第27章 「戦場に轟く鵺狩りの銃声」
そういう訳で、まずはその場にいる六人全員で銃撃を試みたんだ。
要するに牽制と様子見だね。
曹士の子達が操る二丁のアサルトライフルと私のレーザーライフル、そしてマリナちゃんの大型拳銃と補助兵装の通常拳銃。
もう見事なまでに、銃器の機種がバラバラなんだよね。
だけど、それは裏を返せばいずれかの銃撃が有効打となり得るって事だよね。
ものは考えようだよ。
「コイツ…!いい加減に大人しくなりなって!」
個人兵装である大型拳銃の銃声と唱和するようにして、黒いサイドテールの少女が悪態をついている。
戦場に轟いた銃声から察するに、現在マリナちゃんが弾倉に装填しているのはダムダム弾みたいだね。
拡張弾頭のダムダム弾は、体組織の破壊に重点を置いた銃弾なんだ。
着弾時に変形して直径が扁平になるよう設計されているから、標的の体組織に大きな裂傷をもたらす事が出来るんだよ。
そうして標的を素早く仕留められるので、言わばハンティング向きの銃弾って感じかな。
鵺キマイラという規格外の大物を狩ろうとしている今の状況に、これ以上ない程にピッタリな弾丸だよ。
「ガオォォォォン!」
激痛による悲鳴なのか、はたまた怒りの咆哮なのか。
どちらかは分からないけど、ダムダム弾の洗礼を浴びた合体審判獣が凄まじい叫び声をあげているね。
「やった!攻撃が効いているみたいだよ!」
戦闘バイクを転がしながら自動拳銃を発砲していた京花ちゃんが、あどけない童顔をほころばせながら歓喜の声をあげているよ。
バイクに乗りながらの銃撃だなんて、まるで昔の刑事ドラマみたいだね。
「ホントなの、京花ちゃん?!」
レーザーライフルのスコープで確認してみたんだけど、ダムダム弾による特徴的な銃創は審判獣の身体に幾つも穿たれているね。
この分だと、体組織が再生する様子もなさそうだよ。
どうやら細胞の急速分裂による超再生は、あくまでも合体時の副産物的な能力だったみたい。
これはあくまでも私の仮説だから、詳しい事は専門家の先生方の判断を仰がないとね。
あの獰猛な敵に有効打を与えられるかも知れないという期待と、戦場で死線を潜り抜ける時特有の高揚感。
その二つの感情に心が昂るのを、私は自覚していた。
「よし…それなら!」
逸る心を抑えながら、私はレーザーライフルのモードを切り替えたの。
「レーザーライフル、フルオートモード!目標捕捉、撃ち方始め!」
そうして敵の顔面を目掛けた光線の連射を試みたんだ。
特に重点的に狙うのは、焦点すら合わずに白眼を剥いた眼球だね。
眼球には視神経等の重要な神経系が集中している上、その延長線上には脳髄が控えている。
だから普通の生物なら致命傷ともなりえる急所なんだよね。
そんな定石が化け物染みた合体審判獣にも通用するかどうかは、正直言って断言出来ないよ。
だけど、満更悪い賭けでもないよね。
たとえ致命傷にならなかったとしても、敵の視力を封じられればこちらが格段に有利になるからね。
「ほらほら、遠慮せずに喰らいなよ!」
「ギャオォォォン!?」
そしてどうやら、私は賭けに勝ったみたいだ。
レーザー光線を続けて浴びた合体審判獣は慌てて瞼を閉じたけど、この防御反応は功を奏さなかったみたい。
閉じた瞼の隙間からは、細い白煙がユラユラと上がっていたんだ。
あの分だと、瞼の中の両眼は焼け爛れて使い物にならなくなっているだろうね。
この一連の銃撃で、ハッキリした事実が二つあるよ。
第一に、私のレーザーライフルは敵の両目を確実に焼き潰せたって事。
第二に、穿たれた銃創を庇っていたので相応の痛みは感じているって事。
そして、この二つの事実から類推される仮説は…
「ギャオォォォォン!」
「おおっと、危ない!」
敵の殺気を察知して飛び退いた刹那、御世辞にも高くはない私の鼻先を強烈な熱気が掠めたんだ。
「全く、幾ら痛い思いをしたからって熱くなっちゃいけないよ…って、聞く耳持たないよね!」
そうして火炎放射の射程から間合いを取った時には、さっきまで私がいた所は火の海になっていたの。
どうやら私が立てていた仮説は、正解だったみたいだね。
その仮説というのは、「自分を傷付けた相手を、合体審判獣は必ず狙ってくる。」って事だよ。
私達自身が囮になれば、この審判獣を引き付ける事は決して難しくはないよ。
後の課題は、増援が来るまで何とか持ちこたえる事だね。
あの鵺キマイラを私達だけで撃破出来るなら、それに越した事はないんだけど。