生得・弐 5
それからは気を抜いて生きる様にした。いままで見たことがなかった空を見上げたりもした。
「空ってのは曇りだけじゃねぇんだなぁ」
「当たり前でしょ。はやくおつかい行ってきてよ、お兄さん」
「やんなっちゃうよなぁ」
多少は仲良くなれたかもしれない。
強者生存ではなく、弱者救済。
真介のやりたかった事は明確になった。
挫けてしまいそうになっている弱き者たちを救う。──それが今のやりたい事。
幸せだった。
「お兄さん、やっぱりおかしな物見えてるよね」
「おかしな物……? それってぇのは、いったいなんだい」
「とぼけなくてもいいでしょ。ほら……」
ある日、真介が自室でギターを弾いていると、美智代がやってきて、紫色に染まった瞳を見せた。
「えっ、じゃあ……お前も霊感が身についちゃったのかい!? いったいなんで!?」
「たぶん貴方のギターを触ったから……」
「触った? これを?」
「うん」
「なるほどなぁ。これは所謂呪いのギターで、いくら遠くに捨てても手元に戻ってくるんだ」
親の形見を捨てるな、と言いたくなったが美智代はそれをこらえて「呪いの影響?」と首を傾げた。
真介は「おそらく」と頷いて返した。
「お前が見てるのは怪異さ。幽霊とか妖怪とかの、ひとならざるものなんだ」
「貴方のそばに蝙蝠がいる」
「えっうそっ」
「ほらそこ」
「あっ、ほんとだっ」
真介の死角にこそこそと隠れていた蝙蝠をつまみ上げると、なにやら見たことのある紋様が描かれている。
「うちの家紋だ」
「うちの家紋? 犬飼家の?」
「やだ、なに、違うよ。尾形家だよ。ほら、蝙蝠の紋様だろ。光琳蝙蝠って言うんだ。たいてい山本家が持ってるようなもんだよ。尾形だなーって思ってたからおぼえてるんだ。尾形光琳は知ってるだろ?」
「しらないよ」
「知らないの? じゃ、憶えてなよ。京都で生まれた人なんだぜ」
「そうなんだ……でもなんでウチの家紋が?」
「さぁ。この家の守護霊なのかもしれないね。俺を品定めしてるのかもしれない」
蝙蝠を離してやると、蝙蝠は首元に噛みついた。
「敵対されてるじゃない!」
「おかしいな……」
「まだ心の中の闇が拭いきれてないのよ。日光浴してきなさいよ、こんな薄暗いところでギターなんか弾いてないでさ」
「俺は疲れてるんだよ。頼むよ美智代」
「いいから外に出なさいよ」
「お助け〜」