第18章 「真紅の鉄壁、ハリケーンディフェンス!」
なんと黙示協議会アポカリプス残党のライオン型審判獣は、口から超高温火炎を放射出来る火炎怪人だったんだ。
火炎放射がもたらす超高温の熱が激しすぎて、京花ちゃん達のいる辺りの景色が濛々とぼやけてきたよ。
どうやら蜃気楼が発生しているみたいだね。
ところが、自身に迫り来る紅蓮の炎にも京花ちゃんは少しも怯まなかったの。
危険を物ともしない堂々たる姿は、正しく防人乙女の誉れだよ。
「何のこれしき!私のレーザーブレードの真価は、これからなんだよ!」
可愛らしい童顔に明朗快活な笑みを浮かべ、レーザーブレードの柄に設けられたボタンを軽く一押し。
すると先程までは真紅に輝く刀身だったのが、今では細長い帯状に変化し、そしてフワフワと風に舞い始めたんだ。
これこそレーザーブレードのもう1つの姿である、レーザーウィップだよ。
「さあさあ…お代は見てのお帰りだよ!」
自信満々な微笑を閃かせ、京花ちゃんはブレードの柄を右手で強く握り直したんだ。
そうしてスナップを利かせて、右手首をグリグリと回転運動。
その手首の動きに合わせて、リボン状に変化したレーザーブレードの刀身もまた、クルクルッと渦を巻き始めたの。
「ウオオオッ!まだまだぁぁっ!」
その動きは新体操選手を思わせる美しい物だったけど、ウィップの渦巻き回転はどんどん速度を増していき、ついにはヒュンヒュンと風を切る音まで聞こえてきたんだ。
「なっ、何っ!俺様の炎が…?!」
真っ赤なライオン型審判獣が、大きく目を見開いて驚愕の声を上げている。
超高速で回転する、フォトン粒子製の赤いリボン。
その螺旋運動が強烈な風を起こし、襲い掛かる紅蓮の炎を吹き消してしまっていたんだ。
「レーザーウィップ!ハリケーンディフェンス!」
ウィップの回転運動を少しも休めず、京花ちゃんは誇らしげに叫ぶのだった。
攻撃や捕縛に使えるのは知ってたけど、このレーザーウィップは防御にも使えるんだね。
しかし、怯んだのも束の間。
ライオン怪人は直ちに気を取り直し、年若き防人乙女への火炎放射を再開するのだった。
「おっ、おのれ…!しかし、それでは貴様も攻撃出来まい!」
「へ~え…曲がりなりにも塾講師をしていただけあって、それなりに知恵は回るんだね。」
審判獣へ向けた京花ちゃんの挑発は、まるで日常会話みたいな何気無い物だったの。
余裕の現れなのか、或いは平常心を保とうという努力の成果なのか。
そこまでは分からないけど、敵の焦りを誘うのに有効な手だって事だけは、私にも断言出来るよ。
「いずれ力尽きて、新体操紛いのお遊びが出来なくなる時が必ず来る!その時が貴様の最後の時だ!」
まあ、確かに今の京花ちゃんだと、反撃に転ずるのは少し難しいかもね。
正面からの火炎放射を防ぐ為に試みている、ハリケーン・ディフェンス。
この状態で補助兵装の自動拳銃を扱うと、火炎放射さえも吹き消してしまう螺旋運動が災いして、銃弾が何処に飛ぶか分からないからね。
「さぁて…それはどうかな?力尽きちゃうのは、案外そっちが先かもよ!」
まるで動じる事なく、審判獣への挑発さえ試みる京花ちゃん。
その勝算があるこそ京花ちゃんは、普段と変わらない余裕を保てるんだ。
京花ちゃんの強気を裏付ける、確固たる勝算。
それが何なのかは、私にもすぐに理解出来たよ。
「うん!任せてよ、京花ちゃん!」
そう、この私自身だって事がね!
「目標捕捉…距離、角度共に問題無し。」
バイクの上でレーザーライフルを構え、照準器を覗き込む。
敵の急所は喉笛にあり、そこを破壊すれば火炎放射は出来なくなる。
そこまでは簡単に分かったんだ。
厄介なのは、発射した後の事なの。
何しろ獅子ドゥンの後ろには、今なおハリケーン・ディフェンスを続けている京花ちゃんがいる訳だからね。
気を付けないと、審判獣と京花ちゃんをまとめて銃殺する事にもなりかねないもん。
後生だから妙な動きはしないでね、京花ちゃん。
「当たって…!でも、当たらないで!」
相反する想いを断ち切るように、私は静かに個人兵装のトリガーを引いた。
「撃ち方、始め!」
無念無想、純一無雑の境地で引いた、レーザーライフルのトリガー。
確かな手応えと共に、銃口から真紅の光芒が空気を焼いて放たれた。
「グボッ…?!」
「よしっ!」
やったね、大成功!
私の一撃はライオン型審判獣の喉笛を後ろから左斜めにぶち抜き、歓喜の声を上げる京花ちゃんの脇をすり抜けていったんだ。
「まだまだ!ここからが本番だよ、審判獣!」
すぐさまライフルを背負った私は、戦闘バイクのシートにサッと腰を下ろし、力強くアクセルを握り締めたんだ。
エンジンが静かに唸り、モートルコマンダーが一気に加速する。
スピードメーターの針が、みるみる動いていくよ。
マシンに跨がった身体へかかる風圧がグングン増し、敵との間合いがみるみる縮まっていく。
「ふんっ!はっ!」
間合いをギリギリまで詰めたら、ハンドルをグッと引き上げて体重移動。
「地平嵐・ダッシュアタック!」
そうして後輪にトルクをかければ、後はシンプルにウィリー走行で敵へ突撃するだけ。
確かにシンプルな技だけど、攻撃以外にも突入や脱出にも使えるから、何かと便利なんだ。
「グワアアッ!」
頑丈なフロントカウルと高速回転する前輪の手荒い洗礼をマトモに喰らって、獅子ドゥンが苦悶の叫びを上げている。
しかし、まだまだ地平嵐1型の勢いは止まらないし、乗ってる私も暴れ足りないんだよね。
「き、貴様…よくも…」
1撃目で上半身を著しく傷つけられ、2撃目で顔面を前輪で張られ、路面に倒れた審判獣。
どうにか起き上がろうとしながら、憤怒の呻き声を上げているね。
「それ、もう一発!」
私はソイツに向かってフルスロットルで突っ込み、そのまま思いっきり轢き潰してやったんだ。
「アッ!オゴッ…!」
こうしてバイクで敵に乗り上げた時、車体の下で「バキバキッ!」って音が聞こえたの。
何処かの骨が折れちゃったのかな。
ついでだから、右腕も轢き潰してあげよっと!
「そ~れっ!もう一丁!」
「ぐおおおっ!」
何しろ相手は、黙示協議会アポカリプスの息がかかったテロリストだもの。
どうせ処刑しちゃうんだから、1回轢くのも2回轢くのも同じ事だよ。