第11章 「友情の力で悪鬼外道を裁け」
私達の体内に静脈注射で投与された生体強化ナノマシンは、アルコールを摂取する事で活性化するという面白い特性があるんだ。
これだけの回復力をウィスキーのポケット瓶一本だけで発揮出来るんだから、摂取量を増やせばその分だけナノマシンの活性化も促進されるって寸法だよ。
飲めば飲む程に強くなる。
まるで中華文化圏に伝わる酔拳みたいだね。
そういえば台湾カンフー映画の「おとめドラゴン」にも、酔拳を使う拳士が味方にいたっけ。
とはいえ英里奈ちゃんに助太刀する今に関しては、そこまで強力な力は必要なさそうだけど。
古人曰く、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」だね。
人間何事も、程々が一番だよ。
分不相応な真似をしたら、昔からろくな事が無いんだから。
現在の社会秩序の破壊という大それた野望を企てたテロリストなんかが、正しくその良い例だよ。
ユーラシア大陸で暗躍した挙句にアムール戦争を引き起こした紅露共栄軍に、サイボーグ兵士と殺人兵器による連続テロ行為でヨーロッパ全土を震撼させた鉄十字機甲軍。
自分勝手な野望を掲げて世間様に迷惑をかけた連中を挙げていったら、本当にキリがないね。
そして目下の敵である黙示協議会アポカリプスも、そんな自分勝手なテロリスト共の同類だよ。
三綱五常を意に介さない外道共には、崇高な理想と厚い友情の力で立ち向かわなくっちゃ!
「もう大丈夫!加勢するよ、英里奈ちゃん!」
「傷は癒えましたか…!それは何よりですよ、千里さん!」
レーザーライフルを抱えたハイポート走で駆け寄る私に、英里奈ちゃんは力強く応じてくれる。
全く、持つべき物は友達だよ。
こうして応急処置を済ませた私は、速やかに戦列へ復帰したんだ。
今度は英里奈ちゃんとのタッグマッチだから、審判獣との戦闘も気が楽だね。
「アハハ!鬼さん此方っと!」
首なし審判獣の出鱈目な攻撃をレーザー銃剣で捌く時にも、こういう具合に軽口を叩けるんだもの。
とはいえ過度な心理的余裕は慢心にも繋がっちゃう訳だから、適度に気を引き締めなくっちゃね。
高則誠の「琵琶記」にもあるけど、「好事魔多し」だよ。
「御存知ですか、千里さん…?マリナさんと京花さんの御二人もまた、審判獣との戦闘に突入された模様です。」
「うん、知ってる!特捜車からの通信で聞いたよ、英里奈ちゃん!「目進塾」の塾長と副塾長が変身したんでしょ?」
気品ある上官兼親友の問いかけに、私は片方の耳をツンツンと人差し指で突っつく形で応じたんだ。
こっちの耳の穴には、軍用スマホと連動させているハンズフリーイヤホンが入っているんだよ。
高速切りもみ回転の真っ最中でも問題なく通信が聞けるんだから、ハンズフリーイヤホンってホントに便利だよね。
「そいでもって、審判獣はゴリラみたいな奴とライオンのような奴の合計二体。ねっ!そうでしょ、英里奈ちゃん?」
「その通りです、千里さん!審判獣当人の自称に則り、それぞれの識別用コードネームは無支奇イエティと獅子ドゥンに指定。この二体以外に敵対勢力は存在しないとの事です!」
こうして言葉を交わしながら、私と英里奈ちゃんはツープラトン攻撃を巧みに駆使して首なし審判獣を翻弄していたんだ。
改めて考えてみると、最初の頃よりも精神的な余裕が出てきたみたいだね、我ながら。
何しろ爆弾の起爆システムは無効化出来たし、人質の小学生達も特命機動隊の手で無事に保護されたみたいだし。
ここまで来れば、後は普通に敵を倒すだけ。
面倒な気遣いなしの掃討作戦は、ある意味じゃ気楽な戦いだよね。
それもこれも、二体の審判獣をバスから叩き出して引き付けてくれているB組のサイドテールコンビの活躍あっての話だよ。
「じゃあさ、英里奈ちゃん…コイツはチャッチャと仕留めて、京花ちゃん達の援護に向かおうよ!」
B組のサイドテールコンビに限って、たかが審判獣相手に遅れを取るとは思えないよ。
そうは言っても、いつまでも死にかけの審判獣に懸かりっきりでいる訳にもいかないじゃない。
「かしこまりました、千里さん!それならば合体攻撃が最適ですね!」
察しが良くて助かるね、英里奈ちゃん。
もしも英里奈ちゃんが言い出さなかったなら、私の方から切り出そうと思っていた所だよ。