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第1章 惑星ファル地表拠点奪還戦 9

 ズキュキュキュキュキュキュキュ、ガキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ――

 穿たれた穴を抜けた警報が鳴り響くタワー内では、激しい機械兵(マキナミレス)ユニット同士の攻防が繰り広げられていた。色とりどりのビームと実体弾が、左右に伸びる十メートルは幅のある廊下に乱れ飛んでいた。侵入した味方の人型機械兵(マキナミレス)ユニット群は、天井や壁、或いはそれらの角に張り付いては這い回り飛び回り攻撃を躱しつつ、腕にマウントされたプラズマ砲を放っていた。その動きは、まるで人外の獣の如き。今まさに小ぶりな飛行型機械兵(マキナミレス)ユニットのレーザーを躱すため壁に四肢で張り付いていた人型機械兵(マキナミレス)ユニットが、反対側の壁に人ではあり得ぬ跳躍と高速で飛びつき躱したところだ。


 ただの重力制御と推進システムでは適わぬ獣じみた挙動を可能にしているのは、手足の特殊素材で摩擦係数を変化させ粘着力を生み出しているからだ。それを用い壁や天井に難なく張り付き、機械兵(マキナミレス)ユニットの強靱な駆動系でもって跳躍しているのだ。


 自律特化型AI(ANI)を制御コンピューターとして稼働する機械兵(マキナミレス)ユニットに、兵種区分ごとの武装や駆動系や機動系による強弱はあるが戦闘行為そのものにさして差はない。が、この戦闘に限っては、味方の機械兵(マキナミレス)ユニットが押していた。それは個々の戦闘力とは別の、自律特化型AI(ANI)同士の連携だけでなく背後に司令塔が今回のように互いにある場合には、管制している汎用人工知能(AGI)の差によって有利不利が生じるのだ。ランスールに搭載されたそれは高性能な上、今はファントム・マーキュリーも接続している。うまく敵を誘い出しては、数機で仕留めていた。時間はかかるだろうが、制圧は確実だった。


 が、今に限っては機械兵(マキナミレス)ユニット群に戦闘を任せもたもたしてはいられない。ファラル城塞攻略は時間との勝負だ。現在惑星ファル駐留兵団群二万がトルキア帝国の最精鋭百強を含む兵団群三万と激突していた。味方を自身の咎で壊滅させることはキャバリアーに限らず軍人には許されぬことであるし、もしそうなれば零にとっても破滅だった。零は、右手に握るハイメタル製の光粒子(フォトン)エッジ式ソードの刃に黄色い光粒子(フォトン)を伝導させ、腰のフックに鞘を固定したダマスカス鋼製の軍用ナイフを引き抜き左手に握ると秘超理力(スーパーフォース)を纏わせ薄ら光輝を帯びさせた。


 己の内に泉のように湧き出るそれを零は意識し、ブレイズへと声を掛ける。

「さっさと片付けよう。お先」


 言うや零の背後に波紋が広がったと見えた瞬間、身体がその場からかき消えた、ように見えた。ムーブというキャバリアーの超技だ。肉体を秘超理力(スーパーフォース)で最適化させた跳躍と併用し、秘超理力(スーパーフォース)を移動方向と逆にに吐き出し推進力として移動する。高度なセンサと高速な演算能力を有する機械兵(マキナミレス)ユニットが、零の姿を見失うほどの速度。次に姿を零が現したとき、二体の人型機械兵(マキナミレス)ユニットが光粒子(フォトン)エッジに切り裂かれ頽れるところだった。着地様零は片足を折り衝撃を殺し、その脚を軸にくるりと百八十度回転した。眼前に、無防備な背中を晒す人型・飛行型の機械兵(マキナミレス)ユニット群がざっと三十体体ほど。


 零の動きには、まるで淀みがなかった。機械兵(マキナミレス)ユニット群の間を縫うように光粒子(フォトン)エッジで光の筋を引きながら、アジリティ等ソルダ技の強化無しに短い跳躍を繰り返し擦り抜けた。零の背後で、九機の飛行型機械兵(マキナミレス)ユニットがほぼ同時に真っ二つに割れ床に派手な音を立て転がり、壁や天井に張り付いていた人型機械兵(マキナミレス)ユニットが身体を二つに分かたれ、高度な駆動系やサスペションが組み込まれたボディが鈍い音を立て床に落ち不気味な骸を晒した。


 ビジュシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、ピキンガリパーン!


