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第15章 「黒く焦げた雪男」

 全身に燃え移った焼夷弾の炎を、ようやく消し終えたのだろう。

 黒焦げの肉塊がヨロヨロと起き上がり、何とも恨めしそうな目で睨んでいるよ。

 どうやら彼が、無支奇イエティの成れの果てみたいだね。

「貴様…よくも…!」

 炎を吸い込んで肺を焼かれたのか、呟かれる呪詛の言葉は不明瞭で聞き取りにくかったね。

 しかしながら、その陰々滅々とした有様には地獄から現世へ彷徨い出た亡者を思わせる物があって、却って鬼気迫る凄味が感じられたんだけど。


 そんな猿人審判獣の恨み言など、どこ吹く風。

「礼なら良いよ、雪男の旦那。」

 マリナちゃんは慣れた手付きで弾倉を取り換えながら、世間話みたいな何気無い口調で黒焦げの猿人に呼び掛けたんだ。

「それより、これだけ暖を取れたんだ。もう毛皮なんて必要ないだろう?」

 そして、衝撃的な事実の告知もね。

「何っ…うおおっ!?」

 自分の身体を撫で回した無支奇イエティが、驚愕と絶望の叫びをあげた。

「ワ…ワシの毛皮が!」

 焼夷弾の火が未だに燻り、白煙をプスプスと立ち上らせている類人猿の巨体。

 ヒマラヤの雪男のような白い剛毛は、もう見る影もない。

 焼け爛れて黒焦げになった皮膚は至る所が剥離し、筋肉組織や骨が露出している所もあった。

 毛皮など綺麗サッパリと焼け落ちてしまい、もうクローン子猿を生成する事なんて出来ないだろうね。

「ああ、成る程…マリナちゃんはこれを狙ってたんだね!」

「その通りですよ、千里さん。そして(わたくし)が助太刀に馳せ参じる時も、いよいよ訪れた模様です!」

 私への相槌もソコソコに、英里奈ちゃんは個人兵装であるレーザーランスを両手で構えると、猛スピードで走り始めたんだ。


 そうして僅かに身体を屈めると、エネルギーエッジをアスファルトの路面にグッサリと突き刺したの。

「たあっ!」

 そのまま軽快なステップで大地を蹴り上げると、路面に突き立てられたレーザーランスの白い柄がグニャッと弓形にしなる。

「はあっ!」

 そして次の瞬間には、戦国武将と華族の血脈を現代に伝える少女の肢体を棒高跳びの要領で空中に跳ね上げたんだ。

「やっ!」

 続けて個人兵装を構え直し、空中で前転して軽く方向調整。

「はああぁっ!」

 裂帛の気合と共に狙いを定めれば、後は地球の重力に従って一気に急降下あるのみ。

 美しい放物線を描いて飛んだレーザーランスは、戦場のど真ん中にグッサリと突き刺さり、砕けたアスファルトの破片を吹き上げさせるのだった。

「はっ!たあっ!」

 黒煙上がる戦場へ軽やかに降り立つと、英里奈ちゃんは直ちに引き抜いたレーザーランスをダイナミックに振り回し、猿人の群れに襲い掛かっていったんだ。

「ウギッ!?」

「ギギイィィッ!」

 アスファルトの石礫を強かに浴びて傷付いた猿人達は、この電光石火の猛攻を防ぐ術など持ち合わせていなかったようだ。

 ある者は顔を貫かれ、またある者は腹を突き刺され、物言わぬ骸と化して戦場に倒れ伏していく。

 新たな死体の山が築かれるのに、そう時間はかからなかったよ。


 周囲のクローン猿怪人を粗方薙ぎ倒すと、英里奈ちゃんはランスを構え直しながら、同輩である拳銃使いの少女の傍らへサッと駆け寄ったの。

「これより援護を開始します、マリナさん!」

 腰を落として真っ直ぐ両手で携えられたレーザーランスには、流石と言うべきか微塵の隙もない。

「おっ!良いタイミングだよ、英里!これは心強い援軍だね。」

 こうして軽快な口調で応じるマリナちゃんだけど、片方を長い前髪で隠した赤い切れ長の瞳は、少しの油断もなく周囲の状況を伺っている。

 たとえ自軍がどれだけ有利な戦局になったとしても、決して気を抜かずに死角を補ってくれる。

 そう信じ合えるからこそ、私達は互いに背中を預け合えるんだよ。

「そっちの増援はもう打ち止めみたいだね、アポカリプスの猿野郎?生憎と私も英里も、まだまだ暴れ足りなくてね!もう少し付き合ってくれよ!」

 英里奈ちゃんと合流した事で、気合いは充分、英気も全開。

 敵への挑発も何時になく冴え渡っているね、マリナちゃん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相手に同情の余地はない。 だけど……オーバーキルになりそうな予感がするぜ(;゜Д゜)
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