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怪奇エンバー  作者: モッズコート
赤い瞳の蜘蛛事変
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虫けら

 信者を増やす方法というのがある。

 この時代が一番やりやすい──というので。


「信仰する事により神に愛される」という嘘をつく。

 この時代はなにかと不幸事ばかり見受けられるがそうではないのだという。


 幸福もあらゆるところに溢れている。


 生存者バイアス。


 儀式をさせれば「儀式をしたんだ」という意識を持つようになり、いずれは成功体験に注視するようになる。


 心理効果。


 怪しげなカルト──児静教はそうやって信者を集め、金を儲けてきたのだと言う。


 憤怒は募り始める。


 信者はいずれ児静教の言う事を何でも聞く変態Machineになるように洗脳される。


 恋人や友人、家族を殺すように命令させられる。そのうちの幾つかは明るみに出なかった。


 そして、やっぱりそのうちのひとつが2年前のあの事件なのだと言う。


 5人の信者はどこに行ったのか。


 調べる。


 そのうちになにやら郊外にある廃墟が怪しいぞ、と言う話になってきてしまう。


 そこには昔は工場があり、その隣に事務所があったが、工場が燃えたということで経営でも傾いたのか壁が黒く焦げた事務所だけが残った。


 此処は不気味だと言うので地元の人間も近付かないというので、隠れるにはいい場所だ。


 そこについてみれば、5つの死体。首をつったらしく、地面には糞尿。首がのびた死体がある。


 旭は少し気持ち悪くなった。


 卓也はその糞尿を間近に見に行き、「死んでからおおよそ2週間だね」と言う。


 そして、「何故今になって死ぬのか」と疑問を抱く。


 黒く焦げた事務所を出たところで、卓也は嘔吐した。どうやら相当に気持ち悪かったらしい。


 吐き出しきると、「児静教を調べないと」と言う。


 警察に通報して、取り調べを受ける。


 どうしてこんなところに来たのか。

 まさかデートでこんなところに来る訳ないな。

 犯人は現場に戻ると言うからな。


 警察にはこのような事を言われたが、旭が祓い屋の紋章が入った手帳を見せると、途端に警察は縮こまった。


 警官のうちのひとりが卓也が持っていた手帳を奪う。まだ若くて、それの意味がわからなかったのだ。


 他の警官が制止する中、それを周囲の人間に見せびらかす。


 寒河江卓也。


 その名前を見る。


 寒河江。


 その苗字が意味する事は、すなわち恐怖。


 一番偉そうにしていた警官は途端に子犬のようになり、父親の名前を訊ねた。


 寒河江吉之助。


 そう名乗ると、その警官は頭を地面にこすりつけて謝り始めた。


「最近の警察は情緒がおかしいね」


 卓也はそう言ってふわふわ笑うと、ギターを弾いた。運転席に旭を置いて。


「頑張ってね」とあえて言う。


 しばらくそうして「白鳥は何処に」を弾き語りしたり……「アランブラの思い出」を弾いてみたり。


 しかし、ふと止まる瞬間があった。


 そういう時、決まって右眼が点滅していた。

 旭はそこでようやく合点がいった。


 卓也の右眼はきっと霊力の状態が色濃く現れるのだろう。何かの拍子に点滅してしまう。


 本当にそうだろうか?

 ……という違和感はあったが。


「まだるっこしいな」


 ふと、卓也は言う。


「なにがですか」


 旭が訊ねる。


「もう児静教潰しちゃおっか」

「それは」


 ふと考える。別にいいんじゃないか、と。


「では道を変えます」

「ありがとう」


 児静教の()()()に到着する。

 まるで外国の城のような大きな建物。


 噴水の前に無造作に車を停めると、ふたりは降りる。


 1歩1歩踏み出していく。ひとりまたひとりと信者が外に出てくる。


 禿頭の女が声高らかに宣言する。


「児静教第7幹部のオウエの権限により命じます! 新規信者よ『理の儀』をあのふたりで行いなさい!」


 卓也は拳銃を抜くと、その禿頭の女の右足に弾丸をぶち込んだ。


 旭は驚いて、卓也を見る。

 卓也の右眼は黒かった。


「左脚は先天的に動かんのだろう」


 怒っている。

 卓也は猛烈に怒っている。


 ようやく自由になった、と言わんばかりのバリトンボイスがあたりに響き渡る。


 銃声に驚いた信者たちを置いてけぼりにして、卓也はギターを旭に渡す。


「そうだろう」


 そして、言う。


「虫けらァ」

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