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怪奇エンバー  作者: モッズコート
赤い瞳の蜘蛛事変
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エース

 煙草屋で煙草を買い、事務所に帰る途中。


 少年がボールを転がすものだから、それを拾って「車に気をつけなよ」と注意を促す。


 事務所に帰ると、「子供たちが元気で嬉しいね」と旭に微笑みかけた。


「煙草に使う金を食費にしてみてはいかがか」

「たかだか40円だよ」

「そうですか」


 旭は何も言わなかった。

「まぁ3日に1箱のペースだしいいか」と判断。


「お仕事まだこないかなあ」

「あなた総本部での評判知らないんですか」

「顔出してないから知らないよ」

「そうですか。『商売潰し』と呼ばれているんですよ」

「なぜに?」

「あなたがあまりにも本当のことを言うから、一般人のみんなが『髪が伸びる日本人形』も『金縛り』だって恐れなくなり始めたので、一般からの依頼が2.5%減少したんです」


 それを聞いて、卓也はしめしめという顔をした。


「それは良いことを聞いたぞ。意図的ではなかったけれど、俺の最終目標に近付いた」

「最終目標とは?」

「此処だけの話、俺は祓い屋総本部を裏の世界にのみ収まる組織にしたい。怪奇に怯える人々に『科学で証明できるものもある』と触れ回って、本物のみを対処する組織にしたい。いわゆる改革だよね」

「あなたの最終目標は多くの人から収益を奪う」

「人を騙して得た金なんて酒代にもならんさ」


 卓也は笑む。


「君は嫌かな」

「…………」


 そうしていると、戸がノックされた。


「寒河江さんいる?」

「エース!」


 卓也は少年の声を聞くと喜んで戸を開けた。そこに立つのは短髪の少年。油が染みた服を着ている。


「直ったよ。性能も大幅に強化した。反動が大きいから気をつけてね」

「いやぁ、ありがたい」


 それは拳銃らしい。


「うちの作業場から盗んで試し打ちした米軍の兵士が腕を引きちぎったよ」

「えっ……大丈夫なのかい、その人は」

「嘘さ」

「えっ」

「寒河江さん、あんまり人が良いもんだからつい嘘をつきたくなるね」


 エースと呼ばれた少年は卓也にぐいと顔を近づけると「煙草くさいよ」と言った。


「ちゃんと着替えてる? また貯金削って煙草とか買ってない? 稼げてる?」

「君は俺の母親か? 大丈夫だよ、子供の心配する事じゃない。それに、祓い屋デビューしたので付き人ができました」

「付き人? あんたひとりが良いんじゃ……?」

「まぁ、総本部が勝手に組み込んだんだよね。でもいまじゃ話し相手になってくれるからとてもありがたい存在。道案内もしてくれる」


 エースは「へー」と応えて、旭を見た。


「この人、あんまりだらしがないから嫌になるかもしれないけど、性格は良いからあんまり見限んないであげてね。あと……」


 耳打ちをしたい、というジェスチャー。


 近寄ってみれば、「ギターを弾いている時は刺激しないであげて」と言う。


 旭は「善処します」と答えた。エースは困った顔で小さく笑いながら、去っていった。


「あの少年はなんですか。ウリという訳でもなさそうだ」

「俺ァ女の人が好きだからな……」


 旭の切り出し方に小さく笑って、卓也は答える。


「いわゆるガンスミスさ。北野(きたの)永介(えいすけ)。俺が17歳の頃に出会ってからたびたびお世話になってるんだ。もともとチャリンコだったけど……いろいろやったら懐かれたのかなァ……」


 旭は「いろいろ?」と小さく口の中で転がす。


「彼は所謂渡り鳥さ。一箇所には留まってくれないから仕事の依頼をしたくてもなかなか出来ない。でも腕が良いもんだから彼に固執しようとしてしまう」


 確かに、卓也が受け取った拳銃はひと目見ただけで良い物だと分かる風格を帯びていた。


「彼も祓い屋になりたいと言っていたな。もしそうなったら、支えてやってくれよ」

「かまいませんが、貴方はどうするんですか」

「彼が21になるまでには生きてられるかわからんからなぁ……」


 エースは15歳。たった6年の歳の差。たった6年すぎればエースは21歳になっている。


 その頃には1973年か。


「病ですか?」

「いや……」


 卓也は続きを言おうとして──ハッとしたように口を閉じ、笑みを浮かべる。


「踏み込んでくるな」と言っているようだった。旭は「どうでもいいですが」と言い、1歩引いた。

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