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怪奇エンバー  作者: モッズコート
赤い鋏脚
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師としてのおもい

 そういえば、最近各地で怪異の出現が増えているらしい。寒河江にそういう話を聞いて、蕃茄はムムムッと思いながら、日々の学生生活に興じていた。


 寒河江はいまだに蕃茄を付き人にする事をよしとは思っていないらしい。蕃茄にとって付き人になるという事は将来的に祓い屋になるということ。


 寒河江は蕃茄には普通の人間として生きていてほしいという願いがある。いまはクラムと結託して怪異を倒せているが、それはいつまでも永遠にというわけにもいかない。


 もし大人になって、その時クラムがいてもいなくても、蕃茄はきっと祓い屋になろうとする。


 蕃茄のような少年にはしっかりと普通の社会で生きて、しっかりと普通の人間のまま年老いていって欲しい。寒河江にとって蕃茄はいまだに庇護対象であった。どんなに怪異と戦えるからと言って、つい最近まで普通の高校生だった人間が、心身ともに無事なわけがない。


 きっと何処かで無意識に無理をして、きっもいつかその無理が崩壊して、おかしくなってしまう。自分の父がそうだったように、蕃茄もそうなってしまう。


 寒河江卓也という男はいまでこそ「人類の敵」という立ち位置に立とうとしているけれど、ほんとうは人類を護る側に立っていた男だった。腐りきっていた祓い屋総本部の体制を変えるきっかけを与えたのは寒河江卓也。悪の軍団「児静教」を解散にまで追い込み多くの無念を晴らしたのも寒河江卓也。


 祓い屋界の英雄〝黒煙を突き抜ける蝙蝠〟尾形真介に道を示し、〝青いコブラ〟を育て上げた英雄だ。


 寒河江卓也がいなければ現在日本人口は半数以下にまで減っていただろう。


(父は自分を20歳になるまで育て上げてから自分のやりたいことをやり始めた。……とことん自由になった父の心根など見えやしないけれど、蕃茄は何か父に似た雰囲気を感じる)


 蕃茄が父のようになってしまうのは嫌だ。誰にも理解されず、誰も理解しない人間になるのは何としてでも避けたい。蕃茄は誰かを愛し、誰かに愛され、大勢に囲まれて老いて、そして死んでほしい。


 幸いなのは、蕃茄の瞳が緑だということか。


「寒河江さーん、おはもんきー」

「なんだぁ〜、その挨拶は〜」

「へへっ。そんなことより、寒河江さん見てくださいよ。ついさっきそこで怨念倍増体に絡まれたからボッコボコにしたんですけどね、なんかまた体内に黒エンバー隠し持ってましたよ」


 もう手遅れなくらいにこちら側に来てしまっている気がする。少し不安になりながら、寒河江はそれを顔に出そうとはしなかった。


「最近の怪異は7割それだな」

「っすねぇ。こつなってくると、やっぱり寒河江さんのパパちゃんが関わってんすかねぇ?」

「そうらしい。……蕃茄、またあの男が現れても、決して戦おうとはするんじゃないよ」

「なんで? 最近の俺っていうのはチョー強いんすよ。クラムの力を借りなくても怨念倍増体くらいの怪異ならボコれるようになったんすよ」


 もうそこまで強くなっている。


「だとしてもだ。あの男は、現時点でのお前より何万倍も強いんだから。対話をしようとしても無駄だよ。あの男は人の話を聞かない」

「わかりました。オッケー!」

「怪しいなぁ……クラムにおもりを頼もうか」

「もう高校生っすよぉ!? 言いつけくらい護れるよ」


 言いつけを守らず怪異とお友達になった男の口から出る言葉とは思えなかった。


「そういえば……クラムはどうした?」

「バイト行ってます。最近俺が強くなったんで、場を持たせることくらいはできるだろうということで働かせてます。馬車馬の如く。あいつが働いている間俺は勉強とか出来るんですって」

「そうか」


 怪異に働かせてるのか。


「将来、本当に祓い屋になりたいか?」

「金が得られるんなら」

「…………金がすべてか?」

「俺にとってはね。俺にとって金ってのは……」


 蕃茄はそこまで言って、ニコッと笑顔をつくってから、ふざけたような声で言う。


「人生──ですかね」


 ふと出かかった「人の価値」という言葉を飲み込んで。

熟湯珊瑚は身体を怪異に変えられている

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