第17章 「炎のライオン怪人」
3匹いた審判獣のうち、毒蛇怪人の巴蛇ヒュドラは英里奈ちゃんと私の連携攻撃で倒しちゃったし、猿人の無支奇イエティも特命遊撃士2人と江坂分隊の連携攻撃によって遠からず死ぬ運命にある。
そういう訳で私は、残る最後の審判獣の獅子ドゥンを討伐する事にしたんだ。
通信によると、このライオン型審判獣は京花ちゃんが引き受けているみたい。
あんまり京花ちゃんばかりに負担をかけても悪いから、早く加勢に行ってあげないとね。
「住江ちゃん、貸してくれてありがとう。それに整備隊員の子達だって…」
こんな独り言を漏らしながら、私は戦闘バイクを走らせるのだった。
地平嵐1型を快く貸してくれた北加賀屋住江一曹に、それを適切に整備してくれた支局の整備隊員達。
幾ら感謝をしてもしきれないね。
誰もが自分の成すべき事を全うして互いに支え合っているからこそ、この世界は正しく回っている。
それを分からないバカな連中が、つまらない選民意識で誰かを迫害したり、過激なテロに走ったりするんだろうな。
建国間もない頃の中華王朝の北部で暴れまわった紅露共栄軍に、ヨーロッパを震撼させた鉄十字機甲軍。
いずれもマルキシズムやナチズムといった時代遅れの価値観に拘泥して国際社会との協調を怠った、愚劣極まりないテロリスト共だよ。
あの審判獣達だって、とっくに滅んだ黙示協議会アポカリプスの教義に未だ縋っている点では同類だよ。
全く、この世に悪は尽きないなぁ。
石川五右衛門の辞世の句には「世に盗人の種は尽きまじ」という一説があるけれども、これは反体制を掲げるテロリスト共にも言えるのかも知れないね。
何はともあれ、まずはスマホのGPSを探知して京花ちゃんの居場所を探らないと。
コントロールパネルに埋め込まれた液晶モニターに視線を落とすと、ここから少し離れたエリアで京花ちゃんの反応を確認出来たんだ。
どうやら審判獣を走行中のバスから引き離す時に、それぞれバラバラの場所に着地したみたい。
「良かった…無事みたいだね、京花ちゃんは。」
明滅する京花ちゃんのGPS反応は、上下左右に激しく揺れ動いている。
審判獣と激しい死闘を繰り広げているのは、それだけで一目瞭然だね。
「待ってて、京花ちゃん!これから私が、すぐに駆け付けるからね!」
右手でアクセルを力強く握り、私は戦闘バイクを一気に加速させた。
スピードメーターの針がグングンと動き、それに伴って、マシンと身体にかかる風圧もまた、みるみる増していく。
モートルコマンダーの全力である時速400キロにはまだまだ遠いけど、それでも国鉄の新幹線なら軽々ぶっちぎれる超高速。
こんなスピードで民間人が公道を爆走したら、確実にクラッシュして大事故は免れないな。
その上、一発免停は確実だね。
増援の子達が警察と連携して非常線を展開し、周辺道路を封鎖して民間車両を締め出してくれているからこそ、出来る芸当だよ。
「おっと!目標発見!」
こうして暫しバイクを転がしていると、真っ赤なライオンみたいな怪人と戦う京花ちゃんの姿を見つけたんだ。
「フウ、やれやれ…お猿さん達を片っ端からぶった切って、『あと1匹!』と思っていたら、最後のはえらく手こずるなあ!そもそも、お猿じゃなくてライオンだし!」
美しい青の長髪を左側でサイドテールに結い上げた特命遊撃士が、真紅に輝くレーザーブレードを携えている。
目立った傷もなさそうだし、軽口を叩ける余裕もあるみたいだし、京花ちゃんのコンディションは良好みたいだね。
「この獅子ドゥン様を、無支奇イエティの子猿怪人と一緒にするとは良い度胸だな!貴様はジワジワとなぶり殺しにしてくれる!」
著しくプライドを傷つけられたのか、ライオン怪人は真っ赤な顔を更に紅潮させて、怒りの感情を露にしている。
この真っ赤なライオン怪人が、獅子ドゥンって審判獣で間違いなさそうだね。
にしてもなぁ…
幾ら腹を立てたからって、ガチガチと歯噛みまでするのはどうなんだろう。
まさかと思うけど、獅子舞をモチーフにした訳じゃないだろうし…
「さっさと焼け死ね!ドゥン火炎ブレス!」
と思っていたら、この赤ら顔の獅子舞怪人ったら口を大きく広げて、そこから紅蓮の炎を盛大に吹き出しちゃったんだよ。
まるでシンガポールのマーライオンみたいだけど、あっちは水だしなあ…