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曲線  作者: AG
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プロローグ

プロローグ


 ほんわか灯る暖色系のオレンジ色に照らされながら、薄いピンク色で僕を魅了する、桜の木がここにはある。

「やっぱり、昼見たときとは違うっす」

 桜に話しかけたつもりだが、もちろん返答はなかった。だけど、その花びら一つ一つが夜風に揺られて、表情を作るところはまるで、生きているかのような感覚に浸る。

 僕は今朝から、妹の高い声で起床し、適当に朝ごはんを食べたころ、妹に花見に誘われ嫌々、行くハメに。夜桜が好きな僕は、昼は妹と世間話をするだけでこのときを待っていたのだ。

 実際にこう夜になると、周りの静けさに気づく。ここは田舎なので人が少ない。もしいたとしても、せいぜい犬の散歩をしているおばさんぐらいしかいないだろう。

 夜桜を低速で見ていてとてもいい気分なのだが、先ほどからずっと歩いてばかりなので、この暗いグレーのコンクリも嫌になってくる。

 辺りを見渡すと、ちょうどいい二人がけのベンチがあったので、僕はそこに座ることにした。

 ベンチから見える絶景は今現在、僕だけの景色だ。そう考えると独占欲に似た感情が沸いてくる。ただし、僕みたいなただの高校生に、こんな広い公園を買えるはずもないので、その夢はわずか3秒で夢の中に消えるだろう。

「夢が夢の中で消えるって……」

 独り言は痛いです。

 

 そういえば、昼に一人で帰らせた妹は、無事に帰れているだろうか。一応兄として気になるところである。もう、中学三年生ではあるが、まだまだおっかない妹なので心配だ。普通の妹だったら僕もあまり、苦労しなかっただろうになぁ……。

 右ポケットから携帯電話を取り出し、電話帳を開く。ちなみに、僕の妹の名前は二十歳羽夜だ。電話番号が合ってるのかどうか、ちょっと疑問だったが、ボタンをプッシュする。一押しプッシュする。

 プルルルルルル……。

 ……。


 出ませんでした!

 この状況で、電話に出ないというのは僕の心を落ち着かせないなぁ。心配させる妹っていうのも、萌えポイントなのか? いや、それはたぶん違うな。

 携帯電話をポケットに戻し、再び歩き出す。腕時計を見ると、短針が六、長針が十二に向いていた。つまり、現在時刻六時ということである。

「せっかくだから、写真でも撮っておこうかな」

 実は僕、写真っていうものがどういう仕組みで、できているのかを把握していない。

 そんなことを考えながらも、肩から下げてるメッセンジャーバッグの中から、デジタルカメラを取り出す。正直、ピントが調整できるカメラが欲しいのだが、僕には手を出せない金額なので、我慢するしかない。

「えーと、風景モードにして……、ちょっとフラッシュたかないと、暗いかな。それにしても風景モードって便利ぃ!」

 桜をいろんな角度からパシャパシャと撮っていると、カメラマンになった気分になってちょっと嬉しかった。

 自分で撮った写真を確認するために、先ほどまで座っていたベンチにまた座る。

 と、そのときポケットの携帯電話から、強すぎるくらいのバイブレーションと、妹に強制的に着信音にさせられた、さんぽを、聴覚と触覚で感じた。

「歩こう、歩こう。私は元気。って、嫌味かよ」

 ディスプレイには予想通り、二十歳羽夜と表示されていた。そのまま、ボタンをプッシュする。一押しプッシュする。

「はい、もしもし」

「あ、もしもしお兄ちゃん? さっき電話した?」

 それは履歴を確認してください。

「ああ、お前が無事に帰れてるかなぁって心配になっちゃってさ」

「嫌だなぁ、ちゃんと帰れてるよ。さっきはお風呂に入っていたの。お兄ちゃん、まだ帰ってこないの?」

 僕は携帯電話を右耳に持ち替える。

「もうちょっといようかなぁ。でもあんまり遅くならないと思うから」

 何気ない兄弟の会話だと思う。自分で言うのもなんだが、仲の良い兄弟だ。互いの心配をしてるなんていい絆なんだと思う。僕なんかは特に何も考えずに、前にある夜桜を眺めながら、帰りの時間とかを計算なんかして特に無感情だった。

 

 だけど、羽夜のセリフを待ってるその間に、僕の感情はガス爆発のようにぐちゃぐちゃになった。


 座っていた二人がけのベンチの半分が、消滅した。

 すさまじい破壊音と共に、夜の冷たい空気に浮いて、木片が飛び散る。地中に埋められていた鉄の足が、土を蹴散らして突出した。

 完全にもう一人座っていたのならば、そいつの身は保障できなかっただろう。しかし、これは『ならば』の話なんかではなくて、実際に座っていたのだ。僕のバッグがそこにはあった。でももうここにはない。桜の木の下の川へポチャリと消えていった。もちろん、その中にあったデジタルカメラもだ。

「ん、どうしたの? すごい音したけど……」

 僕は固まっていた。正直何が起きてるのかは分かっている。しかし! 何故こうなってるかはまったく分からない。

「え?」

 しばらく固まっていると、後方から携帯電話を乱暴に取り上げられた。慌てて、後ろを振り返るとそこには真っ黒い服装の、男がいた。

 そして男は取り上げた僕の携帯電話を、握りつぶした。

「あう……」

 男は高身長で作業着のような物を着ていて、深いフードによって顔は隠されていた。その剣幕には圧倒されて言葉も出ない。ただし、ベンチの一人がけ部分を破壊したのは、コイツだなと確信できた。何故なら男の足には木片が付いていたからだ。

