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怪奇エンバー  作者: モッズコート
赤い鋏脚
181/219

クラブマン

 カニに連れられて、夜の街に繰り出した。アパートから出て、いつもは行かない方の道に進む。そうしてしばらく歩いていると、水沢体育館の方に出た。


「ここに何が?」


 蕃茄がカニに訊ねると同時に、カニから〝デーン〟というような近所迷惑極まりない大きな音が鳴り響いた。


「来た」

「今の音は……?」

「私の体内に擬似的に作られたショック器官だ。そんな事よりもあれを見てみなさい」

「あれって……?」


 体育館の前になにかゴツゴツとした岩が人型になったものが立っていた。


「怪異」

「怪異?」

「幽霊、妖怪、神、超常現象……人はそれをまとめて『怪異』と言う。あれはおそらく怨念倍増体(おんねんばいぞうたい)というものだろう。怪異は人々の平和を脅かし、そして嘲笑う。祓い屋というのはああいうのを祓い人々を守るのだ。そして金をたくさん得る」

「人を護るのか……いいな、それ」


 怨念倍増体は動き出すと、あたりをめちゃくちゃに破壊し始めた。


「修繕費が酷いぞ、コリャ」

「我々も戦うぞ」

「どうやって」

「私を使え」

「どうやって?」

「私の名を呼び、私に任せろ」

「お前の名前さんは?」


 カニは言う。


「クラム。クラムという名だ」

「了解」


 蕃茄は地面で飛び跳ねるクラムを掴み上げると、直感に任せて左腕に乗せた。


「クラム、来い。プクプクタイムだ」


 茶褐色の鋏が蕃茄の手首に噛み付くと、腕時計の様な形の土台を召喚し、その腕に巻き付けた。


「これが戦う力?」

「私の止まり木だ」

「え?」

「もう一度挟むぞ」

「痛いの1回がいい──……うわっ!!」


 怨念倍増体がエネルギーの弾を蕃茄向けてきた。それどころかよく見れば大量にいる。


「えーっ!? いっぱいいる!!」

「怨念倍増体は基本いっはいいる」

「ひとりで相手すんの!?」

「その力を今から与えると言っている」


 ばぎっ、と噛み付いた。


 《霊能異理》

「小鳥?」

 《〈蟹肉(かいじく)波変(はへん)〉》

「かい?」


 身体中の霊力が迸り、沸騰するような感覚とともに、全身が泡に包まれる。身体に力が溢れ出す。泡が吹き飛ぶと、蕃茄の身体が茶褐色の強化皮膚に変質していた。頭部もまるで蟹でも真似しているような造形になった。


「身体の使い方は分かるだろう」

「何故? 使ったことも無い身体なのに……格闘技を……習ってたならともかくさ!!」


 怨念倍増体の攻撃をなんとかギリギリのところで回避しながら、疑問を口にする。


「君は誰かを護りたいと思う。その心を持っている人間は最初から戦い方……いや、護り方が分かるはずだ」

「俺が悪人だったらどうすんだよ……」


 蕃茄は駆け出し、拳を握ると顔面に叩き入れる。瞬間、緑色の鋏が現れ、顔面を挟むと砕いた。


「そうか、これがクラム……お前の力か!」

「いや、君の中の……」

「怪異っていうのは人を殺すのか」

「……ああ、殺す。当たり前のように殺す」

「生きるために必要な行動か? 怪異ってのはつまり妖怪なんでしょ? 『この恨み晴らさでおくべきか』って感じか?」

「いいや。違う。人を襲う怪異の大半は快楽だ」

「そっか……じゃあ、消えたとて苦しむ奴はいないな。よかった……躊躇いはいらないな!!」


 変質し鉄仮面と一体化した蕃茄の頭には人工ショック器官がある。背後からの攻撃に人工ショック器官が反応し、危機感知能力が働いた。


 蕃茄は身を捩り、脚に鋏を出現させると、挟みながら地面に叩きつけた。


「躊躇い?」

「だってそうでしょう!? 人を傷つけるやつにだって……失いたくない物くらいあるはずだ!! 奪われたから奪って、奪われるから壊してじゃ……そんなの、おかしいことでしょう!?」


 複眼が緑色に輝いた。


「戦おう、クラム。一緒に!」

「それがいい」

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