オカルト研究会の戦い
男2人と女1人の織りなす三角形・・・
始めはきれいな正三角形であってもいつしか時間が形を二等辺三角形へと変え、やがては不等辺三角形となり破綻してゆく。
タッチしかり、ドリカムしかり・・・
県立山川高校オカルト研究会においてもそれは免れ得ぬ運命であった。
山川高校オカルト研究会。
部員はわずか3名、部長の来生と副部長の井沢、そして紅一点の北里だ。
元々、来生と井沢は小学校からの幼馴染であり、親友でもあった。
しかし、北里の存在が、2人の友情を変質させてゆく・・・
まるで漆黒のブラックコーヒーにスジャータを入れると茶色くなってゆくように・・・
いつしか、来生と井沢は北里をめぐって親友から恋のライバル関係となっていた。
だが、直接北里に気持ちを伝える程の勇気を持たぬチキンであった彼らは、あくまで2人の間だけで、北里は自分のものだと主張し合っていた。
オカルト研究会におけるユリア的ポジションの北里・・・
入部した時には、オカルト好きのさえない女子ではあったのだが、ここ最近垢抜けて、元々素材が良かったのもあり、第三者的に見て美少女と呼べる程の容姿になっていた。
だが、来生と井沢が北里に惚れたのは、北里が垢抜ける前からであった。
同じオカルト好きで話があって、来生と井沢に普通に話かけてくれる。
たったそれだけのことだが、女子と縁薄い彼らのハートを射抜くには十分であったのだ。
しかもここ最近北里が垢抜けて美少女化したことで来生と井沢の恋の鞘当てがさらにヒートアップしていった。
そして高校2年の春、決戦の時がきたのだ。
オカルト研究会は校舎3階の空き教室を部室としている。
今日は新入部員勧誘の為のビラをつくる予定だったのだが、北里が遅れるとのことで、部室には来生と井沢の2人だけとなった。
例によって北里にはどちらがふさわしいかの話になった時、どちらからともなくいい加減はっきりさせようという話になり、今から勝負しようということになった。
この勝負でもって負けた方が北里を諦める。
そして勝った方が北里に告白をする。
何をもって雌雄を決するか?
2人が選んだのはオカルト研究会らしく
コックリさんだった。
コックリさんを呼び出し、どちらが北里にふさわしいか決めてもらうのだ。
五十音と「はい」と「いいえ」を書かれた紙が置かれた机に来生と井沢が向かいあっている。
紙の上に十円玉を置き互いの右人差し指を十円玉に置き、コックリさんを呼び出す儀式の呪文を唱えた。
通常のコックリさんであれば、呼び出されたコックリさんが十円玉を五十音の位置に動かしメッセージにして伝えるのだが、2人はコックリさんのメッセージをおとなしく聞く気などさらさらなかった。
お互いとも相手を出し抜いて指で自分の名前に誘導しようとしていたのだ。
こうして、2人の指先に異様なまでの力が入ったコックリさんが始まった。
「ぐぐぐ・・・」
「ぎぎぎ・・・」
「くっ、井沢、お前力入れてないか・・・」
「お、お前こそ・・・」
2人は互いに牽制しつつも指先の力は緩めない。
はたから見れば、さえない男子高校生2人が、向かい合って机に指をくっつけてにらみ合っている残念な光景だが、当人達のイメージの中ではそうではなかった。
来生は右腕に封印されし黒龍を解放し、井沢の額には竜の紋章が輝いていた。あくまで当人達のイメージの中だけのことなのだが・・・
それだけ彼らは本気だったということなのだ。
だが、コックリさんの儀式は招かれざる客を呼び出していた。
ヨシオ・・・
それは山川高校に住み着く地縛霊であった。
本名、山寺義男。
通称、ヨシオ。
50年前、山川高校の生徒だったヨシオは不慮の事故で帰らぬ人となった。が、魂は愛する母校に帰ってきてそのまま山川高校に住み着き地縛霊と化した。
そしてコツコツと歴代の生徒達を怖がらせ、驚かせて、やがては山川高校七不思議の一角を任されるまでになった山川高校一筋50年のいぶし銀の地縛霊である。
ヨシオのすることはただ一つ、この机に向かい合うさえないボーイズを死ぬほどビビらせることである。
ヨシオはどうやって怖がらせるか考えた。
(激怖メッセージでも送ってやるか・・・
「オ・マ・エ・タ・チ・ヲ・コ・ロ・ス」なんてな、くくく、あいつらションベンちびるかもよ・・・)
自身の恐怖の伝説に新たな1ページを加えるべく、ヨシオは来・井戦争の最前線たる十円玉を動かそうとした、が、動かない。
2人の力、あるいは執念か?