「ななな、なんすか?」

 実に情けないセリフだと思う。

 情けないからなのかどうかは分からないが、男はすさまじい破壊力を持つであろう、その右足を振った。

 今度は僕がいるほうに。

 半分だけでもあったベンチが、先ほどと同様木っ端微塵になった。ベンチは木っ端微塵になったけれど、なんとか僕は人間本来の形を保てていた。

「何なんだよぉ!」

 運動不足な人間でも命の危機を感じると、こんなにも早く動けるものだと関心した。

 木片が顔に切り傷を残していた。

 輪郭の骨に沿って流れる液体が、血液なのか涙なのかは正直分からない。

 たぶん、どっちもだろう……。

 男は次の攻撃を繰り出すためだろう。こちらに歩み寄ってくる。泣いたっていいんだよ、人間だもの。名言を思い出したが、今はそれに感動するほど脈拍は落ち着いていない。

 走りだす。

 どこに向かってだろう。

 どこでもいいや。

 とにかく今は、この男から離れなきゃいけない。確実に殺される……。死ぬのは嫌だ。まだやりたいことだってある。大好きな人だっている。僕には夢だってある。

 だから、こんなとこで死んで、小さいニュースにまとめられるぐらいじゃ、満足できないんだ。さっきまで妹と楽しく会話して、綺麗な桜を見て。

「なんにも悪いことしてないじゃんかよぉー!」

 死んだら誰か悲しんでくれるだろうか。家族はもちろんだと思うが、学校での数少ない友達はどうだろう。

 僕の中で感動の回想シーンだったのだが、それももう終わる。

 一秒前まで僕が足をつけていた地面が、円形状に割れた。その衝撃で、五十キロの人間が空気を裂きながら、空中で移動する。そして、重力の影響でコンクリに身体を強打した。しかしまだ、衝撃の勢力は残っており、そのまま三メートル程カーリングされた。だけど、ここの地面は氷じゃない。コンクリだ! 当然のように僕の身体は擦り傷だらけになった。

「痛い、痛いよ神様。どうか僕をお助けください。死にそうです。」

 あの男が破壊したコンクリの破片も、僕の身体に鋭利に傷を残した。流れ出る液体。今度は涙なんかではなく、確実に真紅の血液だった。

「何なんだって言うんだよもう! 嫌になっちゃうよ! あれだよ、その、もしその強烈パンチが地面じゃなくてさ、僕に当たってたらね、そう、死んでたよ?  どうするの? 僕死んじゃったらどうするの?」

 必死の講義もあの男には届いていないのだろうか、男はまた歩み寄ってくる。もう走る気にさえなれなくて僕は、うずくまった。

「もう嫌だ。死にたくない。絶対死にたくないよ? ほんと誰か助けてよ……。なんなん? 夢なの? 夢なのですか?」

 情緒不安定になってきた僕の耳に、微かな声が聞こえてきた。それは神様の声で、助けてくれるらしい。

 なーんてほど世の中甘くなかった。

「殺す……、俺は力が欲しい。」

 聞こえたのは、悪魔の男の囁きだった。

「あぁ? なんだよ殺すって……、お前の剣幕だけでもう殺されてますから!」

 果たして、生命の危機に立つと人間は、キャラまで変わってしまうのだろうか。

 今のキャラおかしいよ、僕……。

「力が欲しい」

 男は、ゆっくりと歩きながらその言葉だけを、囁いていた。

 何だ力って? 残念ですが僕にはなんも力はありません。力が欲しいのであればジムにでも行って下さい。ていうか、あなた恐ろしいほどに力あるから、もう満足してほしいんだけど。

 男との距離が五メートルほどまで近づくと、男は腰からナイフを取り出した。僕は目が悪いので、刃渡りなんかは分からないが、あれは確実に人殺し用のナイフだと思う。

「………………」

 よし、考えてみよう。このシチュエーションでナイフが登場しました。確実に僕はバラバラ死体になっちゃうよ。

 嫌だな、胴体だけでお葬式とかするの。お願いします、普通に殺してください。

 ついに僕の愚痴思考ターンも終わって、男がリズムをつけて走り出した。走って逃げるか、そのまま楽に死ぬかの究極の選択で僕は迷っていた。完全にどうする? 俺。の状態である。しかし、僕が選んだのはこの二つでもない。動かずに悪あがきをするという、実に横着な方法であった。

「助けてくださーい!」

 僕の叫び声が暗いグレーの空で、残響を透き通らすのが終わる。

 それと同時に、嫌な衝突音が聞こえた。生きているのを確かめながら、目を開けるとそこに、男の姿はなかった。

 代わりに、制服を払いながら凛として直立している、女の子がそこにはいた。

「え…………?」

 隣の川で何かが沈む、大きい音がしてそちらに視界を移動すると、さきほどまで恐ろしい剣幕を放っていた男が、腕を激しく振りながらおぼれていた。

 視界を戻す。

 彼女のほうに。

 凝視して、目があった。

 そして僕は気づいたことがあった。

 二つ、気づいたことがあった。


 一つは、その子の制服は僕が通学している、私立椅子の下高校の制服であるということ。


 そして二つ目は、こんな奇跡のようなタイミングで現れ、僕を助けてくれて。それでも冷たくこちらを凝視しているその女性は、僕が想いを寄せる女性、聊かわ涙だということ。

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