第九十幕
ご令嬢は、そう言うと扉に背をつけ、その場に座り込んだ。
「貴方…… さっき、体調が優れないって……」
「嘘ですよ。こうでもしないと、二人きりで話せないじゃないですか」
姫は、扉に詰め寄ると、ご令嬢と同じく扉に背をつけ、座り込んだ。顔の見えない中、扉越しに話を進める。
「なるほどね…… 考えたじゃない。にしても、まさか貴方が人を騙せるなんて思わなかったわ。悪知恵が働く様になったのね」
「そんなこと無いですよ? これでも、ミーシャは嘘つくのは得意なんですよ? ほら、今も上手く騙せているじゃ無いですか! それに、お姉様が思っているほどミーシャは良い子じゃありませんよ?」
「あら、誰も良い子だなんて言ってないんだけど? 自分のこと良い子だと思ってたの? 本当に良い子は、お姉様が宮内の人達に馬鹿にされているのを見て見ぬふりなんてしないものよ?」
「エッ! お姉様、そんなことがあったのですか? それは、ミーシャも許せませんよ! 確かに、お姉様は勉強が遅れていますし、婚約者もいません。聖書なんて、一ページも覚えられていませんし、皇族としての常識が有るかも怪しいです。それでも、お姉様は、この国の第一皇女なんですよ? 一体誰が……」
「"貴方よ"」
姫は、間髪を入れず応えた。
「すみません…… そんなつもりは……」
「あったでしょ」
姫の言葉に、ご令嬢は言葉を詰まらせる。
「別に良いわよ。多少は合ってるし……」「多少ッ!?」
姫は、閉まり切った窓の外をじっと見つめると、深くため息を吐いた。
「……それに今は、第一皇女じゃないからね。忘れたの? 今は貴方の方が私より立場が上なのよ? 何言われたって笑い飛ばすしかないわよ。それぐらい、私にだって分かる。でなきゃ…… 普段から、あんな偉そうにしてないわよ」
「そうでしたね…… すみません」
「フッ…… 貴方、謙虚なのね」
思わず、笑みが溢れる。
「てっきり、私を笑いに来たと思ったんだけど? ……自分で、作戦を考えておいて、それが失敗して、挙げ句の果てには継承権まで失って。貴方には私が滑稽に見えないのかしら?」
「フッ お〜姉〜様〜?」
ご令嬢は、後頭部を扉に当てると僅かに笑みを浮かべた。
「忘れたんですか? お姉様が、閉じ込められたおかげで、ミーシャ、死が、ほぼ確定したんですよ? こんな状況で、笑ってたら、それこそ良い笑い者ですよ!」
「あら、よく分かってるじゃない…………」
そう言うと、次第に姫の表情から笑みが消えた。
「…………ごめんなさいねミーシャ。もう少し、上手くやれたかもしれない。今思えば、お父様は最初から、この展開を狙っていたのかも。はなから貴方を殺す気なんて無くて、私が本を元に戻すのを待っていた。深読みし過ぎたのかもしれない。まあ、考えたところで結果論でしかないんだけど」
分かりやすく声のトーンが下がる。
「仕方ありませんよ。お姉様は、よく頑張ったと思います! それに、今回は相手が悪かったというだけですから、そんな謝らないで下さい。なんだか、こっちまで罪悪感を感じてしまいます」
ご令嬢の言葉に、姫は顔を上げた。
「それに…… 今度は私が、お姉様を助ける番ですから!」
「ミーシャ……?」
「お姉様は、今日までミーシャが死なないように守っていてくださいました。なら、今後はミーシャがお姉様を守る番なんです」
「でも…… そんなこと……」
「出来ます!」
ご令嬢は、声を張り上げた。
「出来るって、どうやって……」
「簡単ですよ」
ご令嬢は、突如その場に立ち上がると、呼吸を整える。無人の廊下を眺め、心を落ち着かせる。
「"……私が、お姉様の身代わりになります"」
そう言えば、このサイトって途中からジャンルを変更したり出来るんですね(まだやってないから確定ではないけど)。ちょっと、『推理』ジャンルだと読者も少なくて悲しいから試しにメジャーなジャンルに変更してみようかな?
変える時は、あらかじめお伝えします!




