第2章 犠牲の軍隊前編 7
地上へ戻った零とエレノアは、大分接近してきた敵地上型機械兵ユニット群の全容を確認した。
先ほど見えていた大型機械兵ユニット群の数はおおよそ把握できてはいたがその背後が明らかになり、エレノアは美貌に懸念を浮かべる。
「大型もそうだが、後ろをぞろぞろ付いてくる人型機械兵ユニット群が厄介だな。ざっと、五千は居る。まともに当たれば、こちらの犠牲がどれほど出るか。キャバリアー以外は、まず生き残れないぞ。どうする?」
エレノアの問いに軽く思考を巡らせ、面倒だが仕方が無いかと汎用コミュニケーター・オルタナで作業をしつつ零は指示を出す。
「正面で俺が引き受ける。決死隊各位。今送った敵側背をつく迂回ルートを進め」
「一人でか? 無謀だぞ」
反論するエレノアに、零は平気だというように肩を竦めてみせる。
「大物を狩りつつ、敵を引き付けておくだけだ。何も、一人で相手するわけじゃない。決死隊が、敵側背を突く」
「機械兵を甘く見るな。キャバリアーなら身体能力と未来予知に秘超理力である程度の数なら機械の演算に対処できても、手駒が多くなれば多くなるほど奴らは厄介になる。あの数となると、司令塔の汎用人工知能の影響力が遺憾なく発揮される。対処できない局面も当然出てくるだろう。わたしも、ここに残る」
「了解。宜しく頼むよ。決死隊は、サブリナと腕に自信のある奴に頼む。自己評価でいい」
零の指示に、バイザーを後ろにスライドさせ顔を晒したサブリナの美貌は胡散臭そうだ。
「いい加減ね。けど、今はそうするしかないでしょうね」
「まぁ、そういうことだ。ゆっくり編成を考える余裕もわたし達にはないからな」
首を振るサブリナに、エレノアは綺麗な眉を少し持ち上げ苦笑した。
敵地上型機械兵ユニット群は、汎用攻撃型機械兵ユニット群を相手取っている間に予想通り断崖を迂回し向かって来た。決死隊が向かった迂回ルートは左遠方に見える岩石地帯の向こうで、視認されることはない。
壁のような敵が次第に大きくなる。外骨格スーツを纏ったのみの身には、正に威容。
先頭に三十メートルはある四脚の超大型機械兵ユニット群が、十。その後ろに続く十メートルほどの多脚型機械兵ユニット群が、百。更に距離を開け後方に人型機械兵ユニット群が、五千。それらはゆっくりと歩いて来るのではなく、脚部を機械の速度で動かし高速で走って向かって来る。まさに地を揺るがす行軍だった。そのくせ優れたサスペションのため音は静かで、見た目の迫力とのギャップが却って不気味で、相対してみると自律機械のみで編成されたそれは、どこか不吉でおぞましい。
その怒濤の前に立つ外骨格スーツを纏った零と騎士甲冑を纏ったエレノアは激流に飲み込まれんとする砂礫のようで、その場に居ることがまるで冗談のようだった。刻一刻と迫る機械兵ユニット群の進軍は、時を増すごとに不穏が増して行く。超大型機械兵ユニット群はただ走るだけで巨岩を砕き、走行音に反比例して地響きが低く響き零の足下を揺らすというより波打たせた。多脚型機械兵ユニット群は正しく移動する城壁で、それが真っ直ぐ突き進んでくれば押し潰されるのは必至でその上にずらりと並ぶ超大口径重イオン砲にはまるで死角がなかった。人型機械兵ユニット群は荒野を埋めるように迫り来るさながら死の軍団で、人と変わらぬ背丈から大型に速度を合わせる為異常な高速で手足を振るう様はまさしく異様。夥しい屍の群は通り過ぎるついでに生者達を群がり喰らい尽くす、黄泉の軍勢のようだった。
それへ面白くもなさそうな表情を麗貌に浮かべ視線を走らせた零は、バイザーをスライドさせ面を隠すと気迫を声音に乗せる。
「ここで、連中を足止めする!」
百メートル……九十メートル……八十メートル……七十メートル……六十メートル……。
数瞬置きで、機械の軍勢が迫り来る。
五十メートル……四十メートル……三十メートル……二十メートル……十メートル……。
まさに蹂躙されようとした刹那、零とエレノアはその場から飛び立った。汎用推進システムから生じた電離気体を、地面に波紋を生じるほど強く噴出させて。