この力の均衡により、ヨシオの力ではどうしょうもないくらい十円玉は動かなかった。
(くっ!それなら・・・)
ヨシオは部屋の隅にある掃除用具入れのロッカーに目をつけた。
バンッという音とともにロッカーの扉が突如として開き、中からほうきが倒れてきた。
いつもだったらビビり散らかす2人だったが、この時は違った。
ヨシオのドッキリは、極限に集中している2人の神経どころか逆鱗を逆撫でしてしまった。
「黙れっ!クソ霊!!」
「ぶち殺すぞ!オラァ!!」
来生と井沢は、目に見えないがこの部屋のどこかにいるであろう霊にありったけブチギレた。
まだ一言も喋ってないのに黙れと言われたヨシオ・・・
もうすでに死んでいるのにぶち殺すと言われたヨシオ・・・
ヨシオは2人の暴言に傷つき、部屋の隅っこでおとなしくなった。
その時、部屋のドアが開いて、女子高生の声が響いた。
「遅くなってごめんね。
あれっ?来生君、井沢君、何してるの?」
「あっ北里さん!
な・・・なんでも・・・」
来生と井沢は慌ててコックリさんの紙を丸めてゴミ箱のほうに投げた。
もちろん、良い子はこんな終わらせ方をしてはいけない。
北里が現れたのだ。
だが、1人ではない、隣に長身の男子高校生を連れている。
その男子高校生の名は遠藤・・・来生達の上級生でサッカー部のキャプテンであり、クラスどころか学校全体のカーストでもトップクラスの男であった。
「北里さん。なんでサッカー部の遠藤先輩と・・・?」
来生が恐る恐る聞いて見ると
「私ね、実は先月から遠藤先輩と付き合ってるの。
でね、遠藤先輩を支えてあげたいからオカルト研究会を辞めてサッカー部のマネージャーになりまぁす!」
「なにィっ!!?」
北里のあまりにも突然過ぎる申し出に、来生と井沢は昭和の週刊少年ジャンプ漫画のようなリアクション声を上げた。
北里は恋をしていたのだ。
恋が北里の中の芋をすっかり洗い落としたのか、あるいは遠藤が北里の素材を見抜いてきれいに芋を洗い落としたのかは分からない。だが、紛れもなく今の北里は遠藤と美男美女のお似合いのカップルになってしまっていたのだった。
北里は退部届を置いて遠藤と部室を出ていった。
部室を背に遠ざかる北里と遠藤の後ろ姿。
2人が仲良く手を繋いでいるのを、来生と井沢は見逃さなかった。
相手が遠藤では勝ち目がなかった。
学校内でのカースト。
ルックス。
身長。
コミュニケーション能力。
あまりにも、あまりにも差がありすぎた。
小魚スイミーと海の王者シャチ程の差があると言っても過言ではなかった。
例えスイミーが赤備えのスイミー小魚軍団を組織したとしても瞬殺されるほどの差があったのだ。
勝者なき死闘・・・
山川高校オカルト研究会にそう語り継がれるであろう戦いはあっけない幕切れをむかえた。
来生と井沢は部室の窓から外の景色をただ眺めていた。
「まあ・・・生きてりゃいいこともあるさ。
あんまり気をおとすなよ。」
どこからかそんな声が2人には聞こえた。
どれくらいの時間がたったのだろう。太陽は高度を下げ、鮮やかな夕日に姿をかえた。
2人は涙でにじんだ夕日を見つめていた。