 零が向かった反対側の廊下から、歪むような音と派手な破壊音が鳴り響いた。視線を向けるとブレイズが、右手で握る薄ら秘超理力(スーパーフォース)の光輝を放つダマスカス鋼製のバスターソードで飛行型機械兵(マキナミレス)ユニットを刺し貫き、左手の掌底を向かってきた人型機械兵(マキナミレス)ユニットへと放った。再び先ほどと同様な、歪むような音が鳴り響いた。


 軽く目を見張りつつ、零は独り言のように呟く。

「錬技インジェクションか。昨日見た雷纏剣(ボルト)といい、第一・第二エクエスのような一握りのキャバリアーのみが使用可能な上級技を使いこなしてる。ランスールもマーキュリーも、分不相応ではないか」


 ブレイズの掌から無数の弧を描いた同心円の光が広がり、次の瞬間派手な破砕音と共に人型機械兵(マキナミレス)ユニットが砕け散った。錬技インジェクションは、掌から異なる波長の秘超理力(スーパーフォース)を発生させ相手を弾き飛ばしたり、その力によっては内部を破壊する技だ。グラディアートに標準装備されている重奏波(ミクスチヤー)は、インジェクションを模倣した科学兵装だ。


 ブレイズを標的に捉えた機械兵(マキナミレス)ユニットが殺到してきて、汎用コミュニケーター・オルタナのセンサと零の空間把握(スペース)が捉えた架空頭脳空間(オルタナ・スペース)上の空間認識マップではその数は百を超えた。無数の火線が飛び交い、キャバリアーの未来予知(プレコグニシヨン)や反応速度を持ってしても対処しきれなくなった。左腕のブレスレットから展開した光粒子(フォトン)の円形の膜で形成する光学系シールドで火線を防ぎ、反対側は秘超理力(スーパーフォース)を伝導させたダマスカス鋼製のバスターソードを風車のように振り回し弾き飛ばした。が、管制する汎用人工知能(AGI)と連動した自律特化型AI(ANI)の演算で火線の数とタイミングと位置を変える敵機械兵(マキナミレス)ユニット群の攻撃が、ブレイズに届き始めた。瞬間、ウェアを用い薄らと光輝を纏っていたブレイズの身体が強く輝く。届いた重イオン砲のビームが、銃弾が、拡散し弾き飛ばされた。ディフェンスと呼ばれるキャバリアーの基技で、秘超理力(スーパーフォース)によって硬度や耐久度を上昇させる。


 高速かつ正確無比な機械兵(マキナミレス)ユニット群に囲まれての超近接戦闘で危なげなく次々と敵を屠っていくブレイズに、零はこの場の戦闘はすぐに決着がつくと己の相手に意識を集中する。ブレイズ同様ディフェンスを用い、敵機械兵(マキナミレス)ユニットに雪崩れ込む。暫し零は、ソルダの道を捨てた内罰的憂鬱を忘れ、修羅のごとく光粒子(フォトン)エッジとダマスカス鋼製の軍用ナイフを振るった。


 だが、さながら舞踏のように潺湲(せんかん)と淀みなく切り捨てていく。

 床に機械兵(マキナミレス)ユニットの残骸が散らばり動いている敵機体がなくなると、零はブレイズへと振り向く。

「ブレイズ、敵の排除は二人でやろう。機械兵(マキナミレス)ユニットは、敵を排除したブロックの制圧を」

「だな、その方がはかどるし確実だ。けど、やっぱやるなおまえ。いい腕だ」

「そっちもな。それで、あんな用心棒まがいの仕事をして銀河を転々としてるなんてな……流浪の傭兵だっけ」

「遍歴の戦士だ。武者修行だって、受付で言っただろう? 聞いてなかったのか」

 改めて観察する視線を送る零に、ブレイズはふっと端正な面に笑みを刻みそう嘯いた。


 二人は廊下を駆け抜け階段を見つけると、エレベーターを使わず上へと向かった。侵入したフロアは、タワーでも上方に位置する。目的の最上階とは、それほど離れていなかった。侵入者を追跡する保安・防衛システムが、十近いフロアを文字通り飛ぶようにキャバリアーの身体能力で駆け上る零とブレイズを、それまでより広くなった階段の踊り場に彫像のように設置された光粒子(フォトン)エッジ式バトルアクスを持つ人型機械兵(マキナミレス)ユニット五体を起動させ襲いかからせた。


