事務所荒らし
近隣住民は見ていた。
依頼人は事務所にやってくると、ズタ袋をかぶった複数人に取り押さえられ、車に押し込まれていたのだ。
「児静教かぁ?」
「児静教じゃないんですか」
「あまりに雰囲気が違うから……」
「児静教とは色々な組織の複合体と考えられます、その為にあの禿頭糞女と違うやり方をする幹部のような存在をはじめとして、今回のようなズタ袋を被った集団を率いる頭のやばい奴までいる……のかと」
事務所の横にあるガレージで車の凹凸を撫でながら、旭は考察を披露する。
その考察は妙に納得がいった。卓也は「たしかになぁ」と頷いて、地面を2度叩く。
すると、機械音とともに、地面に正方形の溝が入り、そのままの形で迫り上がってくる。
どうやらそれは隠し金庫のようなものらしい。
「なんですかそれは」
「隠しギター。あと7箇所ある」
「なんなんですか貴方は」
そりゃポンポン人にやるわ、と先程「男のロマンというやつかな」と少し感心していた自分が恥ずかしくなった。
「俺の周りにはギターが集まってくるんだ。主をなくした奴や持ち主を不幸にする奴……幸運を招くのもある」
「そのギターはどちらですか」
卓也は赤いギターを背負って、「2番目」とウインク。旭はしばらく2番目について考え、「持ち主を不幸にする奴じゃん」と小さく驚いた。
「そうだ、二階堂くん弾丸持ってないかい? 事務所の武器庫からなくなってたんだ」
「今度の敵は用意周到ですね。貴方が銃を撃てなくしたつもりなんですね」
旭は懐から箱を取り出すと、その中にはお目当ての弾がたくさん入っていた。
「ありがたい存在」
「マヌケではなく?」
「ヒッ……ヒィッ……!」
準備を終えると、オンボロと化した車に乗り込み、ズタ袋の集団について情報をそろえることにした。
その集団は色々なところで目撃されていた。
「──うん、うん。だから、いろんなところに行ってるエースにも色々調べて欲しいんだよね。いまどこ? ……マカオ? なんでマカオ!? オッ、オォー……仕方ないかぁ。無理言って悪かったよ。エッグタルト楽しんで」
「どうでした」
電話を終えると、旭は語りかけた。
「エースって色んなところに行ってるって言った気がするんだけど……それに付け込んで情報を集めてもらおうと思ったんだが……」
「マカオにいると?」
「そうらしい」
「忙しい子供ですね」
旭は地図を広げて、「何処に行きますか」と訊ねた。
「とりあえず警察と総本部に連絡を入れておこう。それで、そうだなぁ……あのハゲ女が使ってた建物を見張っておいてもらおう。あの規模の建物なら組織としても損失だろうし、絶対に見逃す筈がないね。見逃すにしたって一度や二度確認に来るはずだ」
「賢いじゃないですか」
「東京の大学に入れるくらいさ」
「入れたんですか」
「祓い屋になれなかった場合の保険のために大学にね」
「文系ですか理系ですか」
「ぶんけー」
「ああ……」
「なんだいなんだいその顔は。理系至上主義者は米の泡にもならんぜよ」
文系にしたってちょっとマヌケすぎるよな、と旭は思ったが言わなかった。裏口だろうか?
「一夜漬けに関しては天才的なんだ」
「ああ……なんだ、そういう事ですか。貴方、祓い屋になれて良かったですね」
「ね〜」
ふたりは依頼人の家に行くことにした。
依頼人は宮城県の松島に住んでいるらしい。