転入生
電車に揺られて、北上駅に到着。
駅についたら高校に直行する。
蕃茄が通う岩手県立眼沢高等学校は北上駅から歩いて20分ほどの距離にある。
「白井ちゃん、平気か?」
クラムはやることがあるというので別行動をとる。すこし心配になりつつも、部室に顔を出すと、眼鏡をかけたすこしもさもさとした髪をした少女が「遅いです」と小さく蕃茄を睨め付ける。
「ごめんよ、じゃ、やっちゃおうか」
「頼みます。先輩が来るまでに私もいろいろやったたんですが、部室が汚すぎて嗚咽しました」
「こういうのは全感覚を捨てんのさ!」
「無駄口は良いのではやくしてください」
「へへ、じゃ、さっさとやっちゃおっか!」
掃除をキメて、30分もするとサッカー部のみならず部室棟全体が綺麗になっていた。
「先輩、やりすぎです。うちの部室だけでいいのに」
「俺綺麗なの好きだからさ! ほら、気持ちいいだろ? 掃除なんてやりすぎていけないことなんてないんだし! ね、そうだろ?」
「ウザいです」
「あちゃー」
ホームルームの時間が迫る。
教室に入ると、自分の席の隣の机に「転入生着席予定」という紙がでかでかと貼り付けてある。
困惑していると、「今日は転入生が来ています」と担任の高橋が言う。さっそく入ってくるようにという言葉とともに、クラム人間態が入室した。
「京都から家庭の事情でやってきました。どうも、三崎儚夢と申します。儚い夢、と書いてクラムと読みます。趣味は散歩。特技はバイクを少々。どうぞよろしく」
「それじゃあね、席は小金瓜くんの隣かね」
クラム人間態がこちらにやってくる。
「よろしく頼む」
「隣かよ……」
「その方が一緒に居られるだろう。いいかい、蕃茄。私は出来る限り長く君のそばに居たいと考えている」
「俺もその方がいいとは思うけど、限度ってもんがさ、あるじゃない。ねぇ? どうやったの」
「私は君の知るように、『そういう存在』だろう。どうとでもなるはずだ」
「そりゃそうかぁ……」
なんだか納得のいかない感覚に陥る。ホームルームがおわり、蕃茄はすぐに便所に立った。
「私もついていこう」
「ヤだよ! 俺はね、連れションの趣味はないの!」
「しかし……」
「今の自分の姿を考えなよ。変な噂立てられちまうぜ。するとね、頭のおかしいおなごたちがすぐに騒ぎ出すんだ。お前さっきの自分の発言がわかんないの?」
「おかしなことを言ったかい?」
あれ? こいつわざとじゃね?
蕃茄はふと思った。たびたび常識的な発言をしているカニもどきブリブリうんち野郎の癖にこんな時にだね見境なくおかしな危ない言い回しをするのはおかしい。少なくとも無自覚的に言っているわけではないのでは?
「お、お前……」
「小便なのだろう。はやく行ってくれ。私のそばで漏らされたのでは溜まったものではない」
「復讐すんぞ……!!」
「夜にでも」
「こいつッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!」
クラムの思惑に気付き始めた蕃茄が憤慨しながら教室を出る。それをひらひら手を振りながら見送り、ふとそばで見惚れていた女子に訊ねる。
「彼は君たちとは違い、派手な色のシャツを着ているようだが……校則的に大丈夫なのかい?」
「ああ、あれ?」
女子のそばにいた天然パーマの男子が代わりに答える。女子は深く考え込んでいるらしい。
「うち、そういうの自由なんだ。一応制服はあるけど、服装くらい自由でいいだろっていうのが初代校長のご意向ね。それからずっとそうさ」
「なるほど。ならば私も次からはあれを真似しよう」
「ね、どんな関係なの? なんか親密だったけど」
「親戚だよ。すこぶる仲がいいんだ。その影響で現在私は彼と同じところで暮らしているんだ」
「同棲ってこと!?」
「同居だ。彼にも性的嗜好はある。よしてやってくれ」
便所から蕃茄が帰ってくる。
「性的嗜好って聞こえたぞオイ!! お前、俺で何の話をしていた!? 言ってみろ!!」
「君はそういう話を極端に嫌う」
「悪いかっ……俺はね! 性的なのが嫌いなんだよ! それはもう、ザクザクさ!」
「少し気難しい奴なの」と小声でクラスメイトが言う。「いいやつなんだけどね」と付け足して。
「さて! 気を取り直して……そろそろ授業じゃないか! 1時間目はなんだろう!! 国語かな、なんだろうかな。私は歴史というのが得意だぞ、蕃茄!」
「体育だよ」
「そうか」
岩手エアプだから頑張ってる。