第34章 「アポカリプスよ、地獄で眠れ」
敵味方の猛攻撃のど真ん中にキリモミ回転で突撃して、構えたレーザー銃剣で合体審判獣に致命傷を負わせる。
なかなか無茶な真似をしちゃったけど、キチンと遂行出来て何よりだね。
離脱の直後でふらついちゃったけど、それくらいで済んで良かったよ。
「御無事ですか、千里さん!?」
そんな私に英里奈ちゃんは、レーザーランスを操る手を休めて肩を貸してくれるんだから、持つべき物は友達だよね。
「ありがとう、英里奈ちゃん…だけど私、まだまだ戦えるよ!」
「なかなかのガッツだね、千里ちゃん!これから止めの一斉射撃だけど、千里ちゃんも一緒にどう?」
こう笑いかけてくるのは、武装サイドカーに跨がって三連砲を操作していた京花ちゃんだった。
京花ちゃんったら、まるで居酒屋か雀荘にでも誘うような気安さだね。
「いいね、京花ちゃん!まだまだ撃ち足りないと思っていた所なんだ!」
まあ、気安さなら私だって負けちゃいないけどさ。
そそくさと配置に就くと、銃把や引き金がまだ温かいレーザーライフルを再度構え直し、照準器を覗き込む私。
爆風で未だ滞空している合体審判獣の巨体には、さっきの一撃で大穴が空き、グレネード弾や多機能型三連砲の絶え間無い攻撃で、新たな傷を次々につけられている。
どうやら次の攻撃で、確実に止めを刺せそうだよ。
「総員、撃ち方始め!」
「撃ち方、始め!」
大型拳銃を凛々しく構えたマリナちゃんに倣って、私達は一斉にトリガーを引いたんだ。
多機能型三連砲の地対空ミサイル。
アサルトライフルの中口径高速弾とグレネード弾。
レーザーランスの破壊光線砲。
大型拳銃のダムダム弾。
そして忘れちゃいけない、私のレーザーライフルによる高出力光線。
それらの火器が一斉に雄叫びをあげ、銃口より放たれた全ての弾丸が、宙に浮かんだ合体審判獣の巨体目掛けて殺到する。
「…ッ!」
既に全身の至る所に致命傷を負わされ、辛うじて生き永らえていた鵺キマイラが、声にならない呻き声をあげているよ。
それは未だ命脈を保っていた体組織をも徹底的に破壊し尽くされていく生物が残した、声なき断末魔の叫びだったのかも知れないね。
そして、ついに限界が訪れたのだろう。
沈黙した合体審判獣の巨体の各所に入った亀裂は、やがてピシピシと全体に走り、至る所に穿たれた銃創同士を繋げていった。
夜空の星々を線で繋いで星座を形作る、プラネタリウムの定番番組をイメージしてくれたら分かりやすいかな。
そうして全身に穿たれた全ての銃創が、ピシピシと縦横に走る亀裂で結ばれた時、鵺キマイラの死体は木っ端微塵に爆裂した。
細かい肉片は灰塵と化し、大きめの肉塊も半ば炭化した黒焦げの有り様で、巷に雨が降るが如く、バラバラと崩れて落ちていくよ。
「さてと…それじゃ、仕上げといきますか!」
「おっ!手間かけさせて悪いね、ちさ!」
遊撃服の内ポケットに手を差し入れた私に、勝利の余韻から覚めたマリナちゃんが笑いかけてくる。
作戦終了後の心地好い疲労と倦怠感に身を委ねたいのは、私だって同じだよ。
だけど、誰かがやらなくちゃいけない事だからね。
「お疲れ様です!こちらは、吹田千里准佐であります。只今、合体審判獣の駆除に成功致しました!」
こうして取り出した軍用スマホで私が呼び出したのは、本作戦の移動司令部である大型武装特捜車だ。
『お疲れ様です、吹田千里准佐。それは素晴らしい戦果でありますね。』
電話口の向こうは、本作戦で特捜車のオペレーターを担当した東三国曹長だ。
この通信は支局のオペレータールームにも転送されているから、支局に掛け直す手間なんか気にしなくて良いんだよ。
「敵性生命体の死体は粉々に砕け散り、再生の可能性は著しく低い見込みです。死体の凍結処理と回収のため、特命機動隊の派遣を要請致します。」
何せ、さっき吹っ飛ばしたのは生物兵器の審判獣だからね。
死体を放置しようものなら、どんな災いが近隣地域に起きるか、分かった物じゃないもん。
『承知しました、吹田千里准佐。それでは、今里分隊と能勢分隊を現場に手配致します。』
これでよし。
後の事は、例の2分隊が上手くやってくれるよ。
オートバイを始めとするマシンの整備に、倒した敵の残骸の後始末、その他にも色々…
特命遊撃士である私達の戦いは、沢山の人達の色んな支えがあって、初めて成り立っているんだ。
自分1人だけで何でも出来るなんて、間違っても考えちゃいけない。
それは私達の所属する人類防衛機構だけじゃなくて、地球人類全体にも言える事だよ。
自分さえ良ければ、他者がどうなろうと知った事ではない。
そんな考え方をしていたから、20世紀の各国政府は2つの世界大戦を勃発させ、アポカリプスみたいな連中はテロ活動に踏み切っちゃったんだね。
その結果として傷付くのは、何の罪もない無力な民間人達なんだよ。
今回だって、何も知らずに目進塾へ通っていた小学生達が、危うく狂信者共の餌食にされる所だったんだから。
人類防衛機構に所属する私達の力は、破壊の為にあるのではない。
そんな無防備な善男善女達の盾となり矛となり、理不尽な悪意と戦う為にあるんだ。
だからこそ、正しい心を持って戦い続けよう。
この誇るべき戦友達と共に、地球人類の未来と正義の為に。
そんな具合に、防人乙女としての正義の誓いを新たにした次第だよ。