第30章 「我等、怒りの爆弾6勇士!」
とはいえ、マリナちゃんの言う通りだね。
ダメージを与えて注意を引き付けたまでは良かったけど、合体審判獣の鵺キマイラは健在だから、未だに脅威は去っていないんだ。
オマケに少し怒らせ過ぎちゃったのか、敵意剥き出しで荒れ狂っているよ。
「足止めに関しては上手く出来ましたが、あまり悠長に構えている訳にはいきませんね…上牧みなせ曹長、増援部隊の到着予定を教えて頂けますか?」
「はっ!承知致しました、生駒英里奈少佐!増援到着予定時刻は、ヒトロクヨンハチ。現時刻より約3分後であります!」
午後4時48分か…
合体審判獣に合わせた装備や人員を揃える手間を計算に入れたら充分に速いけど、現状を考えたら少し厳しいかな?
「この付近には住宅地だってあるんだよ?増援到着まで3分間。私達で引き付けておくにしても、その間のインフラの被害はバカにならないって!」
私に改めて言われなくても、この場にいる防人乙女だったらそれ位は百も承知の事だよね。
蛇型攻撃端末の放った光弾やレーザー光線で電柱とか標識とかが結構壊されちゃっているし、火炎放射の直撃を受けた軽自動車が盛んに燃えているし。
ここが市街地や人口密集地域だったらと思うと、正直ゾッとするね。
もっとも、私や英里奈ちゃんが個人兵装を撃った時の流れ弾で、アスファルトの路面もアチコチ抉れちゃっているから、あんまり審判獣のせいだけにも出来ないけど。
「確かに、増援が駆け付けるまでの3分間で状況が悪化しないとも限らない。私達だけでケリをつける事も、ここは視野に入れておかないとな。」
マリナちゃんの意見は満場一致で採決されたんだ。
かくして、ここに私達6人の即席遊撃小隊による「合体審判獣駆除作戦」が展開される運びとなったんだ。
にしても…
即席遊撃小隊の内訳は、特命遊撃士4人に機動隊曹士が2人。
どうにもアンバランスな組み合わせだけど、今はそんな些事を気にしている場合じゃないね。
何しろ側車に腰を下ろした今の私は、手榴弾を両手に握っているんだからさ。
「御無事でしょうか、和歌浦マリナ少佐は…和歌浦少佐と枚方少佐の御2人は、手榴弾の投擲とオートバイの運転を兼任されていらっしゃると言うのに…」
すっかり逆上せちゃって、住江ちゃんったら困っちゃうなぁ…
とんだ色ボケ曹士ちゃんだよ。
こうして武装サイドカーの側車に座っている以上、私は運転手である住江ちゃんに身を預けているんだから、くれぐれも安全運転をお願いするよ。
さて、ついさっきまで戦闘オートバイを転がしていた私が、こうして北加賀屋住江一曹が運転する武装サイドカーの側車に手榴弾を抱えて乗っているのも、全ては「合体審判獣駆除作戦」の初手の為なんだ。
「ギャオオオン!」
ほらね!
武装サイドカーが近づくにつれて、鵺キマイラが唸り声を上げているよ。
生き残った蛇型攻撃端末も威嚇のつもりなのか、鎌首をもたげてセンサーアイをチカチカと明滅させているね。
手負いの獣は負傷の張本人である私達を心底憎んでいるけど、そこがこっちの付け目だよ。
「グオオオオンッ!」
先手を取ったのは、2回目の咆哮を上げた鵺キマイラだね。
2台の武装サイドカーと2台のモートルコマンダーに向けて、苛烈な攻撃が浴びせてくるよ。
吹き荒れる超高温火炎に、容赦なく降りかかるエネルギー光弾と殺人光線の雨霰。
まさに出し惜しみなしの全火器フルオープン。
総力を挙げた決号作戦だね。
いずれの攻撃も、4方向から迫り来る戦闘マシンを破壊せんという確固たる殺意に満ちているね。
そして此度の敵の猛攻の瞬間こそが、私達の待ち望んだ時なんだ。
『今だ!総員、手榴弾投擲開始!』
「承知しました、和歌浦マリナ少佐!手榴弾用意、投げ!」
軍用スマホから聞こえてくるマリナちゃんの号令に合わせて、私は手にした手榴弾を放り投げた。
手榴弾を投擲したのは、私だけじゃないよ。
上牧みなせ曹長のサイドカーに同乗した英里奈ちゃんも、戦闘オートバイに跨がったマリナちゃんと京花ちゃんの2人も、手にした手榴弾を水平に放り投げていたんだ。
4人の特命遊撃士が前方へ水平に投擲した手榴弾は、まるで特殊な引力にでも引き寄せられるかのように、コツコツッと軽くぶつかり合いながら集結した。
それはちょうど、四方を囲む4台の戦闘マシンを相手に総攻撃を仕掛けている、鵺キマイラの四つん這いになった胴体の真下にある空間だったんだ。
『よし!総員、撤退!』
マリナちゃんの号令を合図に、私達はマシンを一斉にUターン。
その次の瞬間、合体審判獣の腹の下に投げ込まれた4発の手榴弾が、ほぼ一斉に炸裂した。
「ガオォォォンッ!?」
景気の良い派手な爆発音に紛れて、鵺キマイラの狼狽えているような咆哮が聞こえてくる。
爆発の炎に頬を照らされながら振り返って見てみると、炎と爆煙の中に、合体審判獣がお腹を見せながら吹き飛んでいる姿を確認出来るよ。
動揺するのも無理ないよね。
気付けば腹の真下で爆発が起きて、その爆風で巨体が宙に浮き上がってしまったんだから。