雨黙裏 4
朝がくると、子どもたちは朝日を見た。
ふたりの布団のそばには隼人がいて、隼人はギターを抱えるようにして眠っていた。
苦しそうに、辛そうに。
「滝さん、泣いてる」
「きっと怪我が痛いんだ。昨日、傷だらけで帰ってきたもんな……」
「でも変だよな、滝さんって傷を治せる不思議な魔法使うじゃないか!」
どうやって雨黙裏を倒したか。
宮司や和尚の協力による弱体化もあったが、しかし力量の差は埋まらなかった。
結局のところは、ゴリ押しだった。
地面に押し付けて、首を締め付け、顔面を何度も殴りつけた。そうして、雨黙裏が諦めるまで殴り続けた。
その過程で霊力が完全に底をつき変身が解け、拳の皮と肉が捲れて骨が出た。
「ん……んぉ……? あれ、どうした子どもたち。眠れなかったかなぁ?」
「ううん、眠れたよ。眠れたけど……滝さんは大丈夫なの?」
「俺? 俺は別に平気だよ」
隼人は立ち上がって、欠伸をする。
「じゃあ、俺帰るね〜」
「えっ、もう行っちゃうの?」
「もうここにいる意味もないからね。あのおばけは封印したしね〜」
「や、やだよ……まだいてよ!」
「それこそやだぁ」
隼人は部屋を出た。そこは公民館だった。
縁側に出ると、また電気コンロのセッティングを行い、水道を見つけると、そこで米を研いで勝手に米を炊き始めた。
「これね。この飯食い終わったらさっさと帰るよ」
「それ、どうやって出したの!?」
「企業秘密ぅ」
「魔法!?」
「四次元になってるんだ!」
「考察はご勝手に。俺は米が炊けるまで……お肉を漬け込んでおこうかな」
隼人はアルミの器に鶏肉をいれ、タレで揉み込んだ。
「朝から食べる唐揚げってのが美味いよね」
「それはぁ……そうだけど……」
「なにかおかしい? それとも、もしかして食べたくなっちゃったんじゃない?」
「違うよ! 滝さん知らないんだろうけど、最近の小学生って朝はあんまり食べれないんだよ」
「そうなの?」
隼人は面白がってふわふわ笑う。
「かわいそ。ふふ、すっごくかわいそ」
「すごい嬉しそう……そんなにマウントが取れるのがうれしいのかよ。なんなんだよあんた……いい人なのか小悪党なのか……」
「俺がどういう存在なのかは君たちで決めなよ」
米が炊ける直前で、ようやく肉を揚げ始める。
「唐揚げって……じつは、二度揚げが基本なんだね。それを分からん料理人がさいきんテレビで鼻が高そうに話しているのを見ると、類人猿が進化したって感じるね。だって人の言葉を話すんだもんねぇ。プークスクス」
「口を開けばそんな感じだけどなんなの」
「唐揚げならあげないよ。だってこれは俺ひとりで全部食べちゃうからねん」
1度目の揚げが終わる頃、ようやく米が炊ける。少しばかり余裕を持って、二度揚げを終えると、隼人は米と一緒に食い尽くした。
「味噌汁はいいのかよ、滝さん」
「俺は味噌汁は好かんね。君たちは好きなの〜? 変わってんね、類人猿?」
「引っ叩いてやる!」
「ふふふ、ふふふ。面白いんだ」
隼人は基本的に人を見下す癖がある。
個人的にはそういう事はしていないと思っているが、なんと見下してしまっている。無自覚である。
「でもそうだな。好きなものは好きでいて良いよ。俺だけが面白いから」
食い終わる。
食器を洗い、懐にしまう。
「なんであの重たい机を片手で持ち上げられるの」
「鍛えてますから」
片付けを終えると、今度はバイクを取り出す。最近青く塗り直した蛇身号である。
「じゃ、俺なんかとは二度と会わないようにね〜」
本編では語らないかもしれない隼人の過去
■0歳■
1958年7月2日にうまれる。かたほうの瞳が青いため母親の不倫が疑われてしまい、家庭にヒビが入る。
■1〜5歳■
祖母から虐待を受ける
■6歳■
瞳が青い為に学校でいじめを受ける
■7歳■
学校でいじめを受ける堪忍袋の緒が切れた親につけ込んだわるいカルト集団「児静教」に引き取られる。
■8歳■
児静教の幹部になるための教育を受け、厳しさにより精神を一度崩壊させる。
■9歳■
児静教の解体に動いていた寒河江卓也(当時21歳)に救出される。卓也から青いギターを譲り受ける。
■10〜15歳■
伯父の滝翔一に拾われ、護身術として空手・剣道を教えられる。しかし、滝翔一が殺人で逮捕されてからは、寒河江卓也(当時28歳)に拾われる。
■16歳■
自分の異常性から非常に荒れていたが、卓也に娘が生まれた事を起点にして、そこで改めて命のありがたみというものを知る。この命を守りたいと思い、卓也から祓い屋という仕事があることを教えられ、それを目指す。
■17〜20歳■
祓い屋になるために身体を鍛え続ける。