第1話 「スピリチュアル・エレメント」略してスピリメント!
この作品は以前私が別アカウント(現在削除済み)で連載していた作品をもとに、設定やキャラクターの関係性を見直し、もう一度ゼロから書き始めたものです。
「ついに…ついに…ついに…!!」
「えっと…紅谷くん、何がついになの?」
スマホを見て噛み締めるように呟く俺こと紅谷蓮に訝しげに声をかけるのは、隣の席に座るクラスメイトこと青海琴音さん。
高校に入学しこの座席になってから約2ヶ月。
親しい…とまではいかないまでも、良好な関係を保ってきたつもりだったが、今日で引かれてしまうかもしれない。
だがこればかりは仕方がないだろう。なぜなら、
「ついに《スピリチュアル・エレメント》のサービスが開始したんだよー!!!ひゃっほーーーーーうあだっ!?」
「うるせぇよ紅谷いいいい!!」
数学教師の怒声と共に飛んできたチョークが額にクリーンヒットし我に返る。そうだ、今は授業中だった。
慌てて周りを見渡すと、他のクラスメイト達がチラチラと俺を見ながらクスクス笑っている。
額をさすりながら恨めしそうに視線を送り返していると、再び青海さんが小声で尋ねてきた。
「だ、大丈夫?その…スピリチュアルなんたらって何?もしかして入信しちゃった?」
「違う違う!怪しい宗教とかじゃないから!スピリチュアル・エレメント、通称スピリメントはフルダイブ型のVRゲームなんだ」
「ああ〜、よかった。あれ、紅谷くんってゲーム好きだっけ?」
「いや、そうでもないよ」
俺は所謂ゲームオタクではない。もちろん人並みにソシャゲを嗜んだり、興味としてVRゲームをプレイしたこともあったが、基本的にはすぐに飽きてしまっていた。
「でも、スピリメントはすっごく楽しみにしてたんだ。なぜなら、このゲームの醍醐味は『変身』だからね」
「え、変身!?それって、―――みたいになれるってこと!?」
青海さんは興奮気味に女児向けアニメのタイトルを持ち出したがここでは伏せよう。
というか、もしかして青海さんってそっち方面詳しいのかな。
意外な共通点を感じつつ俺はニヤリと笑い答えた。
「詳しくは、休み時間に話すよ」
授業が終わると、俺はスピリメントの公式サイトを見せながら説明を始めた。
「スピリメントの世界観では、人や生き物には生まれ持った属性、つまりエレメントがあるとされているんだ。そして、プレイヤーは変身者と呼ばれていて、それぞれが持つエレメントの力を解放した姿に変身することができる」
「ふむふむ、変身した姿って自分で選べるの?私は魔法少女みたいなのがいいなあ」
「それならヒューマンタイプを選ぶといいよ。他には、機械っぽい見た目のメカタイプと、獣人間っぽいビーストタイプがあるね。この3つから選んだ後はAIが脳波を読み取って固有のアバターを生成してくれるらしいな」
こういったランダム性はゲームとして賛否両論あるらしいが、俺個人としては適性審査みたいでテンションが上がる要素だ。
「まぁ細かい説明とかは実際にゲームをやってみないと実感湧かないだろうし、俺自身もまだ分からないからとりあえずこんなところかな」
「解説ありがと!私、このゲームやってみたいなあ。変身ってすごい憧れてたんだよね〜」
こう言っては失礼かもしれないが、青海さんは少年のように目を輝かせている。正直可愛い。
「あのさ、紅谷くん。良かったら学校帰り買いに行くの付き合ってくれないかな?」
「え……うん、俺でよければ付き合うよ」
一刻も早く帰宅してログインしたい!という思いが全くなかったと言ったら嘘になるが、それよりも女子と2人で学校帰りに買い物するというシチュエーションの方がレアだし、単純にスピリメント仲間が増えるのは嬉しい。
「やった!ありがとう紅谷くん!楽しみだね」
そして何より、こんなにはしゃいで嬉しそうにしている青海さんの笑顔を見れたのだから、この上なく得したと言えるだろう。
鼓動が早まるのを感じたが、きっとこれは久しぶりにテンション高く人と話して酸素が足りなくなったからだろう。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
今回はログインするところまではいけませんでしたが、次回はスピリメントの世界にどっぷり浸かりますので!
早く変身したい!!!