 それぞれ光粒子(フォトン)エッジ式ソードとバスターソードで零とブレイズは、振り抜かれるバトルアクスを楽々といなし人型機械兵(マキナミレス)ユニットを破壊していく。


 片付け終わると、ブレイズが零を促す。

「とっとと行こうぜ。おっと、敵さんよほど頭にきてるらしいな」

「反応が早い。一気にここまで来たのに」


 フロアへ通ずる通路と階段の上下から、高速に飛来した飛行型機械兵(マキナミレス)ユニット群が襲いかかった。行くも引くも全てのルートを塞ぐ三方向からの攻撃は二人の咄嗟のディフェンスに防がれ、零とブレイズは進むことを選択した。一瞬で接敵。


 零は光粒子(フォトン)エッジ式ソードを使用しているのでその武器の威力で、ブレイズはバスターソードに薄ら纏った光輝を強く輝かせパワー・ブレードを発動しアジリティと併用するコーヒットで空中を乱れ飛ぶ上の階からの機械兵(マキナミレス)ユニット群に斬りかかった。

 零とブレイズは、未来予知(プレコグニシヨン)による敵の動きの先読みでもって飛行型機械兵(マキナミレス)ユニット群を先回りするように攻撃を躱し斬撃を加えた。あっという間に敵機は数を減らし遅れてやってきた人型機械兵(マキナミレス)ユニット群が後退し、二人の突破を阻もうと行く手を塞いだ。フロアへの通路と下からの階段から重イオン砲を連射しながら、飛行型機械兵(マキナミレス)ユニット群が高速で追撃する。


 ――限界が近い……。


 途切れぬ攻撃に高レベルで発動させた連続するディフェンスの使用に零が軽く目眩を覚えると、ブレイズがくるりと逆を向き跳躍しつつ叫ぶ。


「正面の人形は、任せた。後ろの奴らは俺がやる」

「頼む。このままじゃディフェンスが破られる」


 そうなれば、零は切り札を切るほかなくなる。かつてよりも力を落とした零にとって、なけなしの技。そうならない為にも、零はブレスレットから円形の光学系シールドを展開し、ディフェンスによる身体の強化箇所を限定し前方からの攻撃を防ぎつつ突進した。零が高速で振るう光粒子(フォトン)エッジ式ソードが、人型機械兵(マキナミレス)ユニットの右腕にマウントされた重イオン砲から放たれる、シールドでカバーしきれないビームを逸らした。


 一閃。


 光の残像が、複数の人型機械兵(マキナミレス)ユニットを蹂躙した。零に雪崩れ込まれた敵は、同士討ちを回避するため一瞬砲撃が止み、それでも右手に持つ光粒子(フォトン)エッジ式バトルアクスで襲いかかった。が、ソルダが有する未来予知(プレコグニシヨン)と透徹したほどに熟達した零の剣技とソルダ技の前では、赤子の手を捻るほど他愛なかった。。十体、二十体。死屍累々と機械兵(マキナミレス)の残骸が、階段に撒き散らされた。


 戦い方を変化させ同時に放たれる複数体からの攻撃に、さすがに全部は応じきれず、体感する未来ではそれではいけないと警告を受けるが、一体だけ撃破できずバトルアクスを握る右腕を切り飛ばすに止めた。他は全て撃破し、死屍累々とした機械兵(マキナミレス)の残骸が撒き散らされた。


 零の横合い。右腕を切断したのみで放置した機械兵(マキナミレス)ユニットの脚部からナイフがくるくる回転しつつ飛び出し、機械兵(マキナミレス)はトリッキーにそれを掴むと刺突を放った。ギリギリまで溜めてナイフが突き立てられる刹那、零は身体を反らし躱し様、光輝を纏わせた軍用ナイフを首筋に叩き込む。沈黙。

