第九十五幕
——
「お姉様は、将来何になりたいのですか?」
ふと、そんな声が聞こえてきた。……ミーシャ?
「私? そんなの、皇位を継ぐんだから皇帝に決まってるでしょ」
背後から、聞き馴染みのある声が響く。……私?
目を凝らせば、そこには少しばかし若き時期の二人がいた。まるで秘密基地にでもいるかの様にベットの毛布をテントの様に吊るし、中でヒソヒソと会談をする。……懐かしい。
私は、思わず呟いた。
「そうなんですか? でも、お姉様は皇帝になりたいんですか?」
「さあ…… なりたいかなんて言われても分からない。別に他にやりたいことも無いし。やるしかないのよ。産まれた時に、決まったことだから」
姫は、どこか遠い目を見せた。これって…… 二年前の私達……
「…………他にやりたいことが無いから皇帝になるって、変ですよ? もっと強い意思を見せないといけません! でないと、皇帝陛下も心配されますよ?」
「知ってるわよ…… でも、そんなこと私に言われてもね……」
「ならっ!」
ご令嬢は、声を張り上げた。
「他の人に譲れば良いじゃないですか! ほら、私の兄がいますよ? お姉様が、継承権を放棄すれば継承順位二位の兄が代わりに皇位を継いでくれます! そうすれば、お姉様も自由になれますよ?」
「さあ…… どうでしょうね〜 きっと、お父様が許さないわよ」
姫の言葉に、ご令嬢は分かりやすく顔を顰めた。
「どうかしたのミーシャ?」
「駄目ですか…………」
姫は、首を傾げた。
「私は…… お姉様に、継承権を放棄してほしいんです……」
「どうしたのよ急に。何かあったのかしら?」
「ミーシャには、お姉様しかいないんです。お友達と言える人もいません。家族とも、あまり話ません。使用人とは目も合わせません。……お姉様が、皇帝に即位されたらミーシャは、一人になってしまうんです。それは寂しいです…………」
溜息を吐く姫。すると、姫は、ご令嬢の頭に手を乗せると優しくさする様に撫でた。
「しょうがないわね。あんた、そんなんだから友達の一人もできないのよ。可哀想だから、降りたあげようかしら、継・承・権!」
姫は、僅かにほくそ笑んだ。
「本当ですか! お姉様…………」
ご令嬢は、僅かに涙を浮かべた。私、こんなこと言ったんだっけ…… こんな、冗談を言っただけで泣くなんて、本当に……
私は、胸に手を当てた。
「お父様に、相談くらいはしてあげるわ。努力はするから、そんな泣かないで。まったく…… それじゃ御嫁に行けないわよ?」
「…………約束ですよ? お姉様…………」
姫は、ご令嬢の手を握った。そうだ、思い出した。確か、この三日後だ……
「ええ。私を信じなさいミーシャ!」
「"ハイっ!"」
ご令嬢は、満面の笑みを見せた。
ミーシャの兄が暗殺されたのは………… この三日後だった…………
「偶然なんかじゃない」
私は、一人でに呟いた。
「今だから分かる。私が、あんなことを言ったからだ…… 誰かに話を聞かれていた? なら私が、殺したんだ…… 私が、あんなことを言ったから、邪魔な人間を殺したんだ。いつも、そうだったんだ。お父様は、いつもそうだったんだ…… 私の知らない所で、いつも……」
私は、唇を噛み締めた。
「私は、本当に何も知らなかったんだ…… 次は、誰が…………」
『お姉様ッ!』
脳内に、声が響いた。
「"ミーシャッ!"」
姫は、勢いよくベットから体を起こした。酷い悪夢でも見たのか、汗を流しす。
「夢………… かしら?」