三十メートル以上の全高を有する超大型機械兵ユニットの頭上を飛び越えたとき、四脚に乗った方形の胴体に備えられた主砲の超大口径を除いた前方左右の大口径重イオン砲身が不気味なほどの高速と精度で旋回し零を照準した。同時に高出力の重イオン砲が、外骨格スーツなど塵芥と錯覚させるほど太いイオンビームを放つ。一瞬で己を跡形もなく消滅させるだろうそれを、攻撃を未来予知で知っていた零は急激な軌道を外骨格スーツに課し上空へ逃れ躱し、太刀に強い光輝を纏わせアクロバティックな動きで背後の超大型機械兵ユニットへ降下というより落下した。
普段よりも秘超理力を一際高めたパワー・ブレードを発動させ、零は太刀を片手で逆手に持ちもう片方の掌を添え超大型機械兵ユニットへ着地と同時刺し貫いた。秘超理力で伸長した架空の光刃が、巨大な胴体を貫通し地を穿つ。超大型機械兵ユニットは重力子機関がダウンする音を響かせ、瞬く間に速度を落とし頽れ擱座した。
地へ轟音を響かせ巨体を超大型機械兵ユニットが投げ出す瞬間、零は飛び立ち唱える。
「一つ」
零がたった今居た場所――超大型機械兵ユニットの胴体へ無数のイオンビームが突き立てられ、原型を止めていたそれを無残な残骸へと変えた。すぐ背後を走っていた多脚型機械兵ユニット群からの、多数同時攻撃だった。十を超える超大口径重イオン砲が再照準し直し、一斉に砲身が零へと向いたと同時放たれる。が、零は既に機動スタビライザーに急激な重力偏移を発生させ、回避行動に入っていた。
バイザーに隠された零の麗貌が笑みに緩み、声が凶悪に満ちる。
「敵にはホント、困らないなっ!」
地面を嘗めるように外骨格スーツに軌道変更を繰り返し課し、徒人ならば目で追うことも適わぬ高速で砲火を躱し、多脚型機械兵ユニットへと迫った。
冗談のような高速で稼働する七メートルはある四つの脚はその蹄に掛かれば何者をも踏み潰す凶器その物で、けれど零は死角となる胴体下部へと潜り込んだ。パワー・ブレードを零を追い旋回しようとする猛獣の腹へと突き立て、汎用推進システムの出力でもって切り裂く。眩い光輝を帯びた太刀は、先ほどの超大型機械兵ユニットと同様強力な秘超理力で伸長された架空の刃が巨体を上へと突き抜け切り裂く。零が擦り抜けたとき、巨体は頽れ轟音と共に岩に覆われた地面を滑った。
戦いの狂気へ染まり始めた己の意識を繋ぎ止める為、零は却って機械的に数を刻む。
「二つ」
すぐさま殺到する超大口径重イオン砲の火線を、機動スタビライザーの重力偏向でなければ不可能な機動ながらそこは騎士甲冑ではない外骨格スーツではカバー仕切れないものもあり、時たまムーブの併用で強引に機動を叩き込み躱して行く。
次の標的へと向かう零の鼓膜を、艶のあるメゾソプラノが戦場の憩いのように擽る。
「やるな、零。先ほどと同様大技を使用しない高い戦闘技術は、キャバリアーとして確実な技量を零が有している証拠だ。それに、その秘超理力。クラスⅤ。五段階に区分される秘超理力クラスの最上位。あの威力は、そうで無ければ出せない。なるほど、零は最強クラスのキャバリアー様というわけか。第一エクエスでも、軍団長が楽に務まるな。どうして、そんな奴が旅の巡礼者なんてしてるんだ?」
「高い評価をしてくれてるみたいだけど、秘超理力は確かにそうでも肉体評価のソルダ諸元はそうじゃない。大まかにパワー・スピード・耐久の各種グレード平均でA~Eの五段階評価するランクではありがたいことに全グレードAの俺は最高のAでも、そのランクの構成要素グレードを五段階評価するスコアでⅤを持っているのはスピードだけ。あとのパワーと耐久は、ⅣとⅢだ。伝説級位階のエレノアとは違って、全てに恵まれてるわけじゃない。ウェアを使用すると秘超理力の暴走を起こしてしまう俺じゃその上位に位置する神技、ランクアップはどう足掻いても使えない。神話級や伝説級の連中は、それで元から高いソルダ諸元を一つアップさせ本来存在しない、ランクSを実現させてる連中が多い。いくら修練を重ねても、それだけじゃ限界がある。それに、もう俺はソルダじゃないのさ。戦士の心が死んだ者が、居られるような世界じゃない」