 そのとき、大気を切り裂く爆音が鳴り響く。

 ズガァ、ヒュロロロロロロロロロロロロロロ、ズガァ、ヒュロロロロロロロロロロロロロロ


 雷纏剣(ボルト)をブレイズが放ったのだ。紫電が走り抜け、飛行型機械兵(マキナミレス)ユニット群が次々と撃墜されていく。

 最後の人型を片付けた零は、ブレイズを振り返る。

「手伝う、ブレイズ」

「いい。こっちも、もう終わるところだ」

 ブレイズが数機をバスターソードの一振りで片付けたそのとき、通路から赤く光る秘超理力(スーパーフォース)の複数の弧がブレイズを襲った。


 緩みかけた心に冷や水を浴びせかけられたように、零の麗貌がキツくなる。

「スキャッター・ブレード! ブレイズっ!」

 パワー・ブレード派生の超技で、剣を振り抜き秘超理力(スーパーフォース)の刃を飛ばす技だ。


 ファントムを用いるグラディアートの制御系を介さないキャバリアー同士の戦いでは、互いが有する未来予知(プレコグニシヨン)によってその未来を体感する力が相殺される。汎用コミュニケーター・オルタナのセンサと己の基技空間把握(スペース)による索敵以外、意識外の敵襲を察知する術はない。自分なら飛来するその刃を察知することが出来たが……零の目には必殺の飛刃を食らったかに見えたそのとき、目の錯覚かブレイズを黒い影が覆った。が、次の瞬間――、


 何もなかったように立っているブレイズは、陽気におどける。

「危ねー、危ねー。ボーアの連中は全員出払ってるって思ってたから、油断したー」

「貴様、一体何をした!」


 フロアへ通ずる通路から鋭く響く声と同時、青系の重厚さと先進さが掛け合わされた戦闘礼装に身を固めた二人の男が跳躍し現れ二人の前に立った。凝った作りの戦闘礼装といい、それぞれ手に持つダマスカス鋼製のナイトリーソードと玉鋼製の太刀といい、トルキア帝国の最精鋭ボーア・エクエスのキャバリアーに違いなかった。


 二人のキャバリアーを観察しつつ、零はそれよりも先ほどのことが気になる。

 ――今のは……。ブレイズの奴、あの場から一歩も動いていなかったぞ。それどころか、剣も振るってさえいなかった。ただ、黒い影が奴を一瞬覆ったように見えた。目の錯覚かと思ったが、ブレイズめ何か隠してるな。


 刹那の沈思は、二人のボーア・エクエスの内年若い青年の声に掻き消える。

「どんな卑怯な手を使ったのかは知らないが、わたしとてボーアの端くれ。貴様を倒す!」

「おいおい、名乗りも上げず不意打ちを仕掛けておいてそれはないだろ」


 ナイトリーソードをピタリと己へ向けいきり立つ青年に、ブレイズは身体を開きバスターソードを無造作に下に向けたままだ。

 もう一人の壮年のキャバリアーが、左手に鞘を持ち太刀の柄に右手をかけ静かに零へと歩み寄る。

 ――俺の相手は、こいつか。若い方より強そう。戦闘礼装も若い方より少し豪華だ。残ったボーア・エクエス百三十五名の親玉……連隊長か。恐らく、ファラル城塞司令。もう一人は、その副官ってところだろう。

 右へずれるように移動しながら零は、光粒子(フォトン)エッジ式ソードを身体の前へ構え左手に握る薄ら光輝を纏ったままの軍用ナイフを確かめた。


 突然、壮年のキャバリアーの姿が霞んだ。一瞬で零との距離が詰まり、次にその身体が幾つにも分かれた。


 ――スピード型か。アジリティによる速度敏捷の上昇が半端ない。神速の域には達していなくとも、そこは技でカバー。分身(ダブル)……。


 刀身が鞘走り、抜刀。必殺の居合いが、複数の架空の疑似体から放たれる。紛れた本体の攻撃以外幻だとしてもこのままでは真の刃(オリジナル)が迫る、既に躱すことも適わぬ至近距離。咄嗟の見極めは困難。オルタナのセンサでは真贋の判別は不能。それは~秘超理力(スーパーフォース)を用いた空間把握(スペース)も同様だった。が、零の戦士としての観察は実態は一つと告げていた。一見、欺瞞のためてんでバラバラの分身(ダブル)の配置は、真の刃(オリジナル)を通すため巧妙に計算されたものだ。


