改造人間
警察がやってくる。
さきほど電話越しに警官を眠らせた事もあってか、「話の分かる奴」ばかりが来てくれた。
卓也は煙草に火をつけて、「改造人間第2型」を警官たちに見せつけた。
「これと同じモノがおそらく最低でも10体以上は存在している。俺の依頼人はこれの同型に連れ去られるのを目撃されている」
「これは……酷いな……」
宮城県警・伊達隆行は口元を押さえた。
「死んでるのか?」
「生きてる。俺は人は殺さん。いくら生きる価値のない蛆虫であってもだ。……どうしてこんなモノが生まれるまで児静教を放置していたんだ?」
若い警官が言う。
「こんなモノ、これまで影も形もなかった。もしかして、お前のマッチポンプなんじゃあないのか」
伊達が「バカやめろ」とたしなめる。
卓也はその若い警官の肩に腕を回す。
「それってお前が独学で考えた面白いジョークか」
ズシ……っと重くのしかかるようなプレッシャー。若い警官は冷や汗を止めることができなくなり、まるで滝のように小便を漏らした。
「人並みに考える事だって怪しい癖に余計な事に脳を使うなよ。ンン? 分かったなら……失せろ。祓い屋の機嫌を損ねるなと聞かなかったか……?」
若い警官は腰を抜かした。
「警察機関の事は信用したい。長い付き合いになる筈だからな。ただ……今後もこんな虫けらを俺の視界に入れるようなら『暴れる』かもしれない。……ので、理解しろ。お前らが俺の前で優位に立てる要素などひと欠片も無いことをな。勘違いするなよ。虫けら共」
旭は「めちゃくちゃキレてるから八つ当たりしてる」と警官たちが不憫でならなかった。
「改造人間とは言えど、戦闘力はそれほどでもない。俺が片手間で倒せる程度だ」
「異理は使ったのか?」
「必要あるのか?」
「『使わなかった』って普通に言ってくれ」
「『普通』に言って理解できるのか?」
旭は煙草を弄りながら、「むむむ」と唸る。
「二階堂くんに聞いてもらえば分かると思うが、俺は今日一度も異理を使っていない」
「えっ」
旭は驚いた。
「あのハゲ女の時は」
「使っていない。どうしてこの俺が俺より劣っている奴の為に疲れないといけないんだ?」
肉体強化系の異理ではない。
じゃあ、あの強さは素? 喧嘩が強いと言ったって限度があるだろう、と旭は少しだけ理不尽に思いながら、「ということでしたら」と返す。
「彼は異理など使っていません」
「そうか。……そうなのか。とりあえず今日のところは通報してくれてありがとう」
「ある程度見たら総本部に引き渡せ」
「分かってるさ。モノがモノだからな」
「……『使う』なよ」
「えっ?」
卓也は旭を呼び、車に戻ると、総本部に掛けた。
「とりあえず落ち着いたらどうですか。運転なら私が行います」
「そうだな。……うん。そうしよう」
黒い右眼がチカチカッと点滅して、赤になる。
「やっぱりギターは精神安定剤ですか」
「ああ。……ギターは俺にとっては心を慰めてくれるものなんだ。ギターがあると、冷静になれるんだ」
「そうですか。ではお好きにどうぞ」
「悪いね」
旭はアランブラの思い出を弾く卓也を横目で度々見ながらハンドルを握る。
──だからエースは「ギターを弾いている時は刺激しないであげて」と言っていたのか。
今更納得する。