次の獲物――多脚型機械兵ユニットへ向かいムーブとパワー・ブレードで仕留めつつ答える零は、エレノアを見遣った。赤を基調とし金色をアクセントとする収斂されスリムでハンサムなエレノアが纏う騎士甲冑は、スカイスクレイパーによって光矢と化し超大型機械兵ユニットを蹂躙していた。あらゆる方向から迫る火線を躱し、しかし、あくまで撃破を優先するエレノアは恐れ気も無く大口径の重イオン砲のビームをその身に浴び、けれどその高威力すら弾き飛ばし獲物を確実に仕留めて行く。冗談かと思う、シュールな光景。およそ、零にはできない芸当だった。まさに人外。ソルダ位階第二位。この世の至高の存在、伝説級。
今正にツヴァイハンダーを前へ突き出し光を纏う全身で超大型機械兵ユニットを貫通したエレノアが、艶のあるメゾソプラノに剣呑を乗せる。
「贅沢だな。第一エクエスの基準とされるソルダ諸元のランクはAで、スコアはその中身グレード内評価。パワー、スピード、耐性ともに零は最高水準。この世の、殆どのキャバリアーがランクAより下だ。ま、分からなくもないけどな。ランクA同士ならスコアの差異は、決定的になりかねない。そして、ウェアが使用できないのはソルダ位階第三位虹より上の至極を目指すなら致命的だ。けれど、至極を目指す道はそれだけじゃないし、零は十分強い。なのに、どうして心が折れた? 逃げ出した?」
「――っ!」
重イオン砲が零の外骨格スーツを掠め、左肩のプロテクター状の装甲を吹き飛ばした。機動のタイミングがずれてしまった。零の中で常に在った熾火が高熱を発し、瞬間的に常心に飛び火し激情と化したが為に。それは、零の判断に狂いを生じさせた。
瞬間、激情が零の中で駆け巡る。
――おまえに何が分かるっ! 知りもしないくせにっ!
零は、エレノアの無遠慮さに怒りを覚えた。まるでそれは、零を責めていたから。
が、それを面に出せるほど零はエレノアに心を許してはいない。
「悪いか」
正確で繊細な戦闘技術に裏打ちされた零の戦闘スタイルは、いっそ冷徹なほどの戦闘機械のそれにすり替わり精巧を刻む。一瞬乱れた機動に殺到した重イオン砲の火線を毫の空隙に己を割り込ませフィールドで装甲に影響が及ばない限界で躱し、残りは硬化型ヒーターシールドで超大口径から放たれた野太いビーム外縁に位置していた零は一部を逸らし拡散させた。傍目にはまるで直進するようにその実単純に見えて巧緻を尽くした突進で、超大口径砲のほぼ真っ正面から苛烈なパワー・ブレードの一撃で多脚型機械兵ユニットを屠った。
頽れる一瞬、胴体の下をすり抜け零は背後に轟音を聞きつつ続ける。
「俺の戦い、俺の敵は俺のものじゃなかったのか? 己以外に分からないものを否定したがるなんて、リザーランド卿らしくないな」
声音に余裕すら漂わせ零は外骨格スーツを急激にターンさせ擱座させた隣の多脚型機械兵ユニットの背後へと迫り、巨体の胴体下部をすり抜け様切り裂き一撃で仕留めた。エレノアは騎士甲冑の精巧な機動スタビライザーでもってジグザクに急激な機動を課し、多脚型機械兵ユニットを光矢と化した己で次々と貫き零とは次元の違う戦闘を見せる。
敵を屠りつつエレノアは、焦れったさを艶のあるメゾソプラノに滲ませる。
「嫌な奴だな。意趣返しに、わたしの言葉を投げ返してくるなんて。怒る位の可愛げは無いのか? そう言われたら、わたしは何も言えないだろう。零、おまえの技量を認めたからこそ、前向きでないのは惜しいと思っただけだ。内乱後のおまえの身の振り方だってあるしな。戦友と言っていい立場になるかも知れない頼れる同僚なら、内乱後ボルニア内での味方に欲しい」
思案しつつ語るエレノアは途中から声音を誼を感じさせるものへと変え、それでいて踏み込み私情を吐露した。今回の内乱で戦死した父が前皇帝軍に従軍した為反逆者らに連なる立場となってしまったリザーランド伯爵家令嬢たるエレノアは、たとえ内乱後近衛軍に返り咲いたとしても以前と同様というわけにはいかない。内乱以前の味方も今後帝国内で当てにできるか定かでもなく、それでも今後もボルニア帝国で臣下として生きていく為エレノアは、戦後所属が違うだろう零を腹心の盟友として援護が欲しいのだろう。
