エピローグ 永遠の証人
一週間後の夕暮れ時。
佐伯は、凪と共に海辺に立っていた。
波が、静かに寄せては返す。
その音は、永遠の時を刻むように響いていた。
「本当の話をしよう」
佐伯は、ついに決意を固めた。
「私は、かつて人間ではなかった」
凪の瞳が、かすかに広がる。
しかし、そこに驚きはなかった。
どこか、既に気づいていたかのように。
「エイドリアン・セイヴァル。それが、私の本当の名前だ」
潮風が、二人の間を吹き抜けていく。
夕陽が、水平線に沈もうとしていた。
「観測評議会の一員として、私はこの実験を設計した。そして、自ら人となることを選んだ。神が箱庭に降りるようなものだと仲間には嗤われた」
「なぜ……?」
「理由は、今でも完全には分からない」
佐伯は微笑んだ。
「ただ、人類の中に特別な輝きを見出したんだ」
「それは、数値化できない何か」
「私たちが失ってしまった、大切な何か」
波の音が、二人の沈黙を包む。
「そして今、私は確信している」
佐伯は、遥か彼方を見つめた。
「この実験は、もう実験ではない」
「それは、魂の共鳴」
「実験者と被験者が、共に進化する物語」
凪は静かに頷いた。
その瞳には、既に理解の光が宿っていた。
「私たちは、これからどうなるの?」
「それは、誰にも分からない」
佐伯は、懐から古い万年筆を取り出した。
「でも、それこそが人類の美しさなんだ」
「未来が分からないからこそ、希望を持てる」
万年筆が、最後の青い光を放つ。
そして、永遠の闇の中へと消えていった。
「さあ、帰ろう」
佐伯は言った。
「明日も、新しい一日が始まる」
「私たちは、その証人として」
「永遠の時を、共に歩んでいこう」
夕陽が、完全に水平線に沈んだ。
そして、最初の星が、静かに瞬きはじめた。