 零の光粒子(フォトン)エッジ式ソードとボーアの部将のやや暗い深みのある色合いをした玉鋼の太刀が打ち合わされ、複数の身体が一つに収束した。壮年のキャバリアーの顔に、あっさり仕掛けを破られた屈辱が浮かぶ。零はそのまま競り合う、筈だった。


 驚愕に零の目が見開かれた。己の得物を承知していた筈だが、ボーアの部将は太刀に伝導させる秘超理力(スーパーフォース)を高め一際強く輝かせ、パワー・ブレードでもって零の光粒子(フォトン)エッジ式ソードを両断してのけた。咄嗟に零は、左手に持つ軍用ナイフで受け流し飛び退いた。


 創成金属である玉鋼はダマスカス鋼と並ぶキャバリアーの高級武器素材で、重量はあるが斬撃に優れ秘超理力(スーパーフォース)の伝導率も高い。重量と剛性のバランスがよいダマスカス鋼はソードに、斬撃力に優れる玉鋼は刀に用いられることが多い。零のハイメタル製の科学兵装はキャバリアーの技を科学的に再現した武器であり重量剛性共に優れているが、秘超理力(スーパーフォース)の伝導率が低くパワー・ブレード等には適さない。秘超理力(スーパーフォース)に頼らず常に同じ高威力を発揮できる反面、それ以上になることはない。秘超理力(スーパーフォース)の強弱と制御に左右される玉鋼やダマスカス鋼は、まさにそれに優れた精鋭が使う武器素材なのだ。


 互いに回り込むようにゆったりと動き、暫し零と壮年のボーアの部将は次の攻撃を探りつつ対峙した。一国の最精鋭たる第一エクエス。その一つの軍勢の基本単位である千強からなる軍団の副将格である連隊長は、さすがの実力だった。


 ――技の切り替えが早い。そして、ウェアとアジリティは、分身(ダブル)やパワー・ブレード使用時も発動したまま。クラスⅣはある強力な秘超理力(スーパーフォース)とコントロール。太刀筋も悪くない。

 ふっと、笑みが零の麗貌に射した。少し離れた場所で、青年のボーア・キャバリアーと小競り合いをしていたブレイズが距離を取ったところで大きく動いた。


 跳躍様ブレイズの身体が分身(ダブル)により幾つにも分裂すると同時に、一層強い光輝を宿すバスターソードを振り抜き秘超理力(スーパーフォース)の刃を放った。俄にボーアの青年は動揺し、それでも跳躍し虚実乱れ飛ぶ飛刃を躱した。が、幾つも存在するブレイズの一人が透かさず放ったスキャッター・ブレードを咄嗟にナイトリーソードで逸らそうとするが空を切り、そこへ複数のブレイズが放った秘超理力(スーパーフォース)の刃が崩れかけた体勢のボーアの青年に殺到し大半の偽の刃(フェイク)が通り過ぎ、が、真の刃(オリジナル)が切り裂いた。動揺に顔を歪ませボーアの青年は、その場に頽れぴくりとも動かない。


 零と対峙した壮年のボーアの部将が、叫ぶ声に悲痛を滲ませる。

「絶技ダズル・レイドっ! バーゼル流の使い手か!」

 壮年のボーアの部将は、パワー・ブレードとアジリティを組み合わせたコーヒットで零に襲いかかった。第一エクエスとはいえ上位者だけが使うことができる錬技は、しかし零に届くことはなかった。


 強い秘超理力(スーパーフォース)の光を帯びたパワー・ブレードで放たれた太刀の斬撃は、残像を残しところどころ速度を落とし接近する零を擦り抜け空を切る。

 驚愕と畏怖に、ボーアの部将の声は彩られる。

残像攻撃(オーバーラツプ)!」


 零の右手が閃き、強い光輝を宿したダマスカス鋼製の軍用ナイフが突き入れられ、胸部のプロテクターと相手が発動を強めたディフェンスを貫き心臓を刺し貫いた。どっと、壮年の部将はのけぞり斃れた。続いて甲高い音を立て床に太刀が転がり、滑って零のブーツにぶつかり止まった。


 身を屈め太刀を拾う零へ、ブレイズが陽気に声を掛ける。

「こいつらが、多分最大の敵だ。どうやら、この戦勝てそうだな」

「ああ。気は抜けないけどな。上へ急ごう」

 目の前に太刀を翳しじっくりと眺める夜空の瞳に、零は吟味する色合いを浮かべた。

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