第8章 「万歳突撃!捨て身のメガパワー」
私の必殺技である「スパイラル・シューティング」で蜂の巣にされ、大半の攻撃端末を失った巴蛇ヒュドラ。
しかし相手が審判獣である以上、油断は禁物だよ。
何せ怪人という人種は、常識外れにタフネスだからね。
そんな私の注意は、今回も無駄にはならなかったんだ。
「奥の手だ!ヒュドラ火炎地獄!」
巴蛇ヒュドラの奴ったら、今度は自分の口をガバッと大きく開いて、そこから炎を吐き出したんだ。
エネルギー光弾や小型ミサイルだけじゃなくて火炎放射機まで組み込んでいるなんて、残党の分際にしては随分と豪勢な怪人だね。
こないだ倒した牛頭鬼ミノタウロスなんか、怪力とハルバート位しか武器がなかったのに。
同じ黙示協議会アポカリプスの残党でも、所属している派閥によって懐事情は違うのかな。
「黒焦げの消し炭になり、一足先に地獄へ行け!仲間もすぐに送ってやる!」
イカレたカルト教団の構成員ったら、本当に困っちゃうよね。
まだ火炎能力を披露しただけだというのに、もう勝った気でいるんだから。
それだったら私も、奥の手を披露するまでだよ。
正直、あんまり気が進まないんだけど…
「くっ…!ドリルスピン・メガパワー!」
足首、腰、肩、手首。
回転動作の基点となる箇所に血中の生体強化ナノマシンを集中させ、精神を統一して特殊能力「サイフォース」の働きを一層高めさせて。
そうする事で私は、ドリルスピンの回転速度をより一層にスピードアップする事が出来るんだ。
「何いっ…!ばっ、バカな…!」
さっきまで勝ち誇っていた蛇型怪人が、今ではひどく狼狽えている。
それも当然だね。
御自慢の炎が超高速の竜巻と化した私の風圧で吹き散らされたばかりか、あべこべに私を中心に吹き荒れる竜巻から炎が生じたんだからさ。
「お前の炎が、私に力を与えてくれた…その名も、『吹田式・ファイアードリルスピン』!」
安直なネーミングセンスと笑わないでね。
戦闘中に凝った名前を咄嗟に考える余裕なんてないし、何よりメガパワーは体力的にも精神的にも負担が大きいんだよ。
「ふ…んっ!まだまだ、これからっ!」
何しろ、こうやって途中で気合いを入れ直さないと、色々とキツいんだもの。
あんまりやりたくなかった理由が、これで分かったでしょ?
あんまり長時間は続けていられない荒技だけど、体勢を変えたら隙を突かれちゃうかも知れないからね。
こうなったら、さっさと勝負を決めるまでだよ。
「うおおおっ!レーザーライフル乱れ撃ち!」
フルオートにした個人兵装を、とにもかくにも立て続けに乱射。
高速切りもみ回転も継続しているから、大忙しだよ。
「グオッ!ガッ、グオオオオッ!」
私が個人兵装で乱れ撃ちしたレーザー光線の雨は、蛇型怪人へと面白いように命中していくんだ。
揺れるバスのルーフにしがみついていなければならないのに加えて、さっきの乱れ撃ちで攻撃端末を始めとする身体の各所を破壊されているんだもの。
とてもじゃないけど、回避にリソースなんて回せないね。
それから、火炎旋風の高熱というダメ押しだって忘れちゃいけないよ。
物理的ダメージは勿論だけど、自分の炎にやられるって精神的ダメージも馬鹿に出来ないだろうし。
にしても、怪人との間合いが大分詰まってきたね。
そろそろ、レーザーライフルをモードチェンジさせなくちゃ。
「レーザーライフル・銃剣モード!」
切り替え操作を終えた私が叫びや否や、先程まで光線を吐き続けていたレーザーライフルの銃口から、光線と同色の紅い光の刀身が生成されたんだ。
刀身を形成した時のフォトン粒子独特の芳香が、何ともグッと来ちゃうよ。
これこそ、我がレーザーライフルの近接戦用武装である所の銃剣モードだよ。
京花ちゃん達が個人兵装にしているレーザーブレードと、原理的に同じと考えてくれて大丈夫かな。
この銃剣モード、実戦で使うのは少し御無沙汰なんだよね。
まあ、日頃の戦闘訓練で磨いた技術を信じるしかないよ!
「うおおおっ!人類防衛機構、バンザ~イッ!」
やったね、手応えあり!
裂帛の気合いと共に突き出したレーザー銃剣は、憎き審判獣の喉笛を見事に捉えていたんだ。
「ガッ!アガッ…!」
もはや声も出せないのか、巴蛇ヒュドラの奴ったらビクビクと痙攣して呻き声をあげるばかりだよ。
「今だよ!マリナちゃん、京花ちゃん!コイツは私に任せて、スクールバスを止めるんだ!」
その叫び声を残して、私はレーザー銃剣を突き立てた審判獣の身体共々、バスのルーフからグラリと落ちていったんだ…