第33章 「怒りの集中放火」
そうして両手に携えたレーザーライフルの銃剣を展開して、私は大空へと飛び立ったんだ。
その狙いはただ1つ。
アポカリプスの狂信者共の凝縮した悪意、合体審判獣・鵺キマイラだ。
「ガオオオン!」
鵺キマイラとて、無抵抗ではなかった。
己が生命に訪れた最大の危機を回避すべく、私を撃墜せんと試みたのだ。
生存本能と闘争本能を最大限に駆使して、残された武装の全てを出し惜しみなく開放して。
「ガオオオン!」
エネルギー光弾に殺人光線、そして超高温火炎。
それらの経ず手が、後先の事など一切考慮しないフルパワーで襲い掛かってくる。
薬物投与や人工臓器の移植、そして遺伝子改造。
そうした更に高度な改造手術を受けた教導隊の御歴々ならともかく、精々が生体強化ナノマシンの静脈注射しか受けていない私なら、このうち一発でも直撃すれば色々と厄介な事になってしまうだろうね。
しかしながら、私には被弾するつもりはなかった。
いや、被弾しないと確信出来ていたんだ。
「当たるかっ、そんな物!メガパワーで迎え撃ってやる!」
そう叫ぶが早いか、私は回転運動の基部になっている箇所に力を集中させ、キリモミ回転の速度を一気に上昇させたんだ。
「うおおおっ!」
すると私を呑み込もうとした紅蓮の炎が私の身体を中心に吹き荒ぶ竜巻と一体化して、光弾や殺人光線の狙いを逸らしてくれたの。
竜巻の外は超高熱。
しかし竜巻の中の私は、痛くも痒くもないんだよ。
まるで台風の目みたいだね。
高速回転による身体への負荷は一気に跳ね上がったけど、これで防御は完璧。
先の巴蛇ヒュドラとの戦いで編み出した、新たな必殺技。
これが、私の勝算の第1のファクターだよ。
そして第2のファクターはというと…
「撃ち方、始め!」
そら、来たよ!
敵を微塵に打ち拉ぐ、友軍の援護射撃の砲声が。
12連発式自動拳銃の銃弾に、大型拳銃から発射されるダムダム弾。
そして、アドオングレネードを装備した元化23年式アサルトライフルから間断なく発射される、小口径高速弾と40ミリグレネード弾。
それらの弾丸が私を包む竜巻の側を掠めて、合体審判獣目掛けて次々と飛んでいくよ。
これぞ正に、弾丸雨飛の合間って奴だよ。
硝煙の芳香漂う実弾兵器も渋くて素敵だけど、レーザー等の光学兵器だって負けてはいないね。
「破壊光線砲、照射!」
レーザーランスから放たれる破壊光線砲の輝きを見ると、英里奈ちゃんからの熱いエールを感じるよ。
「レーザー砲、撃ち方始め!」
どうやら京花ちゃんったら、武装サイドカーの兵装を弄りながら拳銃を撃っていたんだね。
レーザーブレードを活躍させ辛い今の局面で、こういう形で京花ちゃんは活路を見つけたんだ。
こうして手厚い援護射撃を受けていると、自分が人類防衛機構に所属する防人乙女だと、改めて実感出来るんだよね。
1人1人は小さな力だけど、こうやって力を合わせれば、どんな強大な敵にだって立ち向かえる。
それが出来たからこそ、人類防衛機構に属する防人乙女は、地球人類の守り手として戦って来れたんだ。
今までも…そして、これからもね!
「捉えたよ、鵺キマイラ!銃剣術で鍛えた腕前、見せてあげる!」
狙うは、合体審判獣の土手っ腹。
敵の巨体にキリモミ回転で肉薄した私は、レーザー銃剣を思いっきり突き立ててやったんだ。
「ガオオオンッ?」
合体前に受けた傷を再び貫かれた上、高速回転でドリルのように傷口を抉られ、更には超高熱の火炎旋風による手痛い洗礼。
さしもの合体審判獣も、痛みは隠せないようだね。
「まだまだ行くよ!レーザーライフル・高出力モード!」
キリモミ回転を止めたのも束の間。
私は敵の巨体を足場代わりに踏み締めると、レーザーライフルの銃口を押しあて、引き金へ掛けた指に力を加えたんだ。
「撃ち方、始め!」
「ガッ…?!」
超至近距離から発射された高出力のレーザー光線が、合体審判獣の巨体をぶち抜き、地上にいる戦友達の発射した援護射撃の弾丸が、追い打ちとばかりに次々と着弾する。
「とうっ!」
そうして私は、断末魔の呻き声を漏らす敵の巨体を思いっきり蹴り上げ、後ろ向きの姿勢で離脱を試みたんだ。
両足蹴りの衝撃に高出力レーザー光線の反動も加わったから、後ろ向きの姿勢にしては上出来なスピードだったね。
だけど援護射撃の銃弾や光線が至近距離で掠めてくるのは、なかなかにスリリングだったよ。
「ムッ…!」
それでもこうして無事に地上へ戻って来れたんだから、私の回避能力も捨てた物じゃないよね。
勿論、戦友達による精密射撃の信頼性は言わずもながだよ。
「おおっと…!」
もっとも、着地時の膝立ちから立ち上がろうとした時に、少しフラついちゃったけどね。
流石に今回は、ちょっと無理をし過ぎたかな?