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第31章 「最終兵器、吹田千里准佐」

 豪快な爆発音と派手な爆炎を景気付けに、鵺キマイラの巨体は無防備な姿勢で跳ね飛ばされてしまったの。

 単なる手榴弾にしては威力が強過ぎる。

 そう思う人もいるかも知れないね。

 何しろ私達がさっき御見舞いしたのは対戦車用の衝撃集中型手榴弾だから、その衝撃も破壊力も通常の対人手榴弾とは段違いなの。

 こんな危険極まりない代物を生身のテロリスト共の群れに投げ込もうものなら、たちまち木端微塵のミンチ肉だよ。

 1発だけでもこれだというのに、鵺キマイラの場合はそれが4発もお腹の真下で爆発したんだからね。

 あの合体審判獣の巨体を打ち上げ花火みたいに吹き飛ばす位、訳はないんだよ。

「アッハハ!いかれたカルト教団の教信者が浄土へ昇天だなんて、全くもって笑えない冗談だよ!」

 その光景を側車に座りながら目視で確認した私は、思わず高笑いを上げちゃったの。

 こんな悪態が未だに口をついて出てきちゃうんだから、黙示協議会アポカリプスに対する私の恨みつらみも相当に根深いんだろうな。

 人生でたった一度しかない中学時代の半分以上を昏睡状態で棒に振った事は、流石に諦めがつかないよ。

 もしかしたら私は、アポカリプスの残党を全て狩り尽くすまでこんな事を考えちゃうのかな。

 ひょっとしたら、後世になってから結成されたアポカリプスの後継組織や模倣組織と戦ったとしても、こんな恨み節が口をついて出てきちゃうの?

 うーむ、それは流石に執念深すぎるなぁ。

 終わった事をいつまでも引き摺っていちゃキリがないし、いずれは手頃なタイミングでスパッと割り切らないといけないんだよね。

 そういうのは案外、時間が解決してくれるのかも。

 そんな私の物思いをよそに、事態はどんどん進行していくんだ。

『成功だ!駆除作戦は次のフェイズに移行する!』

「よし来た!任してよ、マリナちゃん!」

 この即席小隊の指揮を執る事になった少女の通信に、レーザーライフルを手にした私は嬉々とした口調で返答したんだ。

 何せ滅多に与る事の出来ない、この私の活躍の機会だからね。

 これぞ正しく、今か今かと待ち望んでいた旱天慈雨(かんてんじう)の瞬間だよ。

 禅僧の雲門文偃(うんもんぶんえん)は「日日是好日」と言って、今この瞬間を大切にするよう説いていたね。

 それに倣って、私も過去の心残りを引きずらずに今すべき事を精一杯やらなくっちゃね。

 

 吹き飛んでいる審判獣に正面から向き合う形でマシンを停車させた私達は、速やかに追撃の準備を始めたんだ。

「吹田千里准佐、構え!」

「はっ!承知しました、和歌浦マリナ少佐!」

 まあ「準備」と大袈裟には言ったけれども、正直そんな御大層な物じゃないんだよね。

 レーザーライフルを構えた私を腹這いの姿勢にして、それを他の5人が持ち上げるだけだよ。

「今から『せ~の』で持ち上げるからね、千里ちゃん。」

「頼んだよ、京花ちゃん。こういうのはバランスが肝心だからね。」

 腹這いの姿勢で身長と同じ高さまで持ち上げられると、少しだけ視界が高くなって新鮮だよ。

 高くなった視界といい珍妙なポーズといい、まるで小学校の運動会の組体操みたいだね。

 しかしながら、その費用対効果は半端じゃないんだよ。

「頼んだよ、千里ちゃん!攻撃の成否は千里ちゃんに懸かっていると言っても過言じゃないんだからね。」

「よし来た!任せてよ、京花ちゃん!ここまで御膳立てされた花道、主演がしくじったら7代先までの汚点だもん!」

 明朗快活な主人公気質の少女の激励に、私も親指を立てた爽やかな笑顔で応じさせて頂いたよ。

 もっとも、今の私の体勢じゃ何を言った所で大して締まらないんだけどね。

 こんな腹這いで持ち上げられた体勢では、どんな歯の浮くような名台詞も間抜けなだけだよ。

「何卒御気をつけ下さいませ、千里さん…」

 左脇を支えてくれる京花ちゃんの快活さとは対照的に、右脇を預けた英里奈ちゃんは、何とも不安そうな面持ちだ。

「平気だって、英里奈ちゃん!別に私、ゾンダーコマンド・エルベに志願する訳じゃないんだからさ!生きて帰ってくるんだから肉弾特攻じゃないって!」

「ええ、しかし…」

 とはいえど、口ごもってしまう英里奈ちゃんの気持ちも、満更分からないでもないんだよね。

 何せ今から私は、あの空中に吹き飛ばされた合体審判獣目掛けて、他の5人の手で投げ飛ばされちゃう訳だからさ。

 相応な危険を伴う攻撃だって事だけは、覚悟しておかないとね。

「吹田千里准佐、御武運を!」

「御武運を!」

 上牧みなせ曹長と北加賀屋住江一曹に至っては、私の両足を支えていなければ今にも最敬礼しちゃいそうな勢いじゃないの。

「行くぞ、ちさ!私達も配慮は極力するが、くれぐれも流れ弾には気を付けなよ?」

「分かってるよ!味方に後ろから撃たれるなんて失態は、私だって御免被りたいからね!」

 胸の辺りから聞こえてくるマリナちゃんの声には、少し前屈みになって返答させて頂いたよ。

 何せマリナちゃんは下から入り込んで、私の胸の辺りを支えているんだから。

 うーむ、それにしても…

 膨らみの辺りをマリナちゃんの掌で掴まれている訳だから、どうにも変な気分になっちゃうよ…

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― 新着の感想 ―
まさかのウ○トラわっしょい(違 まさかの天高く打ち上げての狙撃でしょうか……ついにクライマックス。 見逃せませんね。
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