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怪奇エンバー  作者: モッズコート
赤い瞳の蜘蛛事変
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はじめての霊能事件

 いまから2年前。1965年。


 宮城県の海にて、海賊に船が襲われた。


 積んであった魚は盗まれ、犯人も捕まらないまま「海賊が犯人だ」という事実だけがあった。


「──その話を俺にしてどうしろって言うんだい? お嬢さんよゥ。俺は探偵じゃなくて怪しい稼業の祓い屋さんだよ」


 依頼人がやってきた。


 18歳の少女だったが、その歳の女には見合わない悲壮感のような物を背負っているように思えた。


「父の霊が夢に現れるんです。あの日から毎晩、暗黒の海の底から現れて、『みつけてころせ』と蠢くんです。きっと父は復讐を願っているんです」

「想い過ぎなのでは?」


 煙草を手でいじりながら、そう言って少女を見る。

 強く瞼を閉じ切って、また開ける。


 すると、少女に纏わりつく泥のようなものが見えた。それは怨念の籠もった悪霊だった。


「なるほど。確かに想い過ぎって訳じゃなさそうだ。悪いこと言ったね。ごめんよ」

「じゃあ……」

「ああ。犯人を見つけようか」


 少女は嬉しくなって立ち上がった。


 それに合わせるように卓也も立ち上がる。


「やってやろうじゃないか二階堂くん。事務所開設して以来はじめての霊能事件だ」

「そうですね」

「えっ、はじめて?」


 少女の顔に不安げな色が立ちこめる。

 それを落ち着かせるように、肩に手を置いた。


「大丈夫さ。貴女のお父さんに安らかに眠ってもらおう。ついでに犯人も見つけるんだ。優先事項はこんな感じだね」

「大丈夫なんですか、ほんとうに」

「ああ。俺の目が赤いうちはね」


 卓也はまずその事件の概要を調べた。


 得られた情報は当時の新聞を読めば分かるような物だったが、聞き込みをしていく内に不思議な話を聞く事が出来た。


「これは俺が言ったなんて誰にも言うんでねェぞ」


 中年で、ヒゲ面の肥えた漁師が網を弄りながら何度もしつこく卓也に訊ねる。


「怖くて警察にも言えなかったんだけどな、あの事件が新聞に乗るようになってから、漁師が5人ぱったり街から消えたんだ」

「漁師が?」

「んだ。最初は偶然もあるもんだなと思ってたんだけどな、偶然でねがった」

「というと、なにか共通するところがあったんだね」


 卓也の言葉に漁師が頷く。


「オラも漁師だからよ、他の漁師が集まる酒場に行けば話くらい分かるんだけど、その5人ってのが、『怪しいカルト』にのめり込んでたんだ!」

「おっと……」


 カルトと来た。


「この話はいろんな奴が知ってる事だから警察に誰かが話したろうと思ってたけんど……」

「誰も話さなかった」

「んだ。報復が怖がったのか、それともみんなそのカルトの信者で、仲間を庇ったのかだ」

「有力な話を聞けたよ。ありがとう。これ、今晩の酒か煙草にでもね」


 卓也は幾つかの金を出すと、漁師にあげた。


「おっ! 気前がいいね!」


 漁師は笑顔になって、それを懐にしまう。

 車に戻ると、真っ先に「カルト」と言った。旭はオウム返しに訊ねる。


「依頼人の父親が殺された事件が明るみに出始めた頃に、5人の漁師がぱったり姿を現さなくなったらしい。これってやっぱり関係あるよね」

「それ以外に何があるんですか」

「そうだよねェ」


 冷たい返事に卓也は困ったように小さく笑った。そうしてそのカルトを訊ねるために車を走らせる。


 それから20分と41秒後。


 車の前に男たちが立ちはだかった。


 そこはまだ人けの多い町中だったが、男たちは構わず、ふたりの乗る車を破壊して回った。


 ガラスがたたき割られ、ベコベコに凹んだ。


「なにをするんだよ」

「うるせェ! ちらちら嗅ぎ回りやがって!」

「二度と近寄って来られねェようにボコボコにしてやるのさ! 降りな!」

「降りるのは俺だけで構わないかい? こちらの……彼? 彼女? のスーツはおろしたてなんだ」

「気取りやがって!」


 卓也は車から降りると、「ギターを離さずに」と言い、鍵をかけた。


「優しいねェ、テメエの女にゃ手は出させないってか。かっこいいねェ、粋だねェ」

「実はまだあの人が男か女かの区別もついてねェんだなァ。仕事が終わったら聞くつもりでねェ」

「耳があればな!」


 男1が刃物を右手に持ち、襲いかかる。


 通行人が悲鳴をあげる。


 卓也はその右手を己の右手で受け止めると、思い切り肘に向けて左手のひらを押し当てる。


 ゴリッと醜い音がして、関節は逆の方向に折り砕けた。憂う間も無く、顎を左の手刀で打ち抜く。


「君たちは?」

「あぁ!?」

「君たちはヤクザか? いや、それにしては喧嘩の作法がなってない。では田舎の意気がった子供か? それにしては歳が熟しすぎてる。じゃあカルト? カルトなんだろうな、君たちは」

「テメェ……!」


 拳銃を向ける男2。その腕に蹴りを突き当てる。


「喧嘩の時は常に間合いを把握しなくちゃいけないよ。そうしなければこうなる」

「そりゃ自分に言ってんのか!?」

「君たちにだよ。わかるだろ」


 卓也は腰からベルトを引き抜くと、大きく振り回し、背後に迫ってきていた男たち3人を一気に仕留めた。


「君たちのうちひとり……そうだな。君に頼もう」


 そのうちのひとりを引きずり、車の中に押し込む。


「どうするつもりですか」

「いろいろ話してもらおうかなって」


「駄目だったかな」と卓也。

「駄目ではないです」と旭。

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