第6章 約束の場所
夏の終わり。
凪と詩音は、海辺の古い神社を訪れていた。
朱色の鳥居が、夕暮れの空に映える。
波の音が、遠くから聞こえてくる。
「ここも、懐かしい場所」
詩音が言う。
その声に、千年の記憶が響いているよう。
境内に入ると、新たな記憶が蘇る。
* * *
平安時代末期。
同じ神社で、二人の巫女が月を見上げていた。
「戦が近づいています」
前世の詩音が、震える声で言う。
「でも、約束してください」
「どんな時代になっても、必ず出会えると」
「約束します」
前世の凪が答えた。
「この魂が消えるまで、あなたを探し続けると」
* * *
「凪?」
詩音の声で、現実に戻る。
「ごめんね。また……」
「うん。私も見えた」
詩音は、凪の手を強く握る。
「あの約束は、ずっと守られてきたのね」
二人は、本殿に向かって手を合わせる。
夕暮れの風が、二人の祈りを包み込む。
その時、不思議な光景が広がった。
境内に、淡い光の粒子が舞い始める。
「これは……」
凪は息を呑む。
光の粒子が、人の形を作っていく。
そこには、二人の前世の姿が浮かび上がっていた。
様々な時代、様々な場所での出会いの瞬間。
巫女として。
姫と侍女として。
教師と生徒として。
そして、数えきれない形で。
「私たち、本当に……」
詩音の目に、涙が浮かぶ。
「何度も、何度も出会って」
「そして、必ず約束を交わして」
光の粒子が、二人を優しく包み込む。
それは、千年の記憶が実体化したかのよう。
「でも」
凪は、詩音をそっと抱きしめた。
「もう、別れる必要はない」
「これが最後の出会い。永遠の出会い」
夕陽が海に沈んでいく。
光の粒子が、二人の願いを星となって昇っていった。
神社の古い鐘が、静かに鳴る。
その音は、新たな誓いの証のよう。
帰り道。
二人は満天の星空の下を歩いていた。
「ねえ、凪」
詩音が、空を見上げながら言う。
「私たちの物語は、ここで終わるのかな?」
「ううん」
凪は、詩音の手を取った。
「ここからが、本当の始まり」
「前世の記憶に縛られない、私たちだけの物語」
夜風が、二人の約束を優しく包み込む。
星々が、永遠の証人として輝いていた。
その夜の日記には、凪の新たな決意が記されていた。
『今日、私たちは全ての記憶と向き合った。
そして気づいた。
大切なのは、過去でも未来でもない。
今、この瞬間。
私たちは、もう迷わない。
これが最後の転生。
永遠の愛を紡ぐ、最初の物語。』
月明かりが、ページを優しく照らしていた。
それは、新しい章の始まりを告げるよう。