パワー・ブレードとムーブを併用した錬技に属するアクセルで零は外骨格スーツをエレノアに対抗するような高速でもってジグザグに機動させ、五機の多脚型機械兵ユニットを間髪いれず屠った。
この世で最強のキャバリアーの一角伝説級位階に属するエレノアが本来格下に見られるべき己に戦後の下心も在るだろうが心を砕いた言葉に、零は少しだけ口調に迷いを滲ませたものの変わる筈もない答を口にする。
「済まないけど、俺は内乱が終えたらボルニアを去らせてもらうつもりでいる」
「やはり、そういう算段か」
「ああ。口外しないでもらいたい。エレノアは信用できると思ったからこそ、口にした。エレノアが言った俺の戦場と敵は、俺では乗り越えることができなかったのさ。この先、命を長らえて暮らしていく自由くらい俺にもある筈だ」
「零をボルニアに居残らせたいからって、ヴェージニア女帝陛下に告げ口なんてしないさ」
艶のあるメゾソプラノに軽く悪巧みするような笑みを含ませ、エレノアは背後に秘超理力の大きな波紋を複数連なるように発生させると一層全身に眩い光輝を纏わせ超速の突進で、そのとき横一列に並んだ多脚型機械兵ユニット七体をスカイスクレイパーによる光弾と化した己で刺し貫いた。
一瞬で一〇メートルを超えるデカ物を複数屠る圧倒的な力を見せ付けられ、零は改めてその化け物ぶりに感嘆する。
「タートゥロード流二大奥義技の一つ。正しく驚異だな。ま、奥義を修得できれば、それだけで伝説級位階以上。人外の仲間入りだものな」
小声で呟きを落とすと、零はエレノアへ呼び掛ける。
「残りの多脚型は、超大型を倒すまで取っておこう。人型が追い付いて来た。上手く立ち回ればあのデカ物共を盾にできる」
「そうだな。あと少し粘れば、後背を決死隊が襲う筈。一体一体は脅威度が低くても五千も居る人型の注意が上手くばらければ、対処しやすくなる。飽和した攻撃に晒されれば、回避し続けることは不可能だ。わたしもずっとスカイスクレイパーを発動し続けビームを弾き続けることはできないし、それは零がディフェンスを使用しても同じこと。息継ぎができなければ使用を継続することは難しく、発動に途切れが生じる」
零に応じつつ包囲を始めた超大型機械兵ユニット残り九体へと、エレノアは向き直り加速した。零も向きを変え秘超理力を用いた空間把握と外骨格スーツのセンサで敵機の行動と攻撃を認識しつつ未来予知に従い、側背からの多脚型機械兵ユニットの重イオン砲の火線を避け突進した。
味方を巻き込まぬ位置取りを終えた三十メートルを超える巨兵の頭上に聳える長大な二条の軌条を連想させる電磁投射砲が急激に稼働し、砲身に紫電が迸ったかと思った瞬間極超音速の一秒でこの時代の標準なら最低五キロ以上は進む弾丸が零へ向けて発射された。実体弾である為フィールドは当然のこと装甲やエネルギー伝導で表面を硬化させた盾でも防ぎきれない超速の弾丸は、けれど粒子加速器で加速された重イオンビームには早さで及ばず正確を極める射撃故僅かずれるだけで躱すことができる。
直進。
連射の僅かの間、零は超大型機械兵ユニットの間合いへと入り前方と左右の大口径重イオン砲の連射を掻い潜り、側面を範囲を伸長したパワー・ブレードで切り裂き冗談のような恐るべき斬撃で反対側まで切り裂いた。零が飛び去った僅かの後、長大な長方形に近い形状の胴体上部が斜めにずり落ちた。
殺到する火線。
超大型機械兵ユニットの電磁投射砲だけでなく多脚型機械兵ユニットからの重イオン砲も加わり空間が飽和するかに思われた一瞬、秘超理力の波紋を背後に出現させムーブにより瞬間移動のように掻き消えたかに見えた時には、外骨格スーツを纏った身体が十五に別れそれぞれが様々な方向へムーブを多用し空間を駆け抜け超大型機械兵ユニットへと襲い掛かった。機械の演算すら狂わせるそれに対応しきれず砲身を小刻みに震わす巨兵を、零は文字通り蹂躙した。
