プロローグ第1章 「防人乙女、勝利の余韻」
世の中には色んな職業があるけれど、古今東西どんな職業や職種でも、業務終了時の解放感が格別なのは不変の真理だよ。
その人が仮に仕事第一のモーレツ企業戦士だったとしても、はたまた逆にグ~タラ能天気なC調社員だったとしても、退社のタイムカードをガチャンと押す時には、全く同じ思いを共有出来るんだから。
要するに、「今日も終わった…!」という解放感に満ちた清々しさだね。
私達みたいな「防人の乙女」だって、その例外じゃないよ。
特に、厄介な任務を遂行して作戦を無事に成功させた時なんかは尚更だね。
人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局の地下駐車場。
そこに停車させた武装サイドカーを降りると、私は軽く爪先立って背を伸ばしながらストレッチ代わりに腕と首をグリグリ回すのだった。
「う~ん…!終わった、終わった!」
首の動きと連動して、ツインテールに結い上げた黒髪が背中から肩へとズリ落ち、そしてまた首筋を経て定位置に落ち着く。
こうして首から上ばかり殊更に目立つ動作をしていると、頭の大きさと低い頭身が余計に目立っちゃうんだろうなあ…
目と口の大きな童顔に、頭身が低くて手足の短い幼児体型。
オマケに髪型はツインテールだから、実年齢よりもかなり幼く見られているのは重々承知しているよ、私だって。
だけど幾ら何でも、「ちさは中1の頃からまるで変わってない。」ってのはひどくない?
これでも、堺県立御子柴高等学校1年A組に在籍する現役女子高生で、配属先の人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第2支局では准佐階級の特命遊撃士なのにさ。
せめてヘアスタイルを改めたらイメージが変わるのかも知れないけど、今更ツインテールをやめたら困るんだよね。
だって、私の場合…
そんな私の思考を現実に引き戻してくれたのは、紺色の戦闘服に黒いアーマーを取り付けた、1人の特命機動隊員だった。
「お疲れ様です、吹田千里准佐。」
左の小脇に脱いだばかりのヘルメットを抱え、軍用ブーツの踵を鳴らして美しい敬礼の姿勢を取る。
右拳を左胸へと押し当てる独特の敬礼は、人類防衛機構に所属する防人乙女全員の誇りなんだ。
勿論、この上牧みなせ曹長にしても、私こと吹田千里准佐にしても、例外じゃないよ。
「ああっ…!お疲れ様です、上牧みなせ曹長!」
今年の春に堺県立大学に入学したばかりの年若い曹長に、私もまた人類防衛機構に答礼させて頂いたよ。
にしても上牧みなせ曹長ったら、細身でスタイルも良くて羨ましい限りだね。
もう3年経って女子大生になる頃には、私もこうなっているのかな。
「吹田千里准佐!貴官の見事な御活躍振り、この特等席でとくと拝見させて頂きましたよ!」
敬礼の姿勢を解いた上牧みなせ曹長は、武装サイドカーのシートに軽く手をかけ、親しげな笑顔で私に話しかけるのだった。
「レーザーライフルを用いた狙撃の緻密さたるや、さすがは東条湖蘭子上級大佐に射手として御使命される事はございますよ!」
その親しい気安さたるや、まるで近所の幼馴染みを相手する時みたいな感じだったんだ。
もっとも、上牧みなせ曹長が配属されている特命機動隊江坂分隊の皆さんと私達とは、作戦でも度々一緒になる顔馴染みだし、作戦後の打ち上げや飲み会等で定期的に同席させて貰っているからね。
「もう…!上牧みなせ曹長ったら、お世辞がお上手なんですから~!」
照れ臭さに駆られた私は、大慌ててパタパタと右手を振るのだった。
もっとも、そんな私の口調も、まるで親戚か近所のお姉さんに通信簿の成績を誉められた小学生みたいな気安い物になっていたんだけどね。
「勘弁して下さいよ、ホント…こっちは誉められる事に慣れていないんですから…」
そんな私がストラップで肩掛けしているのは、個人兵装であるレーザーライフルを収めたガンケース。
どうも私の場合、この長いツインテールは射撃時のバランサー代わりになっているみたいなんだよね。
だからこそ、ツインテールからの大胆なイメチェンに踏み切れないでいるんだ。