第28章 「迫る蛇型端末 囚われの曹士を救え!」
寸での所で火炎放射を回避出来たというスリリングな興奮と、敵に相応の有効打を与えられたという達成感。
この二つの要因で、どうやら私は昂っていたみたいだね。
「ふう…危ない、危ない…」
そんな昂った心を理性で落ち着かせながら、私は回避行動で乱れた体勢を整えていたの。
どんな時でも、人間は落ち着きが肝心だよ。
昔から「急いては事を仕損じる」って言うじゃない。
「御気を付け下さいませ、千里さん!」
そんな私に、英里奈ちゃんが私に大声で呼び掛けてくるよ。
個人兵装に選んだレーザーランスで、敵が立て続けに光弾を打ち返す手は決して休めずにね。
そうして打ち返した光弾のうち数発は、鵺キマイラの身体に見事命中しているじゃないの。
英里奈ちゃんの個人兵装であるレーザーランスが単なる刺突系の攻撃しか出来ないと思ったなら、それば大きな間違いだよ。
あの赤々と輝く穂先を備えたレーザーランスは、こうして敵の攻撃を受け流して跳ね返す力だってキチンと持ち合わせているんだ。
巴蛇ヒュドラの名残というべき蛇型攻撃端末からは、依然としてプラズマ光弾が雨霰と連射されていた。
しかしながら、織田信長に仕えた戦国武将の血脈を現代に伝える華族令嬢は少しも恐れない。
フランス人形を思わせる端正な白い細面に浮かぶのは、冷静沈着な闘志の表情だけだよ。
「はあっ、たあっ!」
特殊能力サイフォースと生体強化ナノマシンで強化された動体視力が敵の攻撃を捉えれば、小脇に携えた個人兵装のレーザーランスが間髪入れずに一閃される。
まるで四肢の一部であるかのように愛槍を操る様は、圧巻の一言だよ。
「ギャオオン!」
「そのような攻撃など…猪口才な!」
毒々しく輝くエネルギー光弾は寸での所で躱され、即座にレーザーランスの先端で赤々と輝く穂先で捉えられたの。
その流れるような無駄のない動きとダイナミックに揺れるライトブラウンのロングヘアーの描く軌跡が、実に美しいよ。
こうなった以上、後はどうなるか分かるよね。
「熨斗を御付けして、丁重に御返し致しましょう…はあっ!」
もう何回目かも分からない、エネルギー光弾の跳ね返し。
鵺キマイラの身体の何処かに被弾したみたいだけど、跳ね返すべき光弾はまだ幾つか残っているからね。
要するに、鵺キマイラの苦痛もまだまだ終わらないんだ。
「はあっ、たあっ!はああっ!」
「ガウ、ガッ…ギャオオンッ!」
その凄絶な絶叫から察するに、あの合体審判獣の体組織は著しく破壊されているみたいだね。
自慢の武器を跳ね返されたばかりか、逆に自分の身体を傷付けてしまうだなんて。
もしも鵺キマイラに理性が残っていたなら、きっと口惜しくて仕方ないだろうな。
「グガアアアッ!」
だけど手傷を負った苦痛に関しては、一人前に感じているみたいだね。
絶え間ない激痛が更なる怒りを誘発して、一層に猛り狂ってしまうんだもの。
「はあっ!たあっ!」
特に蛇型攻撃端末の口に打ち返した時なんか、本当に物凄かったよ。
何しろ、今まさにエネルギー光弾を発射しようとしていた所だったからね。
光弾同士が正面衝突して、物の見事に大爆発。
直撃した攻撃端末は木っ端微塵だし、吹き飛んだ破片と爆風の巻き添えでもう2本の端末も沈黙してしまったんだ。
「千里さん、大事は御座いませんか?」
「うん!大丈夫だよ、英里奈ちゃん!」
養成コース編入と相成った小6以来の親友に笑顔で応じながら、私はフルオートにしたレーザーライフルを撃ちまくっていたの。
この好機、逃すべからずだよ。
「アッハハハ、蜂の巣にしてやろうじゃないの!二度と蘇りたくないと懲りちゃう程にね!」
「ガオォォォンッ!」
間断なく展開される波状攻撃に、流石の鵺キマイラも悲鳴を上げているね。
そうして苦痛に身悶えしている敵のがら空きになった胴体に光線を浴びせると、今回でも最大級の絶叫が木霊したんだ。
改めて実感した事だけど、この近くに民家がなくて本当に良かったよ。
こんな醜い悲鳴を無辜の民間人が耳にしたなら、きっとトラウマ物だろうね。
「コイツも一人前に痛みを感じるみたいだし、自分を傷付けた相手を狙うだけの本能はあるみたい!こうして私達を狙うのに集中させれば、市街地への侵入は防げそうだね!」
喋るか撃つか、どっちか片方にしなさい。
そんなお母さんみたいな注意は勘弁してね。
何と言っても、今は戦闘中なんだから。
「それは朗報であります、吹田千里准佐…きゃああああっ!」
「おおっ、北加賀屋住江一曹!?」
甲高い悲鳴が上がった方角を見てみると、北加賀屋住江一曹が蛇型攻撃端末に絡みつかれて宙吊りにされていたんだ。
どうやら件の攻撃端末はエネルギー光弾だけではなくて、キングコブラみたいな締め付け攻撃も出来るんだね。