感嘆を艶のあるメゾソプラノに滲ませ、エレノアは声を弾ませる。
「見事だな。わたしの友人、近衛軍司令ブランジュもタートゥロード流同様十二大流派の一つシュヴァイカー流の使い手でよく目にする機会があってな。零もシュヴァイカー流だったか。奥義一歩手前、絶技テンペスト。分身とムーブをベースにする技で、敵を攪乱強襲する」
「そいつ強いの? エレノアを差し置いて、近衛軍司令を務めるとか」
「当然だ。ま、わたしも当初は中央ソルダ連合協会からの派遣だからといって近衛軍司令とかふざけるなと勝負をふっかけたが、見事に負けた。まさに、ブランジュは最強の戦士の一角に連なる。ソルダ位階第一位、伝説級位階を超える神話級位階の」
声音に疑念を滲ませる零にどこか誇らしげに答えるエレノアは、騎士甲冑を俊敏に機動させパワー・ブレードで零同様刃を秘超理力で伸長させ超大型機械兵ユニットを切り裂き屠った。攻撃時は最大の隙と、先ほどの零同様膨大な火線に晒されたエレノアは騎士甲冑の機動スタビライザーだけではさすがにフォロー仕切れずムーブも併用し躱し、けれど真っ正面からの電磁投射砲はスカイスクレイパーを瞬時に発動し強烈な光輝をツヴァイハンダーに纏わせ何と超速の砲弾を切り裂いた。
瞠目しつつも、零も己の獲物を求め火線を躱し撃破を重ねる。零とエレノアによって、超大型機械兵ユニット群は一掃された。
多脚型機械兵ユニットへ取り掛かろうと零はするが、エレノアが艶のあるメゾソプラノに懸念を乗せる。
「遅いな。そろそろ決死隊は、姿を現してもいい筈だが」
「そうだな。半数はキャバリアー以外だから、また何か行軍中トラブルでも――」
零がエレノアに答え言いさしたそのとき、通信が響く。
「魔獣よ! 軍用に育てられた魔獣に襲われたわ。囲まれて、キャバリアー以外の人員も居る決死隊では脱出も適わない」
その声は、あのサブリナのものだった。自信を漂わせた彼女には珍しく焦燥が現れた声が、決死隊の現状を雄弁に語っていた。
敵方のやり方に嫌なものを感じながらも、零は応じる。
「すぐに行く。持ち堪えるんだ」
「一気にこいつらを振り切ろう。急げば十分――」
声音を鋭くするエレノアが零に呼び掛けたそのとき、秘超理力とは異質のどこか生物的な自身の奥底から原始を呼び覚ますような力場が満ち、上空から黒みがかった紫色の筋が無数に降り注いだ。
零とエレノアが、同時に文句と気勢の声を上げる。
「いきなり!」
「なっ――このっ! 零、情報感覚共有リンクシステムを!」
暗紅色の光の筋は零とエレノアだけで無く、範囲内の機械兵ユニット群へも降り注ぎ多数の多脚型機械兵ユニットを粉砕していった。零は、ディフェンスを現在使用可能な秘超理力の限界まで発動させ、逃げ場など無いその空間で、けれど毫の空隙を見出し尋常ならざる攻撃を可能な限り回避した。眩い光が零の外骨格スーツを照らすほど輝き、閃光が駆け抜ける。エレノアも、自身を強化しつつ回避しているらしかった。回避しつつ、零は上空の一点へ鋭い眼差しを時折注いだ。
その猛撃が止むと、エレノアは彼女の声に音声合成されたホッとした思考を高速情報伝達に乗せる。
【耐えた、か。零、無事か? 強敵だ】
【ああ。上を見てみろ】
零の言葉で騎士甲冑の頭部を上へと、エレノアは向けた。そこには、外骨格スーツや騎士甲冑とはどこかしら本質の異なる、琥珀色をした科学兵装としての色の薄いスーツを纏った者が滞空していた。
エレノアが、高速情報伝達に乗る思考を注意深くする。
【ん? 魔道甲冑……マジック・キャバリアーか。気を付けろかなりの手練れだ。一体何なんだ、全く。このわたしに怖気を起こさせるこいつは! 今の攻撃は、確実に伝説級位階以上】
【…………あの色……琥珀色の……まさか、奴がここに居る筈が……けど、今の攻撃は……】
その魔道甲冑の色が、零の過去を、零を打ち砕いた敵の姿を思い起こさせた。まるで、それが今に追いついたかのように。




