第32章 「友情の神技!スナイプボンバー!」
そんな私の緊張感を知ってか知らずか、マリナちゃんったら物凄い事を言ってきたんだよ。
「幼児体型だと思っていたが…満更無い方でもないんだな、ちさ。」
「なっ…!」
こんなタイミングで爆弾発言だなんて、マリナちゃんったら凄い事するよね。
「おっ!赤くなったよ、千里ちゃん!マリナちゃんに触って貰えて、喜んでるんだね?」
「ち…違うって、京花ちゃん!そんなんじゃないってば…!」
こうして京花ちゃんにも茶化されちゃうし、私のシリアスモードは見るも無残に台無しだよ…
黙示協議会アポカリプスの残党狩りもいよいよ大詰めに差し掛かり、最後に残った強敵である合体審判獣に大技を仕掛ける時が来た。
そんな緊迫した状況だってのに、B組のサイドテールコンビと来たら思いっきり混ぜ返して来ちゃうんだよね。
折角シリアスに決めたのを台無しにされて、私としては出鼻を挫かれたような思いで複雑だよ。
だけど、それに文句を言うのはお門違いなんだよね。
それというのも…
「少しは解れたか、ちさ?」
「えっ…?」
下から私の両胸を掴む姿勢はそのままに、マリナちゃんの口調が改まった。
いつの間にやら、おフザケ感覚は払拭されていたんだね。
「適度な緊張は確かに大切だけど、ガチガチに強張ってしまったら何もかも御破算だからね。自然体で良いんだよ、自然体で。」
「援護は私共にお任せ下さいませ、千里さん。」
両脇を支えてくれる京花ちゃんと英里奈ちゃんも、適度にシリアスで、適度に落ち着いている。
どうやら私は知らず知らずのうちに緊張していて、それを解して貰っていたんだね。
それとも知らずに、私ったら何ておバカさん。
人の善意は素直に受け取らなくっちゃね。
「ありがとう、みんな…飛ぶよ、私は!あの晴天の青空みたいに、無心の思いでね!」
う~ん…
少し気障過ぎる台詞だったかな、これは…
私のキャラには、ちょっとそぐわないかもね。
「良い意気だ、ちさ!総員、攻撃準備!」
「はっ!承知しました、和歌浦マリナ少佐!」
「角度良し!攻撃目標、合体審判獣!」
マリナちゃんの号令一発、両足を支える曹士の子達が、私の身体を斜め45度の角度に傾ける。
まるで発射寸前の地対空ミサイルみたいな姿勢になった私。
そんな私の構えるレーザー銃剣の切っ先は、未だに爆風で吹き飛んでいる鵺キマイラの腹に真っ直ぐ向けられていたんだ。
やっこさんの土手っ腹を、こいつで思いっきり抉ってやるよ!
こうして合体審判獣の腹を注意深く観察すると、まるで切り傷を無理に治したヒキツレみたいな痕跡が確認出来るよね。
あれと同じような傷痕を、ライオン型審判獣の腹部にも見た覚えがあるよ。
どうやら私と京花ちゃんったら、獅子ドゥンの身体を無闇矢鱈と破壊し過ぎちゃったみたい。
それで三位一体の鵺キマイラに合体してからも、獅子ドゥンだった頃のダメージが残っちゃったみたいだね。
そして先程に投げつけた4発の対戦車用手榴弾の大爆発で、その傷が開きつつあるって訳か。
そうなってくると、あの腹部の傷痕を狙い撃ちするのが現状での最適解って寸法かな。
「飛び立て、吹田千里准佐!」
私の身体を捧げ持つような体勢となったマリナちゃんが、私を急き立てる。
心の準備はバッチリだよ、マリナちゃん…
「はっ!承知しました、和歌浦マリナ少佐!吹田千里准佐、突貫致します!」
そう叫んだ次の刹那、私の身体は宙を舞っていた。
「はっ!」
曹士の子達2人が、バレーボールのレシーブの要領で、戦闘シューズの足裏をグイッと押し上げる。
「それっ!」
軽く助走をつけた少佐の3人が、私の上半身を思いっきり放り投げる。
「うおおおっ!」
曹士の子達の拳を蹴り上げた私が、手首と足首、そして腰を捻って、自らの身体を回転させる。
一連の動作は全て、同じタイミングで滞りなく遂行された。
「フィニッシュコンビネーション・スナイプボンバー!」
そう叫びながら、私は空へと向かう一陣の竜巻と化していたんだ。
後はただひたすら、無心で敵へ突っ込んでいくだけだよ。