴か?」

「え!? 魔王!?」

 

 アンドリューはさらっと信じられないことを口にした。


「ああ。カミさん、全然構ってくれないんだ。それに娘も俺なんか無視するんだ」

「俺も結婚はもう諦めてるんだ……年齢が年齢だからな……」

「結婚願望が無いと言えば嘘になるが、収入がな……」

「結婚したっていいことなんてない。裏切られるのがオチだ……洗濯物を一人だけ取り残される虚しさを考えてみろよ……」


 3人で何やら傷の舐め合いが始まった。


「君も結婚なんてするものじゃないよ」


 魔王にまで何やら言われる。


「あの、魔王さん世界を滅ぼすんじゃ?」

「家庭が崩壊してるのに世界崩壊させるどころじゃないだろ……」

「あっ、そうですか……俺、あなたを倒さなきゃいけないんですけど」

「君は若いしいくらでもチャンスがある。君の勝ちだよ」

「いや、そうじゃなくて……」

「それに比べて俺はもう400代後半……くそっ……なんて人生なんだ……俺は負け犬だ……」

「魔王さん、その元気出し──」


 次の瞬間慎二は部屋にいた。

 

「あれ、俺は魔王を倒したことになったのか……」


 ──


「俺、バイト辞めます」

「そうか、まあ今までご苦労だったね。しかしこれからどうするんだ?」

「資格を取り、IT企業に就職します!」

「異世界異世界言ってたのに急に現実的になったな」

「いや、異世界なんていいことありませんよ……」


 それから慎二は中小企業に就職し、数年後にはそれなりの相手と結婚し、そこそこ幸せになった。

 あの異世界……なんて言ったっけ、あれがどうなったかは知らないが慎二は現実世界では勝ち組と言える存在になった。

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